第75話 チンピラの問題
こちらは本日2話目です。
前話は12時の更新となります。
未読の方は是非ご覧になってください。
◇匂いフェチ姫様・フィアナの視点
「じゃあよろしく頼むよ。一応危なくなったら、目的達成しなくても帰ってきてもらって構わないから、自分の身だけは気をつけてくれ。」
「はい、承知致しました。必ずやご期待に応えさせていただきます!」
ジョー様は出発の前に声を掛けてくれました。
すかさず手を取って返事をしました。
さりげなく匂いを嗅いだのできっとバレていないはずです。
近くにいたレインさんが一瞬怪訝な顔をしたのもきっと気のせいです。
ふふっ、もし順調に与えられた任務をこなせたら御褒美を強請ることにしましょう。
脱ぎたてのシャツあたりなら貰えるはずです。
私はそんな素敵な計画を抱きながら、数人と共に〈安息の樹園〉から転移しました。
王家秘伝の魔道具を使うのも久しぶりな気がします。
元々そう使って良い品物ではありませんでしたが、亡命した時期に多用したものですから、つい懐かしんでしまいました。
いけないいけない、しっかりやるべきことをやりませんと。
「それでどちらまで行けばいいのでしょうか?」
私は今回の先導役であるレインさんに 質問しました。
どうやらレインさんの知り合いに今回の白羽の矢が立ったみたいなのです。
「こちらです。離れないようついて来てください。治安が比較的保たれているエリアとはいえ、素行の悪い冒険者も多いので…」
フードを目元を隠すように被り、先へ行くレインさんについて行きます。
その私の後ろを護衛担当のワーネさんが同じような格好で追随しています。
それにしても、ここ――〈スウィーセファンド〉に来たのは今回で2回目ですが随分と活気がありますね。
前回は馬車の中から街並みを見たりしたため、まともに市内を探索するのは初めてです。
ついつい気が緩んでしまい、辺りをキョロキョロと見回してしまいます。
「……姫様、落ち着いてください。人が多いのでぶつかってしまいます。」
ワーネに注意されてしまいました。
けれど、事実なのできちんと受け入れます。
そして、前を向いて歩き始めたその時でした。
前方より見るからに怪しそうな3人組が歩いて来ました。
髪型はおでこから後頭部までの一帯以外つるつるで残った部分は信じられないぐらい逆立っていました。
服装も肩にトゲトゲと見るからに痛々しそうなパッドをつけた、まさにこの世の終わりに現れそうな倫理観の欠如を思わせる格好でした。
歩いている位置を考えると、このままだとぶつかってしまいそうです。
私はぶつからないように避けました。
しかし…
ドン。
「きゃっ!」
何故かその人達とぶつかってしまいました。
ぶつからないはずの位置に避けたのに…
すると、ぶつかってしまった人がニヤリと笑うと、大声で話し始めました。
「おおおお、痛てててて。これは足が折れちまったな。」
「ひゃっはー!大丈夫かよ、アニキ。」
「ヒャッハー!これは大怪我っすね。ぶつかったヤツに慰謝料貰わないとっすね。」
そう言ってぶつかられた人ではない2人が私に詰め寄って来ました。
身体の大きな男性に囲まれて、正直言って怖いです。
2人は下卑た笑みを浮かべ私が被っていたフードを捲り上げました。
第五王女であるため、世間にあまり顔を認知されていませんが、それでも見知らぬ地で顔を晒されるのは困ります。
「や、止めてください。」
私は必死に抵抗します。
気が動転していて、能力を使うのを忘れてしまうぐらいに。
「ひゃっはー!お前さんはアニキぶつかったんだぜ?それでアニキの足が折れちまったんだよ。慰謝料払わないとな。」
「ヒャッハー!まあ俺達ら優しいっすから、金貨100枚で許してやるっすよ。」
金貨1000枚?
つまり白金貨10枚じゃないですか!
