第83話 夜襲の問題
戦闘シーンの描写が難しいです…
こちらは本日2話目です。
前話は12時の更新となります。
未読の方は是非ご覧になってください。
――この世界に来てから初めて会った存在。
それが奴、全身緑色人間だった。
厳密には、神界みたいなところで、アイネとリメに会っていた。
リメに関しては、会ったと言っていいのか疑問は残るところではあるが…
ただ純然たる異世界の存在として、初めて会ったと言えるのは、こいつだ。
「……なんだアイツは…ゴブリンなのか?」
えっ?
近くにいたバンダーの呟きに思わず反応してしまった。
バンダー以外の面々にも動揺が見られる。
よくよく見てみると、緑色人間は大小様々なパターンがいる。
そこにおかしな要素でもあるのか?
「ゴブリンじゃないのか?」
俺の問いに傍にいたレインが答えてくれる。
「子供ぐらいの大きさが所謂普通のゴブリンです。そして、オークのような筋骨隆々とした個体がゴブリンジェネラルやゴブリンキングに該当します。言い伝えですが、ロードもまた変わらないそうです。ですが…」
「なんだアイツは!まるで人間と変わらないではないか!」
OXさんが指差す方を見てみると、俺が初めて会った緑色人間さんと変わらない奴がいた。
言われてみれば、全身が緑色である点以外はヒューマン種となんら違いがないように見える。
周りの奴に比べて顔も整っていて、肌さえ誤魔化せば街中歩いていても不自然ではないだろう。
なんなら若干イケメンだ、腹が立つ。
「おかしいのか?」
「はい、正直わたくしは目にしたことがありません。これでも元Aランク冒険者ですので、ゴブリンの討伐は両手で数え切れないほどこなしております…推測の域を出ませんが、おそらくは新種だと…」
正直最初にゴブリンだと思ったヤツがヤツなので、響くものが自分にはない。
むしろ通常種とか言われている子供背丈の方に違和感を覚えるぐらいだ。
1人だけ皆の衝撃の波に乗れず、寂しく思ってしまう。
そうこうしている間に、ゴブリンの軍勢は左右に広く展開していく。
どうやら、拠点を攻める方針のようだ。
群れを展開させるとは、人間とまるで変わらないな。
一気に警戒度が上がる。
『グギャ!』
緑色人間が周囲の2m以上のゴツい体格をしているゴブリンに指示を出す。
どうやらゴツい体格の奴らがゴブリンキングらしい。
キングが従っているって何か変な感じだな。
指示を与えられたであろうゴブリンキングが戦場に散っていく。
そして、各地へ点在する、俺と背丈が変わらないぐらいのゴブリンの集団に辿り着き、さらに指示を出している。
俺と背丈が変わらないゴブリンがゴブリンジェネラルらしい。
想像以上に指揮系統が完成されているぞ。
烏合の衆というより統一された軍勢。
相手が雑魚でお馴染みのゴブリンか怪しくなってくる。
一瞬の静寂が訪れ、緊張感が走る。
そして、瞬く間に戦の火蓋が切られた。
『『『グギャグ。』』』
ゴブリンジェネラルによる掛け声と共に、普通のゴブリン達が弓矢を構える。
おいおい、まさかな…
『『『グギャー!』』』
予想通りに矢が一斉掃射され、拠点を襲う。
よりにもよって暗い夜なのだ。
放たれた矢の軌道が読みにくい。
これは戦闘じゃない、戦争だと理解した。
こちらも迎撃しないと…
「「逆巻け宙よ、翻れ奔流――ロート・ザ・ブレス!」」
高レベルの《風魔法》持ちのレインとファナによる魔法詠唱が響く。
いつもと違いカッコいい文句も述べてたから、詠唱破棄せず100%の出力ということだ。
逆を言えば、高レベルの2人が詠唱破棄するほど余裕がないということだ。
背後の上空より突風、いや空気の塊が押し寄せ、矢の群れに襲う。
大部分の矢の動きが止まるや否や、ゴブリンの軍勢に向かって飛び始めた。
どうやら、風で矢の指向性を変えたようだ。
残念ながら全ての矢を吹き戻すことは出来ず、残りの矢が拠点内へと降り注ぐ。
各自迎撃しているようで、大事に至っている者はいないり
擦り傷をした者が何人かいる程度だ。
対するゴブリンの軍勢には大打撃を与えることができた。
ジェネラル以上への損害は少ないようだが、ゴブリンのおよそ5割ほど削る大戦果を挙げた。
「やったか!」
誰かの歓喜を孕んだ声が聞こえた。
おい、フラグを建てるんじゃない。
そのフレーズはフラグランキングのトップ10には入る名文句だぞ。
『ギャーギャグギャ!』
すぐさま緑色人間からの指示が飛ぶ。
勿論ヤツは無傷だった。
合図と共に、ゴブリンジェネラルは自身の前方に魔法陣を出現させる。
正直嫌な予感しかしない。
「《眷属召喚》のスキルね…」
「なんだそれは?」
「一部の魔物の上位存在が保有するスキルよ。とても厄介なものね。」
普段の間延びした口調をしていないファナだ。
状況はそれだけ拙いということなのか!
