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第82話 フラグの問題

こちらは本日1話目です。

次話は18時の更新となります。

――フラグ。



自慢じゃないが、俺は割と自分で建ててしまったものに気づくタイプだ。


学校の委員会とかでこのまま終わればいいのにとか言うと、直後に追加の案件が来ることはよくあった。

雨は降らないと言って傘を持って行かないと、大抵の場合濡れてしまう流れになるのも慣れていた。


だって、それがフラグだと認識してきたから。


偶然ではなく、必然に近いものであった。

果たして運がいいのか悪いのか。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


その始まりは、ある日の夕方に狩猟組からもたらされた1つの物であった。


「東側の探索をしていたらな、あるはずがない物があったのだ。」


皆で取る夕食の準備をしていると、いつも通りの成果を上げて〈安息の樹園〉に戻ってきたOXさんがそう報告してきた。

興味が惹かれたので、作業を続けながら話の先を促す。


すると、運搬用として使っているアイテムボックスの中から1本の矢を出してきた。

思わず作業の手を止めてしまう。


特に不審な点があるようには見えないただの矢だ。

矢尻は石で出来ていて、矢柄ーー棒の部分も細い木製だ。

矢と言われてイメージする物に限りなく近い、純然たる矢だ。

よく見ると、若干だが矢尻に血がついている。

それ以外は割と綺麗で新しい物に見える。


「いたって普通の矢だな。これがどうかしたのか?」


「……不自然だと思わないか?」


聞いた当初はそれだけでは意味が分からず、首を傾げてしまった。

()()が引っ掛かっているような気がしなくもない。

しかし、その正体はまるで思いつかない。

とりあえず先を促す。


OXさんは堰が切れたように言葉を発した。

その怒鳴るような声は皆に聞こえ、そして辺りは静まり返った。


「これが落ちていたのだぞ!こんな誰もいないはずの魔境の地の真ん中に、こんな人工的で真新しい物が落ちてたんだ!あり得るわけがなかろう!」


「なっ!」


言われてみれば、間違いなく不自然だ。


アイネから聞いた話によると、この地に開拓団が赴いたことは歴史上ない。

この世界、ストラトラトスの主神たるアイネがないと言うのならそれは真理だ。

つまり、今この拠点にいるメンバー以外の人工物などあるはずがないのだ。


しかし、現に実物がある。

否定し難い現実が目の前にあるのだ。


ただ1つの可能性が思いついたので、本人に確認を取る。

頼むから、その可能性で合っていてくれ。


「……これ、ファナの矢じゃないのか?」


「違うよ〜、アタシ矢持ってないし、さらに言えばアタシが見つけたんだもの。」


謎は深まる一方だ。

ファナ以外のメンバーで《弓術》持ちはいないし、弓矢を装備している者もいない。

正直手詰まりな気がする。


ひとまず夕食を済ませてから、会議を開くことにした。




「改めて聞くけど、ファナではないんだね?」


「ええそうよ〜。アタシ、魔力で矢を生成するから、わざわざ持ち歩く必要ないもの〜。それこそ普通の矢なんてここ数十年持ってないわ。」


魔力の矢とか、数十年とか色々と気になるワードが出たが、今回はスルーする。

やはりこの拠点のメンバー以外がこの樹海にいた、もしくはいるということか。


「グライフの手の者が姫様を奪いにきた線が動機的には可能性が高いな。」


OXさんの言葉に皆肯定する。

〈レンテンド王国〉をクーデターで手中に収めたジェンナー家当主の差し金と考えるのが、最もあり得そうな話だ。


けれども、その線でもいくつか疑問が残る。


「ここを特定するのはあり得ないんじゃないか?」


「うむ…たしかにここへ逃げたことを特定することは考えられん。王家の魔道具で逃げたことは相手方も理解しているであろうが、分析したとしてもその行き先は判明できない。」


「魔力の残渣では、何を発動したか分かりますが、その作用結果までは調べられませんからね。」


OXさんの説明にレインがフォローしてくれた。

簡単に言えば、ボールを投げたことは分かるが、どの方向へどのくらいの距離投げたか分からないということか。

魔法が使えない身としては、レインのフォローはありがたかった。


「それに、この樹海まで来た手段も考えられないわね。ねえ、イース。」

「うん、ウェス。転移ができない限りは最短距離でも、少なくとも夏は終わるものね。」


「ああ、〈クロージャーゼン山脈〉か…」


10,000m超えレベルの山々が広がっているらしいからな。

ヒマラヤ山脈真っ青だな。

いつかレインに聞いたが、高さだけでなく幅も相当なものらしい。

最も短い距離でも100km超えるらしい。

正直言って、生きて突破できる気がしない。


「海路という線は?」


「いや、それは厳しいだろうな。ただでさえ不慣れな水上戦で、この樹海の高レベルな水生魔物に勝てるとは思えん。」


「じゃあ、空路…」


「それも可能性としては限りなく低いでしょう。言い伝えに過ぎませんが、山間部にはドラゴン種が生息しているらしいのです。そして魔物レベル的には、実際に生息している可能性は高いと思われます。空の覇者たるドラゴン種と戦闘になりそうな道を選ぶことは避けるでしょう。」


王国の手の者に対する否定材料が積み重なっていく。

正直、王国の手の者であってくれた方がどれほど楽か…


話し合いは紛糾の一途を辿る。



「……1ついいか?」


それまで静かに話を聞くだけだったバンダーが沈黙を破った。

このまま聞き役で徹し続けるのかと思ったが、どうやら違ったらしい。


「…この矢なんだがな。」


ゴクッ。


思わず唾を飲み込む。

この矢に秘められた信じられない真実が語られようとしている気がしたからだ。


「……著しく低い技術レベルなんだ。」


……それがどうしたのだろうか?

