第71話 海岸の問題②
こちらは本日2話目です。
前話は12時の更新となります。
未読の方は是非ご覧になってください。
「ぶはっ。まじかよ、その釣果!」
ある場所に寄ってから拠点に帰ってきてそうそう、リークに中身なしクラスターフィッシュだけしか手に入らなかったことを弄られた。
「五月蝿い、こっちだって予想外だったんだよ。そんなこと言うなら、リークの飯はこれだな。」
「おい、それはやめろ。そんな得体の知れない物食べたいわけないだろ!」
どうやら、クラスターフィッシュは一般的な魔物ではないらしい。
他の皆も初めて見たらしく興味津々だ。
「なんかブヨブヨしてるわね…」
「この中に小魚が入っていたと…どれくらい入ってたんですか?」
「ふむ、これはなんとも面妖な生態だな…」
触った感じ、クラゲが近いかな?
無味無臭って言ってたし、多分クラゲと同じ食べ方するのがベストだろう。
クラゲとなると…酢醤油か?
まあ酢醤油なんて用意できないから、今は食べるのは断念するか。
リークの夕飯分に1つだけ残して、リメにあげる。
リメはスライムということもあり、味覚がないので、基本的になんでも食べてくれる。
流石に釣った以上は消費しないといけないから、ちょうど良かった。
それに喜んで食べてくれているようで、俺も嬉しい。
拠点は半分以上できていた。
この短時間と考えると、なかなかの作業スピードだな。
「いやー、向こうの拠点で散々作りましたからね。ははっ、慣れってやつですよ。」
やはり《建築》Lv7は…ん?
おお、Lv8になってるじゃん!
これはおめでとう。
相手の能力を知れるということは、元々のメンバーと双子妻以外には知られていないので、心の中でケングを祝福する。
そして、優先的に立ててくれたトイレ予定の家屋に入り、トイレを作っていく。
勿論トイレは水洗式とかではなく、〈安息の樹園〉と同じ分解式トイレである。
個人的には温水便座の様に事後の排泄器官を洗浄できない点以外は性能的に上だと自負している。
少なくともこの世界では最高ランクだろう。
初めて拠点に来た人で驚かなかった者はいないのだからな。
その後、夕飯になり、本日の作業は終了した。
リークにはしっかりクラスターフィッシュの残骸を出してあげた。
勿論一悶着あったが、興味はあるらしく食べていた。
さらに、俺も含めリーク以外の面々も興味があったので、結局皆がそれぞれ一口は食べた。
うむ、何も味がしない。
昨日に引き続き、雲一つない青空が上空に広がっていた。
俺は昨日に引き続き海辺にいる。
どうやら拠点の建築作業は昼頃には終わる見込みらしく、それほど時間がかからないらしい。
身体強化系スキルを持たない俺が手伝うこともないので、昨日のリベンジを兼ねてまた釣りへと繰り出したのだ。
最早宿命なのだろうか、まともな物が釣れる気配がない。
ザバン、パン。
チュチュチュチュチュン。
ザバン、パン。
チュチュチュチュチュン。
ザバン、ケェー!
スパン、バタン。
………………
もう嫌になってきた。
釣れはするんだ。
釣れはするのに、釣果にならないものしかない。
釣れたのは、クラスターフィッシュとアクアスキッパーだけだ。
アクアスキッパーを釣れたと解釈していいのかは、我ながら疑問である。
比率で言うと、2:1ぐらいの頻度だ。
気づけば太陽は中天にかかっていた。
つまり次がラストチャンスだ。
くっ、このままではまたリークに馬鹿にされてしまう。
このままではいけない!
俺は再び釣り糸を垂らした。
ここで持っている系の主人公なら何か事態が変化する様な物体を釣り上げるのだろう。
怪しげな宝箱や卵、鍵や剣、流されてきた人…
気づくと、糸が引かれてる。
ぐっ、今までにない引きだ。
このままだと引っ張られそうだ。
だが、負けるか!
これで俺は逆転満塁サヨナラホームランを打つんだ。
うおおおおお。
ドパン!