咄嗟に《情報分解》でスキルの正体を探る。
……案の定持っていやがった。
《眷属召喚:ゴブリン》
自身より下位の同種存在を眷属として創造し、
召喚するスキル。
召喚された眷属は、自身の命令を絶対とし、自
身を害そうとした場合、その存在は霧散する。
また、自身または眷属自体の死亡時も一定時間
後にその存在は霧散する。
自身の魔力を媒体とするため、自身の魔力容量
を超える数を創造することはできない。
厄介なこと極まりないな。
つまり、魔力が持つ限りはいつまで経っても相手方の数は減らないということなんだろう。
おそらく先ほどのゴブリン達も眷属だったんだろう。
気づけば、先ほど倒したはずのゴブリンの死骸が見当たらない。
そして、魔法陣が鮮明になると同時に新たなゴブリンが出現した。
先ほどまでと変わらない…いや、多いぞ。
『『『グギャグ。』』』
やばい、このままだと一斉掃射が来るぞ。
しかも、明らかに先ほどより多い量が…
「各自魔法で迎撃しなさい。少しでも降り注ぐ矢を減らすのよ!」
ファナの指示が飛び出す。
同時に、大小様々な魔法がゴブリン達に降り注ぐ。
「焔の喝采よ、須く燃えよ、その熱宿るは、悪しき者なり――ソル・ソウル・バーニング!」
視界に入ったOXさんが詠唱すると、拳大の火の玉がゴブリンの集団へと向かって行った。
そして、直撃しそうな直前で小さくなってしまった。
失敗か?
と思ったのも束の間、一瞬で火の玉が増大し、一帯のゴブリンが焼失した。
あつ、こちらまで熱を感じたるほどの高温か。
「天を衝くは大地、その道阻むこと叶わず――サターン・ニードル!」
聞こえてきた声の方を見ると、バンダーが土魔法を唱えたところであった。
急いでゴブリンの方へ目を向けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
地面からパイプぐらいの細さの柱が数え切れないほど立っていた。
勿論その柱はその場にいたはずのゴブリン達を貫通していた。
まるで百舌のハヤニエのようだ。
「――来ます!」
レインの合図と共に再び矢が拠点へと向けて降り注ぐ。
「ちっ!」
数を減らしたように見えたが、想像以上に多い。
俺は《分解結界》を付与させたミスリル糸を展開し、《魔糸操作》で高速で回転させる。
風切り音が断続的に生じている。
庇いきれない範囲に次々と矢が突き刺さっていく。
フバツソラヌン畑にも降り注ぐため、食糧面での不安が高まる。
収穫できないレベルの損害は出したくないな…
ただこのままだとジリ貧だ。
相手は弓矢という物理攻撃なのに対して、こちらは魔法だ。
そして、何倍にも及ぶゴブリンの攻撃に対処しなくてはならない。
当然、魔力の消費も激しくなり、いつダウンしてもおかしくない。
「相手の態勢が整う前に、ジェネラル格を狙え!」
俺は皆に指示を出し、次に備える。
魔法が使えないため、俺の攻撃範囲は他の皆に比べて狭い。
ゴブリンの軍勢に届くことはないのだ。
自分の無力さが忌々しい。
だが、力はなくとも考えることはできる。
「リメ、俺の指示通り魔法を使ってくれるか?」
困った時のリメさんだ。
ポヨンポヨンと跳ね、肯定してくれている。
それなら十分だ、いける。
「火魔法を使って、高温の火の玉を出してくれ!」
すると、瞬く間に目の前に煌々と燃える火の玉が現れる。
《分解結界》で身体を覆っているはずなのに、その熱を感じてしまうほどだ。
少しの逡巡後、俺はその火の玉に触れる。
あつ…くはない、《分解結界》のおかげで体外からの作用は無効化するからだ。
そして、その表面へ《分解結界》を施し、覆っていく。
「次は、と…」
俺は《分解結界》に包まれた火の玉の周りの空気に《素材分解》を行使する。
ただ1つの気体だけ残るようにして、他全ては不要な素材として分解する。
《情報分解》で確認しながら、進める。
ゴブリンの軍勢の声が聞こえてきた。
時間も少なくなってきた。
「この辺りを可能な限り圧縮して凍らせろ!」
リメは俺の合図通り、ピキピキと凍らせていく。
青白い個体が目の前に現れ、俺はすぐに《分解結界》でその表面を覆う。
沸点も融点も低いのだ、常温に晒すとすぐに気体になってしまう。
『『『グギャグ。』』』
発射準備の合図が聞こえてきた。
どうやら間に合ったようだ。
「こんなろ!」
俺は目の前にできた青白い物体を緑色人間のいる場所へ力の限り投げる。
地球にいた頃、体力テストであったハンドボール投げで満点の評価を得たくらいに遠投は得意だ。
そして、みるみる敵陣へと迫る。
相手方はただの氷だと思っていて迎撃する気配がない。
まあ魔力も感じられないからな。
それが命取りとも知らずに…
「――俺の勝ちだ…」
青白い個体は一瞬光ったかと思うと、巨大な火の玉になり敵陣を襲った。
相手はなす術なく、その猛威に巻き込まれる。
緑色人間が巻き込まれたところも確認できた。
一瞬の静寂が訪れる。
味方の拠点のメンバーも敵のゴブリンの軍勢も動きを止めてしまった。
『グギャッ!』
どこかからかゴブリンの声が聞こえた。
『『『『グギャー!』』』』
最初の声を皮切りに、ゴブリンの軍勢は混乱に陥った。
次々と樹海の中へと消えていく。
撤退、いや逃走を始めたようだ。
その後を追うように、拠点内からは勝鬨の声が上がった。
こうして、ストラトラトスに来て初めての大規模戦闘――第1次対ゴブリン戦線は俺達の勝利で幕を下ろした。
追記(10/28)
《眷属召喚》の能力内容の一部変更を行いました。
眷属自体だけでなく、召喚者が死んだ場合でも一定時間後に存在が霧散することにしました。
次回更新日は10/30(金)です。
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