第80話 地球人の問題
こちらは本日1話目です。
次話は18時の更新の予定となっております。
執筆の関係で多少遅れて投稿になるかもしれませんので予めご了承下さい。
「アナタ、この世界の人間じゃないでしょ?」
生憎俺の位置からファナの顔色は窺えない。
ただ1つだけ言えるのは、先ほどの誰とでも打ち解ける明るい声色とはまるで違う、トーンの低い真面目な印象を与えるような声色であった。
思わず、唾を飲み込んでしまいそうになる。
ただそれはグッと堪える。
避けなくてはならないと本能的に告げている。
そこには形容し難い確信がある。
心臓の音が五月蝿い。
やれやれ、久しぶりにまた聞いたよ。
頼むから気づかないでくれ。
俺が途方もない緊張感に包まれている中、事態が動いた。
「ねえ…」
俺に抱きついた状態を解除しながら、先の言葉を紡ごうとするファナ。
次第に隠れていた顔が露わになる。
「なんでこんなにドキドキしてるの?」
満面の笑みで俺にそう告げるのであった。
「そんな緊張しなくていいって〜。別にとって食おうって訳じゃないんだし。」
あれ?
一転して元のおちゃらけたようなテンションに戻った。
もしかしてわざと真剣な雰囲気を醸し出した?
「まあそんな肩肘張らなくていいよ〜。今のはわざとわざと。キミさ地球ってところ出身でしょ〜?」
!
な、なんで…
まさかのワードについ驚いてしまう。
「あ〜、アタシはエルフだから長寿なのね。だから結構昔の事情とかも聞けたりしてきたからさ〜。」
え、じゃあ今ファナって何さ…
ひっ、睨まれた。
乙女の絶対不可侵領域に足を踏み入れてしまうところだった。
「今のはなかったことにしてあげる〜。アタシはピッチピチのお姉さんとでも思っておいて。」
「わ、わかった。」
「うむ、よろしい〜。」
生命の危機は脱することができた。
またレインによる長時間耐久女心講義を受けさせられるところであった。
それにしてもこの軽い感じなら気にしなくて良さそうだな。
万が一でも俺の権能があれば九死に一生は得られるだろう。
「話を戻すけど、その地球出身だって言ったら何だと言うんだ?」
「ん?あ〜、特に何も〜。強いて言うなら、アタシに地球の文化とか教えてほしいな。」
俺はその言葉を吟味しつつ、ファナの双眼を覗き込む。
うむ、濁りのない綺麗な金色だ。
何を考えているのかさっぱり分からないな。
嘘を言っているようには思えないが、どこか引っ掛かりを覚える。
しかし、所詮高校3年生でしかなかった俺の人生経験では思考を読み取ることはできない。
これ、パッシブで固有スキル発動してるだろう。
まあ考えてもしょうがないから、多少乗っておくか…
「……お察しの通り、地球って所から来たよ。」
「ヘぇ〜、ねえねえはキミは転生と転移どっちなの〜?あっ、こんな辺鄙な所いるんだから転移っぽいね〜。」
「それも正解、身体はそのままでの転移だよ。」
想定外の角度から切り込んでこられたな。
転移なのか転生なのか聞かれるとは思わなかった。
というか、そのシステムを何故知っているんだ?
「ふ〜ん、そして固有スキルを貰えたと?」
「まあそんなとこ…おい、なんで俺が固有スキル持ちと決めつけるんだ!」
次々と飛び出す、まるで知っているかのようなコメント。
まさか、神かその関係者ってやつなのか?
「……まさか!」
「ふふっ、気づいちゃったか…」
ファナは妖艶な様子で下唇を舌で舐める。
ほんの僅かな仕草であった。
まさに傾国、その言葉がこれ以上ないほど似合っていた。
いつぞや俺のファーストキスを捧げた女を思い起こしてしまった。
「こんなもんでいいか?」
「もう、最後までちゃんと乗ってきてよ〜。」
流石に慣れてきたな。
巫山戯ますよ感が伝わってきたからな。
固有スキルの影響かもしれないが、悪意は感じなかった。
さっと《情報分解》してみる。
やはり立場は変わらず中立か。
「ん〜、教えてもいいけどもう後戻りできないわよ〜?」
だからなんで先ほどから一々物言いが物騒なんだ?
「構わないよ。ここまで来て分からないって方が嫌だな。」
「ふふっ、簡単な話よ〜、アタシの先祖。といっても父方の曽祖父なんだけど地球人だったんだ〜。」
!
