第63話 カオスな問題
こちらは本日1話目です。
次話は18時の更新となります。
それにしても、なんで姫様がここにいるんだ?
皆に家を与えたは…あれ?
そういえば姫様の分の家作ってなかったな!
ちゃんと皆に確認しながら作っていたはずなんだが…
間違いがないか、OXさんにもケングにも確認してたんだが…
……まさか、グルだったのか?
「あ、あの、大丈夫ですか?」
いや、大丈夫かと聞かれたら大丈夫ではない。
頭の中がパニックで混乱中だ。
ダメだ、自分でも何考えているか分からなくなってきた。
ただ、ベッドの匂い嗅ぐのだけはやめてくれないかな?
綴りが匂いだと信じたい。
決して臭いではないと信じたい。
落ち着け、深呼吸だ。
………ふぅ、脳内はリセットできた。
「それで何でここにいるんだい?」
「私の家はありませんので。強いて言うなれば、ここが私の家です。」
んー、言葉が通じていないな。
変な通訳アプリみたいな言葉が返ってくる。
「てっきりオーボエナッシ家の方に厄介になると思ってたんだけどな…」
そう、OXさんが姫様の御目付役だ、と言ってた気がする。
御目付役の仕事を是非今すぐしてもらいたい。
年頃の姫様を放置されるのはかなり困るのだ。
「その点に関してはご安心を。オーエからの許可は得ております。尤もかなり反対はされてしまいましたが、最終的には折れていただきました。」
御目付役が役に立たなかったようだ。
一体なんのための仕事だというのか?
「助力を願った際の対価を未だ払えていないことが、王族たる私からしたら許されない行いなのです。そのため、前より述べていたよう私の身を捧げようと…」
そんなこと言ってたな。
てっきりその場しのぎの文句だと思ってた。
ノブレスオブリージュの精神ってことか。
だが、姫様の身を捧げられても困るな。
要らぬ問題を呼び起こしそうだ。
…まあこの際、姫様の家屋問題はひとまず置いておいて良い。
先に聞かなければならない奇行がある。
今も会話していない時に俺のベッドをクンクンされている。
こっちをなんとかしなければ…
「……なんでベッドの匂いを嗅いでいるんだ?」
言った瞬間、聞いてしまったことへの後悔の念が生まれた。
聞いてしまってもよかった案件なのか?
「なんというのでしょうか…私は父親以外の異性のベッドで睡眠を取るのは初めてでして…いざ寝ようと床に入ろうとしたら嗅いだことのない芳醇な香りがしてきて、思わず嗅いでしまいました。それからその香りを楽しむのが癖になってしまって…」
なるほど、分かった。
どうやら姫様は匂いフェチというものらしい。
初めて嗅いだ身内以外の異性の香りに夢中になられたようだ。
「今までこのようなことがなかったので、自分でも戸惑いはあるものの、それでも止めることができず…」
少し訂正しよう。
姫様を匂いフェチに覚醒させたのは俺らしい。
一国の王女様を変なものに目覚めさせてしまった。
あれ?
けど、このベッドを譲ってもう半月以上経ったんだけどな。
その間に生活魔法でクリーンしなかったのか?
初めて使う時とかリセットかけたものだと思ったんだが。
「ベッドのクリーンは城のメイドの仕事でして、自分でするという習慣がなく、ついその感覚で真っ先に入ってしまって…あと、この良い香りが消えてしまうのは忍びなく、なるべく就寝時は足元の方だけで寝るように心がけていました。」
重度だな、プロの犯行になりかけているよ。
これはなんとかして治さないとな。
とりあえず姫様を家に置いておく方針にした。
外向きの理由としては対価の一貫、しかしその実匂いフェチを矯正するためだ。
そのため、空いている部屋で新しいベッドを使ってもらう。
勿論俺の香りは無しだ。
この世の終わりだ、みたいな顔をされたが許してくれ。
これが姫様を救い出す方法なんだ。
姫様の処遇を決めたことだし、動くかと皆で俺の部屋からリビングに出ようとした。
すると、そこにはどこか見たことのある扉がポツンとあった。
あれ?