今までにない音がした。
これは大物だぞ!
釣れたものに目を向けた。
『『ケェー!』』
……2匹のアクアスキッパーが釣れた。
まあそんな奇跡みたいなことは起こることはなかった。
そうだよな。
ホッとしたような残念なような微妙な気持ちのまま、釣り上げたアクアスキッパーを一刀両断した。
「昨日よりはマシじゃないか。2種類も獲れたんだろう?」
リークの弄りにも慣れてきている自分がいた。
別にいいし、そんなことしているうちにワーネからまたキスしてもらうぞ。
適当に流しつつ、俺は出来上がった拠点を見る。
まあ〈安息の樹園〉にある家屋とそう違いがあるわけではない。
リビング用の大きな部屋1つと寝室兼私室の部屋5つである。
流石に浴室は作る余裕なかったか…
「えっ、浴室作った方が良かったんですかい?」
そう言えば、この世界に浴室があるのは貴族など裕福な家庭だと聞いたな。
この辺りはどうも地球にいた頃を基準に考えてしまう。
汚れを落とす分には生活魔法使えれば問題ない世界なんだもんな。
便利というか勿体ないというか。
今夜もリメに綺麗にしてもらおう。
簡単に昼食を済ませて、今後の方針を話し合う。
「それで海に来た目的は果たせそうなのか?」
話し合いをする時は、基本的にOXさんが取り仕切ってくれるから楽だ。
自分はリーダーとかやりたい人間ではないからな。
「塩に関しては慣れてるからこの後取り掛かれば、今日中に十分な量を採れるよ。」
まず、最優先事項が海塩の補充である。
姫様一行という急激な人口増加により、塩の消費量が増えたのだ。
俺より食べる成人男性の方が多いこともあり、単純な倍増で済まなかったのもあった。
女性陣も何気によく食べるんだよな。
そのままだと…
――殺気!
不用意に思考を進めようとしたら、ワーネから睨まれた。
まだ何も言っていないのに…
皆の食べっぷりを考えるのはやめておこう。
さらに、冬に備えて保存食作りに着手する必要が生まれ、現状できそうなのが塩漬けのみであるため、それに対応できるだけの量が必要になるからだ。
他の保存食も作れればいいんだが、生憎と材料と技術がないからね。
「それで新しい調味料作りはどうしたの?」
「ダメなんだろう?釣りしてるぐらいなんだから、おそらく魚関係なんだろうし。」
ぐっ、痛いところを突いてきたな。
次が、前回チャレンジ出来ず仕舞いだった魚醤作りだ。
一応、クラスターフィッシュは釣れるから、魚が確保できないなんてことはない。
しかし、今の俺だけだと数日程度で釣れるようになる気がしない。
クラスターフィッシュの呪いでも掛かってる気がしてきた。
ここにいるメンバーで確保できる手段を考え出さないとな。
リメの《ストッカー》でクラスターフィッシュから放出された瞬間に確保できればいいんだが、まだその瞬間小魚は生きてるからな…
生命活動しているうちは効果対象外なんだよ。
「そういえば、ダメ元とか言ってたやつはどうだったんです?」
「それは釣り以上に全くもって成果なし。捜索は断念した。」
そう、前回はなかった3つ目の目的。
それはレインの漂着地点付近の探索だ。
昨日拠点に戻ってくる前に寄ったのは、そこであった。
レインの話だといくつかの食糧や日用品を船に載せていたらしい。
中には小麦などの植物の種などもあったらしく、食糧環境の改善の一助になる可能性があったのだ。
結果としては、予想通り何も残ってなかった。
地形的に間違いなく同じ場所に行ったのだが、それこそレインが流れ着いた跡すら確認できなかった。
"大荒海"の荒れ模様からすれば当然とも言えるが、少なからず期待感も持っていたため、残念な結果であった。
「――まあ、優先順位と達成難易度が変わらぬから、順にこなしていくということで良いか?」
「問題なし。」
「「はっ!」」
「はい!」
次回更新日は10/10(土)です。
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