そんな法外な値段など聞いたことがありません。
王宮仕えの治癒師でも月給金貨50枚でしたのに…
「む、無理です。そんな大金払えません。」
「フィア様!」
すぐにワーネが助けに入ってくれました。
ジョー様に人前では偽名を使うように言われていたので、フィアと呼ばせていました。
しかし、ワーネが間に入っても状況はあまり変わりません。
流石に大の大人3人は手に余ってしまうようです。
「ひゃっはー!お姉さん、怪我させたら治療費を払う。これは常識だぜ?」
「ヒャッハー!ほんとは白金貨10枚で許してやるところを金貨で許してやるんすよ?だいぶ良心的だと思うんすけど?」
「黙れ、そんな法外な金額払えるか!」
「ああ、待て待て。お前ら落ち着けよ。」
すると、今まで黙っていたリーダーのような男が話に割り込んできました。
ぶつかったと思われる足も普通に動かしているように見えるのは気のせいでしょうか?
「あ、あの、足が折れていないように…」
「おおおお、痛てててて。無理して歩くもんじゃねえな。お前らが大人しく払わないから、悪化してじゃねえか。」
酷い言いがかりです!
しかし、真実が分からない今は強く言えません。
私とワーネが押し黙ると、リーダー格の男は下卑た笑みを浮かべたまま諭すように語り始めた。
「まあ、無理に金で払わなくてもいいぜ?幸い2人とも別嬪さんだ。ちょちょいと一晩相手してくれたらいいさ。」
訂正、最悪な笑みでした。
さらに子分であろう2人の嘲りも続きます。
「ひゃっはー!俺らはこう見えて、ベテランでよ。お互いウィンウィンな時間を過ごせるだろうぜ。」
「ヒャッハー!まあ夜が歩ける頃には、もう離れられない身体になってるかもしれないけどっすね。」
気付いたら、周りにいた人々がヒソヒソと話をしていました。
「また"ワルデン"の奴らかよ。」
「アイツらも懲りないよな?あの子達も可愛そうに…」
「衛兵はまだ来ないのか?」
「どうやらこの辺りの衛兵と癒着しているって噂があるわよ。」
「最低!女の敵ね。」
「あれ?あの可愛い子どこかで見たことあるよな…」
どうやら完全な厄介ごとに巻き込まれてしまったようです。
しかも、私を見たことがあるような声が聞こえて来たので長居できません。
けれども、どう対処したらいいのか分かりません。
「いいから、もうさっさと来いよ!」
リーダー格の男が一瞬で詰め寄り、私の腕を掴もうとして来ました。
「きゃっ!や、やめて…」
「そこまでにしなさい!」
楽器のように澄み渡る声が辺りの喧騒を支配しました。
そして、まるでここに雑多などなかったようなシンと空気が漂います。
「だ、誰だ!お、俺達の邪魔をするんじゃねえ!」
その声の正体――レインさんが歩み出て来ました。
その手にはジョー様はお手製という槍が握られていました。
リーダー格の男は声の主が女性だということもあり、下卑た笑みを絶やしません。
「なんだ、正義感の強い姉ちゃんだな。大人しくしないとお前も同じ目に「ねえ、貴方の足でぶつかって折れたというのはどちらですか?」…へっ?」
男は、自分の言葉の途中に割り込まれ、不機嫌そうになりつつも、質問の意図をつかめず、呆気に取られています。
レインさんはそんな男の状態を気にせず、同じ質問を繰り返しました。
「あっ?右だよ右。右の足が折れたんだよ!」
「そう、分かりました。」
すると、レインさんの姿が一瞬でぶれて、何かが折れる音がしました。
姿がぶれたのも一瞬で気づいた頃には、また同じ姿勢へと戻っていました。
「ぐぎゃゃゃゃゃゃゃ!」
突然リーダー格の男が右足を抑え苦しみ始めました。
見ると、右足はまるで糸で繋がっているようにプラプラとしています。
「まだ何か言うことありますか?」
レインさんは微笑みを浮かべたまま彼らに問います。
ただ、その微笑みは誰も許さない氷点下と言う比喩で済まなそうなほど冷たい印象を受けました。
「お、思い出したぞ!こいつ"白銀の戦姫"だ!」
「俺達の敵う相手じゃねえっすよ、逃げるっすよ!」
口癖を忘れてしまうほど動揺した子分2人はリーダー格の男を担いで逃げて行きました。
すると、静寂に包まれていた周囲はまるで止まっていた時間が動き出したように五月蝿くなりました。
「おい、まじかよ!"白銀の戦姫"レインだ!」
「英雄の凱旋だ!まさか見れるとは思わなかった。こんなに美しいなんて…」
「誰だよ、レインって?」
「お、お前知らないのかよ。Sランク相手にも勝てたAランク冒険者で、常勝無敗の女冒険者だぞ!」
「さっきの攻撃見えたか?気付いたら相手の足が折れてたぞ!」
「けど、冒険者辞めたって聞いたぞ。どこかの貴族様に仕えてるって噂だったんだが…」
「レインだと?何故こんなところに…報告しなくては…」
騒ぎはどんどんと大きくなります。
レインさんが有名な冒険者だと言うことは知っていましたが、想像以上です。
どことなくレインさんも煩わしそう。
すると、レインさんはこちらにアイコンタクトをして来ました。
まるで何か伝えたいような…
はっ、そうです。
ジョー様からのお使いをこなさなくては!
