第78話 定番の問題①
こちらは本日1話目です。
次話は18時の更新の予定となっております。
執筆の関係で多少遅れて投稿になるかもしれませんので予めご了承下さい。
100話あたりで登場人物紹介を書こうと思っています。
書いて欲しい項目があったら、感想欄等で教えて下さい!
「ファンタジーやん…」
俺は今猛烈に感動している。
思わず口から言葉が飛び出してしまったほどに。
まあ幸いにも、俺の言葉に気付いた者はいなかったようだ。
目の前に現れた見知らぬ2人がファンタジー定番の種族であったから驚いてもしょうがないよね。
片や、耳の先が尖った長身スレンダー美女。
片や、小柄で筋肉質な男性。
エルフとドワーフに違いない!
俺が読んでいた異世界ものだと、順番に出会っていくパターンが多かった。
そして、この世界でもおそらくそうであろうと考えていた。
しかし、その予想は大きく裏切られた。
勿論いい意味で。
しまった、またトリップしかけてしまった。
早速挨拶しないとな。
時刻は既に夕方。
夏真っ盛りで日が沈むのが遅いことを考慮すると午後6時ぐらいだろう。
俺を含め〈安息の樹園〉にいるメンバー全員は居住部の中心へと集まっていた。
「姫様は無事だろうか…」
隣のOXさんが非常に五月蝿い。
一定時間ごとに同じセリフを口にしている。
まるでRPGに出てくる説明役のNPCだ。
なんならほとんど等間隔でぼやくからメトロノームのようでもある。
この状況になった原因は、昨夜まで遡る。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「私だけ何もしていないのは心苦しいのです。ジョー様、どうか私に仕事を与えてくれませんか?」
かなり真剣な顔の姫様にそう相談された。
人の布団の中でクンクンしている様子とはまるっきり違う、出会った当初の思い詰めた表情であった。
いつか来るだろうと構えていた。
だから、真摯に応えてあげようと思っていた。
しかし、これまたかなりの難題なのだ。
現在、この拠点内にある仕事は大きく分けて、狩猟、農作物管理、魔道具作成の3つである。
狩猟は、拠点外に赴き魔物を狩るなどして、食糧や衣服の材料を入手することを目的としている。
農作物管理は、拠点内のフバツソラヌン畑及び果樹園の管理作業が仕事である。
魔道具作成は、言葉通りに既存の魔道具の量産と新たな魔道具の創造を目指している。
ただ悲しいかな。
姫様はどの仕事も担当になることはできないのだ。
とりあえず魔道具作成は《魔道具作成》のスキルがないとお話しにならないから除外される。
可能なら俺だってこの業務に携わりたいぐらいだ。
農作物管理は姫様の身分的な問題が強く出た。
そう、農作業センスが壊滅的なのだ。
フバツソラヌンの間引きも健康なものから取り除こうとする。
果樹も収穫させると必ずと言っていいほど、まだ熟れ切っていないものばかり集めてくる。
まあある意味センスの塊なのかもしれんないな。
そして、最後の選択肢の狩猟。
適正に関しては、特別な固有スキル《囲い守られるモノ》や強力なスキル《コア魔術大全・中級》《王威》などと十分に戦うための能力が揃っているため、あると言っても過言ではない。
しかし、危険だからと、OXさんのこれ以上ない反対により同行することが叶わない。
過保護すぎるんじゃないかと常々思っている。
結果として、姫様は基本的に手持ち無沙汰なのだ。
そして、それが姫様にとって負担になっている。
俺は頭をフル回転させて考える。
姫様にできることは何なのだ?
姫様に頼むことは何が良いのだろう?
悩んで、悩んで、悩んだ。
そして、俺は姫様に1つのお使いを頼んだのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一応、万全は期したつもりだ。
目に見える護衛という形でレインとワーネに同行してもらった。
後、他のメンバーにバレないようにこっそりとリメにもついて行ってもらった。
案外最後までバレなかったんじゃないかな?