衝撃の事実ってやつだな。
まさか地球人の血脈と出会うとは。
そして、話を聞いていくと面白いことが分かった。
本来、この世界では同じ種族は同じ種族内で番となり、子を成すことが当たり前とされている。
エルフはエルフと、ドワーフはドワーフと結婚するといった感じが通常だ。
この原因として、子供の種族が関わってくる。
子供の種族は、当たり前だが親の種族の影響が大きい。
同じ種族同士だと、子供は同じ種族になるか、ごく稀に上位種族となるとされている。
そして、違う種族同士の子供は、一部例外を除き親の種族の特徴を半分ずつ受け継ぐことになる。
例えばだが、ヒューマンとドワーフのような存在がいたとする。
この拠点にいる双子妻のイースとウェスが該当する。
大人であるにも関わらず、身長がそれこそ140cmに届くかどうかという所にドワーフの因子が感じられる。
そして、この際当人の種族は他者ごとによって変わってくる。
ヒューマン側の人間からしたら、ドワーフとの合いの子なので、ハーフドワーフとなる。
一方のドワーフ側からすると、ハイヒューマンだ。
ヒューマンでもドワーフでもない視点からは、ただ単純に何も付かないハーフとして認識される。
非常に種族として不安定になるのだ。
そのため、この世界では異種族婚は禁止されていないものの、若干忌避されている。
ちなみにハーフが子供を成す時は両親のどちらかの因子だけが作用する。
先の例のイースやウェスの場合はヒューマンかドワーフどちらかの因子が働く。
その子供達であるポアロとルテアはそれぞれヒューマンの因子が働いたため、ヒューマンであるOXさんとの子供で純粋なヒューマンとして生まれた。
どちらの因子が働くかは自身で指定できず、運任せになっている。
長々と話をしていたが、ここで地球人が登場する。
地球人はかなり特異な存在となる。
先ほど例外を除き異種族同士の子はハーフになると言ったが、地球人がその例外に該当する。
地球人は一応分類的にはヒューマンである。
ヒューマンと子を成せば、勿論ヒューマンの子供が生まれる。
では、ヒューマン以外の種族とはどうなるのか。
答えは単純で、その相手方の種族をそのまま受け継ぐのだ。
例えば地球人とドワーフで子を成した場合は、ドワーフの因子だけ受け継いでドワーフが生まれる。
しかも、上位存在であるハイドワーフが生まれる可能性が通常に比べて格段に上昇するらしい。
世界を越えて移動する際に遺伝子が劣性化することが原因と考えられるらしいが、詳しいメカニズムは解明されていないみたいだ。
まあ遺伝子学がこの世界で発展しているとは思えないので確認しようがないが、おそらく正しいのだろう。
「ふーん、それはなかなか面白い話だな。」
「そうなのよ〜、曽祖母はごく普通のエルフだったらしいの。けど、蓋を開けてみれば、生まれてきた子はエルフで、しかもハイエルフだったの。当初は理由が分からずに一悶着あったって聞いてるわ。」
「それでその理由とやらを探したと?」
「そ〜。幸いエルフは寿命が長いので、探し物に困らないし学者思考が多いの。それで様々な文献を読み漁って、辿りついた結論がさっきのになる。」
「ということは地球人以外もいたのか?はたまた、いたのか?」
「ええ、文献上にいたわよ。今ももしかしたらいるかもしれないわね。」
ちなみにその他の世界の名前を聞いてみた。
すると、l@5キ?R…とか4#&C$…とか俺には聞き取れない単語が出てきた。
発声方法も分からないので、非常にその世界のことに興味はあるが調べるのは断念した方が良さそうだ。
「それで結局話したかったってことはこのことなのか?」
「そ〜。ちょっと気になったから確認ね。まさか予想が当たるとは思わなかったわ〜。」
よく言うよ。
ほとんど確信を持った上で言ってきてただろうに。
「まあお互いの出自は他の人には内緒ということにしとこう。面倒なことになりそうだ。」
「ふふっ、いいわよ〜。けどどうせ、アナタの子供が生まれたらバレちゃうわよ。」
「その時はその時だ。」
ついつい苦笑いを浮かべてしまう。
案外ファナとはよろしくやって行けそうだ。
「じゃあそろそろ夜遅いから帰るわ。」
「ええ、次は地球のことを教えてね〜。」
「ああ、いいよ。その代わり俺にもこの世界のことをもっと教えてほしい。」
「ふふっ、取引成立ね。」
そして、その後アイネに確認した。
『その理解で合ってるわよ。と言うことで私と子供作ったら神様になっちゃうかもね。こればかりは先例がいないから分からないわよ。』
どうやら、神様の父親になるかもしれません。
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