若干の拍子抜けである。


「……一度射たらもう使えない。計画性がないというか、継続して使うことを考慮してない作りなのだ。」


流石に矢の作りの良し悪しは俺には分からない。

しかし、《鍛冶聖》持ちのバンダーが言うからには事実なのだろう。


「……この出来から考えるに王国の手の者であるという線は薄い。明らかに装備のレベルが低いからな。」


小説や映画の知識過ぎないが、たしかにその手の者なら、しくじらないように装備は整えるだろう。

万が一を起こさないためにも、余念はないだろう。


となると…


「……誰が作ったかと言う話になる。経験のない狩猟初心者が作ったレベルだから、それ相応の者がいたことになるだろう。ただそんなレベルの者がこの樹海に来れるはずがない。」


それはそうだな。

そんなことをすれば自殺行為も甚だしい。

文字通り死にに来たようなものだ。


「……ではいったい誰なのか?自ずと結論は1つに収束される。」


「ダーリン、勿体ぶらずに答えてよ〜。それ、ダーリンの悪い癖だよ。」


「……悪いな、それこそ癖なもんでな。」


おい、イチャイチャし始めないで先を話せと言うファナを除いた皆の視線がバンダーを刺す。

ほんの少しだけ気まずそうな顔を浮かべた後、彼は己の下した結論を述べた。



「……高い知性を持った魔物だ。」



魔物の知性レベルは一部を除き、ほとんど獣レベルと変わらないと聞いた。

経験上でも、そうであった。


では例外はとなると、2パターン存在する。


1つが所謂ボス個体と呼ばれる、集団や地域のトップやそれに近い魔物だ。

群を率いたりする際に思考を巡らすことが求められ、自然と知性が高まるのだろう。


身近なところで言うと、オリ爺がそうだろう。

肩書きが、一帯の魔物の主とあったことを覚えている。


ではボス個体ではない場合は何かとなる。

答えは簡単、ヒト型の魔物である。


ヒトが先かヒト型の魔物が先か、というニワトリの卵問題はここでは置いておく。

ただ先祖を辿ると、どうやら同じ存在へと行き着くらしい。

この事実は未だ地上では発見されておらず、レインではなく、神であるアイネから教えてもらった。

ただヒト型の魔物がヒトと同じように知性を持っていても何もおかしくはないのだ。


知っている存在で言うと、アクアスキッパーが該当する。

独自の言語を持つと《情報分解》した時に分かったからな。


バンダーの推察は続く。


「……矢の大きさから考えるに、ゴブリン種である可能性が最も高い。誰か見たことある者はいるか?」


ゴブリン?

ファンタジー定番の雑魚キャラの魔物という理解で合ってるのか?

もしかしたらこの世界では非常に強い魔物として扱われているのかもしれない。

確認しなければ…


「……ゴブリンって?」


皆の視線が俺に集中する。

何言ってんのこいつ、と言外で示されている。

すごく恥ずかしい。


「あ〜、こんな場所で生活してたら普通は見ないか。標準的なゴブリンは魔物ランクFだものね〜。」


俺がこの世界の出身ではないと知っているファナが咄嗟にフォローしてくれた。


「全く持って信じられんな。いいか、サファナ殿も言ったが、ゴブリンは単体で魔物ランクFランクという初心者向け魔物だ。成長しても子供程度の低い身長で全身緑色のボディーを持つ。知性も持っており、棍棒などで武装して集団で狩りをすることもある。あと、繁殖スピードが尋常じゃなく早く、あっという間に増えていく。」


なんやかんや言って、OXさんはツンデレだから説明してくれる。

そして、俺の持っている知識とそう差はないな。


「集団の規模にもよるが、複数体相手となると連携を取ってきて討伐難易度が上がる。小さな村がゴブリンによって蹂躙されたという話は王国だけでも年数回は入ってきていた。勿論討伐に赴いたこともある。雑魚には違いないが、油断はならん相手だ。」


おいおい、やけにゴブリンさんの肩を持つじゃないか。

俺の中のゴブリンさん像を壊さないでくれよ。


「さらに厄介なのが、上位種の存在だ。繁殖スピードが早い分、より上位の存在が生まれやすくなる。ゴブリンジェネラルやゴブリンキング、ゴブリンロードといった種類が確認されている。ゴブリンロードが現れたとなると、最早災いと言っても過言ではない。昔あったとある小国がゴブリンロード率いるゴブリンの軍勢によって滅亡に追い込まれたこともあった。さらに言えば…」


やめろ、()()()()()()()()()()()()()はそんなことできるはずがない。

グギャグギャ言って襲ってくる、そんな低能っぷりがいいのだ。


ん?

俺が知っている?

待て、何故俺が知っているのだろうか。


はっ!


()()()()()()()()()()()()()の正体はそれだったのか!



ずっと引っ掛かっていたものが分かり、皆に伝えようとした瞬間、地面が揺れた。

そして、高い笛のような音が聞こえ、後を追うように東側の防壁を越えて、矢が降り注いだ。


「ちっ!」


幸い皆がいる地点までは届かなかったが、ここが襲撃されたことは明白だった。

戦える人員を引き連れ、急いで東南側の櫓へと向かう。


登った櫓から見えた景色は忘れることはないだろう。


上弦より少し経た月明かりで見れる距離には限界がある。

その限界を越えるように犇く奴等。

まだまだその先にもいるのだろう。


しかし、その中でも最も目立つヤツが目に入った。



「……お前か。」



そこにいたのは、いつか見た腰布を巻いた全身緑色の人間が立っていたのだ。

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勇者?聖者?いいえ、時代は『○者』です!
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