そして、ぼちぼち帰還して来る時間なのだ。
詳しい距離に関するデータがないから明言できないが、伝聞情報によるとここと目的地〈スウィーセファンド〉の時差は3時間程度だ。
向こうの昼過ぎになり次第、目的を達せずとも帰還するように指示をしている。
レインが心当たりがあると言ってくれたおかげで、目星もついている。
冒険者時代の知り合いだとか言っていたな。
さほど時間は掛からないで接触まで至れるはずだ。
まあ一度の訪問で納得してもらえるとは考えていない。
王家の魔道具用の魔石も十分あるとはいえ、その消費量は馬鹿にならない。
三顧の礼で済むことを願うよ。
ん、来たかな?
周囲の気配が変わったような気がした。
実際に転移して来るところを見るのは初めてだな。
ふと地面を見ると、いかにも魔法陣らしきものが浮かび上がっていた。
文字らしきものが描かれているが、勿論読めない。
よくある《言語理解》によるチートは存在しないのだ。
そして、魔法陣の中心から稲光のようなものが走った。
だが、それもまさに文字通り一瞬のこと。
瞬きした途端、魔法陣があった場所に5人の人影があったのだ。
「お疲れ様、無事だったか?」
「はい、ご主人様。問題はありませんでした。」
人影の中の1つが答える。
勿論、見知った顔のレインだ。
それにしても、問題ないではなく、問題はなかったね。
これは一悶着あったけど、解決できたというニュアンスかな?
おそらくガラの悪い連中に絡まれたんだろう。
異世界ものあるあるだし。
チラッと姫様とワーネに目を向けるも、別段気にした様子もない。
いや、よく見ると若干姫様が申し訳なさそうな感じを醸し出している。
なるほど姫様関係であったのか。
まあ解決したのなら問題ない。
――技術要員の確保。
それが俺の頼んだお使いであった。
この〈安息の樹園〉の生産レベルは残念なことにまだまだ低い。
リメの《生み出すモノ》がなくなった今、細々とした加工品の生産ができていない。
固有スキルが使えなくなって以降、新たに生み出したと言える品物など家屋用のガラスぐらいしかない。
それも透明度の低い、窓辺を塞ぐことだけを目的にしたようなレベルでしかない。
今ここにある加工品の多くはリメに予め作ってもらった物であるのだ。
しかし、当たり前なことで消耗もしていく。
中でも狩猟組の衣類関連がハイペースだ。
ただでさえ生傷の絶えない魔物との戦闘であるにも関わらず、その魔物のレベルが総じて高い。
必然的に損耗率も高くなってしまう。
一応暇な時間があれば、女性陣を中心に衣類の作成はしてもらっている。
ただそれで作れるものは大抵毛皮をただ合わせて縫っただけという、かなりワイルドなものにしかならない。
この現状は早々に打開しなくてはならない。
そして、その打開策として考えたのが、外部への委託である。
ただここにいるメンバーを考えると、外交的な問題で完全な外部委託だと支障をきたしてしまう。
外部との接触が増えると、その分第三者の目に留まる可能性も上がっていく。
結果として、下手なことをした場合、〈レンテンド王国〉側にバレてしまう恐れがある。
その最悪な事態は避けなくてはならない。
そのため、外部からここへ来てもらうという選択肢を取った。
勿論始めはこんな無謀なことを選ぶつもりはなかった。
誰が好き好んで〈不抜の樹海〉というこの世の地獄に足を踏み入れないといけないのだろうか?
現実的な話ではなかったので、誰かを呼び寄せることなど却下しようとした。
それこそ、極力第三者からバレない形で外部との交易をすればいいと考えようとした。
しかし、このお使いの話をしていた時に、レインが待ったを掛けてくれた。
自分には当てがある、と。
レインと暮らして2ヶ月半ほど経った。
流石にそれだけの間過ごしていると、レインのことをいくつか知れた、と考えている。
その1つが、レインは決して無茶をしない言わないということだ。
きちんと自分の領分を把握していて、余程のことがない限りはその範囲外のことをしようとしない。
だから、レインができると言ったことはできるのだし、できないと言ったことはできないのだ。
そんなレインが今回は当てがあると言った。
つまり、分の悪い賭けではないということにつながる。
ならば、とその賭けにベットすることにしたのだ。
その結果が今目の前にいる2人、ファンタジーの具現なのだ。
俺は接触を図ることにした。
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