未だ喧騒の大きいその場所を離脱して、私達は一路目的地へと急行した。
勿論レインさんへの感謝の言葉も忘れませんでした。
ただ時折聞こえた私達を知っているような声は気になりました。
帰ったら報告しませんと。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◇数日後の〈レンテンド王国〉の王城執務室にて
「――何?フィアナ姫が〈スウィーセファンド〉にいただと!」
俺は今間者からもたらされた報告に驚いた。
まさかこんなに早くフィアナの居場所を掴めるとはな。
今までやっていた執務を放棄して、俺はその報告の先を促す。
「はっ!〈スウィーセファンド〉の市内にて、チンピラと思しき連中に絡まれ騒ぎになっていた所を確認しました。」
チンピラだと?
俺の物に手を出すとは不敬な奴らだ。
後で裏の人間達を手配して、暗殺してもらうことにしよう。
「それで騒ぎはどうなったのだ?」
「はっ!"白銀の戦姫"なる女冒険者が介に「ちょっと待て、"白銀の戦姫"だと?」」
つい報告に口を挟んでしまった。
我ながららしくもないことをしてしまった。
しかし、無視できない存在が出て来てしまった。
「"白銀の戦姫"が本当にいたのか?」
「はっ!容姿が該当し、視認困難な一撃を見舞ったこともあり、間違いないかと。」
まさか、レインも〈スウィーセファンド〉にいたとはな。
これは思わぬ幸運だ。
フィアナとレインの両者を手に入れるチャンスだ!
「して、その後の足取りは?」
「はっ!騒ぎに乗じて逃走、追跡を図るも叶わなかったとのことです。」
「何だと!この役立たずが!」
「ひっ、も、申し訳ございません。」
「すぐに担当の間者を殺せ!」
とてもじゃないが、そのまま〈スウィーセファンド〉に留まり続けるとは思えない。
このチャンスを逃すわけにはいかないのだ。
「すぐに〈スウィーセファンド〉に送る間者を増員しろ!倍の10人、いや20人派遣するんだ!」
「は、はっ!承知致しました。すぐに動きます。」
慌ただしく執務室から出て行く諜報局の長。
レイン相手だ、とてもじゃないが手は足りないだろう。
「すぐに軍部を呼び出せ!」
使用人に命を与え、軍部の幹部を招集する。
兵を差し向けるレベルでないと、レインを御することはできないだろう。
幹部との会議で反対意見を述べる者を粛清し、俺の意見を無理やり通した。
そして、〈スウィーセファンド〉と我が国の境界に対する一個兵団の派遣が決まった。
その数日後、俺にもたらされた報告は俺の期待を大きく裏切る結果となった。
そして、八つ当たり気味に諜報部の長を粛清した。
――フィアナ姫及びレイン、共に〈スウィーセファンド〉より存在消失し、現在行方不明。
次回更新日は10/15(木)です。
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