……明日の夜だった気がするんだけどな。
特に演出もなく、不意にガチャっと音がして扉が開いた。
そこから1人出てくるが、これも予定調和よろしく、月1のいつも通りだ。
「ジョー、来たわよ!」
やっぱりアイネだった。
「だ、誰ですか?そ、それに今どこから現れたのですか?え、あ、え?」
そして、姫様がパニックに陥った。
何故かその手には俺の掛け布団が握られている。
あっ、クンクンし始めた。
……なんだか場が混沌としてきたな。
「明日の夜じゃなかったっけ?」
アイネが来るのは月1で満月の日の夜間だけだ。
今日は限りなく丸いが、満月ではない。
なのに、何故ここにいるんだ?
勿論嬉しくてしょうがないし、姫様の手前我慢しているがハグしたい。
当の姫様はパニック状態に俺の掛け布団が効くらしく、ひとまず満足するまで嗅がせている。
だんだんと他人に見せられないような顔になってきているので、俺はなるべく顔を見ないようにする。
いつもの可憐な顔から想像もつかないレベルだ。
「なによ、前回の夜伝えたの忘れたの?」
「えっ、何か言ってたっけ?」
ヤバイ、覚えていない。
何か約束事してたなら思い出さなくては。
約束を忘れられた時の女性ほど怖いものはない。
妹との約束をすっぽかした時、漆黒よりも黒い単一色の目でジーと見られ続けたという恐ろしい思い出があるのだ。
すると、3歩後ろでスタンバイしていたレインが寄ってきて耳打ちしてくれた。
お前、姫様の奇行に巻き込まれるのが嫌で、先ほどまで気配を殺していたな。
「段階的に会える時間を増やすと仰っていましたよ。今まで半日程度だったものを1日程度にすると。」
そんなこと言ってたっけ?
全然覚えてないんだけど…
「あら、私はちゃんと言ったわよ。」
「ええ、わたくしもしっかりと聞いております。」
嘘だろ?
ヤバイヤバイヤバイ。
とりあえず弁解しなくては。
「ごめん!前回2人とキスしたことで、頭が幸せいっぱいのパンパカパーンになっちゃってて、記憶がしっかりしてなくて…」
数秒、頭を下げて顔を上げる。
すると、頬を染めつつ何かを噛み殺したような顔をするアイネ。
後ろを見ると、やはり頬を染めたレインがいた。
なんだ?
おいアイネ、口角が上がってきてるぞ。
まさか、嵌めたのか?
嵌めた結果のニヤニヤなのか?
「ふふっ、ごめんなさいね。本当はジョーには伝えてなかったのよ。私とレインでサプライズしようって決めてね。」
なんだ、そういうことだったのか。
ビックリしてしまったじゃないか。
「なのに、ジョーったら幸せいっぱいだったとか、急に惚気始めたから、嬉しくてニヤニヤが抑えきれなくなったのよ。もう、やり返されちゃったわ。」
「そうですね、わたくしも予想しておりませんでした。」
意図せず反撃していた形になった。
頭が働かない状況で弁解したせいで、とんでもないことを口走ったみたいだ。
なんとも言えない甘酸っぱい雰囲気が広がる。
無意識にモジモジしてしまう。
空気を変えなくては…
「それでフィアナ様は如何いたしますか?」
俺が何か言う前にレインの一言が飛び出した。
正直助かった。
それで姫様の方へ目を向けると、そこには姫様らしき者がいた。
姿形はこれ以上ないほどそっくりなのだが、如何せん口元がだらしなく緩み、目が恍惚の色に染まりきっているんだ。
ああ、意識まで飛ばしちゃってるよ。
こんなのは姫様じゃない…と思いたい。
結局、匂いフェチ残念姫様を新しい部屋のベッドに移した。
俺の掛け布団は何か分からない液体まみれになっていたから、そのまま姫様の物になった。
一応確認しておこう。
「なあ、アイネ。俺ってそんなに匂いする?それとも臭い?」
満面の笑みで答えるアイネ。
「んー、なんで言ったらいいか分からないけど、ジョーって感じがするわ。」
やはり聞いても分からない。
先にアイネの私室を見せ、その後場所を俺の私室に移して、アイネとのお話を再開する。
私室の出来は満足してもらえた。
後はアイネが来たら好きにしてくれ、と伝えた。
「そう、今回は耳寄りな情報があるの。」
手を叩きながら、思い出したように口に出したアイネ。
耳寄り?
気になるな。
知らないことを知れるのは好きだ。
ただアイネの紡いだ言葉は俺の予想を遥かに上回る案件であった。
「ジョー以外にこの世界に来た人知りたくない?」
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