第61話 数字の問題
初めて日計ランキングに載ってました。
とても嬉しい限りです。
皆様のご愛顧に感謝致します。
こちらは本日1話目です。
次話は18時の更新となります。
地均しは3日目に入った。
どうやら念入りにやっているらしく、進行度で言うと今やっと半分ちょっとといった所だ。
作業の慣れとか考えると、あと2日で終わるかな。
そして、今日は昨日の戦闘の疲労を考慮して、拠点外へ出ることはやめた。
勿論それに対する反対意見も飛び出した。
騎士達からは、疲れていないから今日も行きたいという意見をもらった。
お姉ちゃんにいい所を見せたいポアロからは、今日こそ大丈夫だからという根拠のない謎の自信を示された。
それでも今日は行かない。
調子に乗ってると早死にするということがなぜ分からないのだろうか?
慣れてきたならまだしも、昨日が初回。
自分でも認識できないレベルで疲労が残っているはずだ。
その微妙な違いが大事故に繋がる。
俺も嫌がらせしたい訳じゃないんだ、分かってくれ。
ただしポアロ、てめえはダメだ。
昨日と同じメンツが手持ち無沙汰なため、やることがなく困ってしまった。
地均しが終わっていればやれることは増えるが、未だ途中なので邪魔になるようなことは憚られる。
何をやるか考えていると、ふと昨夜の会話を思い出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
昨夜の夕飯の食後の一幕
「ちゃんと紙で記録取り始めたほうがいいかな?収穫量とか消費量とかまとめた方が今後のために役立つよね。」
いつも通り背後に佇むレインに話しかける。
「ご主人様の望むままに…と述べると反感を買いそうなのでわたくしの意見を述べさせていただきます。個人的には、良い発想だとは思います。現状の寡多を把握することで確実に生活をより良いものにすることに繋がります。」
あまりにも何でもいいと言うので、それを止めてくれと頼んだ結果、ちゃんと自分の意見を伝えてくれるようになった。
そのレインから諸手を挙げてのGOサインをもらえた。
早速紙に書いていくとしよう。
紙の材料は一般的に木材だ。
そのため、リメが《生み出すモノ》を使えた頃にある程度作っておいた。
数には限りがあるから、ゆくゆくは自らの手で作れるようにならないといけない。
これも拠点拡大計画の1つに加えておこう。
俺も諸々を書き込んでいく。
当初は、この世界の言語を話すことは出来たものの、書くことが出来なかった。
しかし、レインから暇を見ては習っていたため、今でも書けるようになった。
限りなくアルファベットに近い形をしており、スペリングも大差なかったのが幸いした。
ええと、今8月末だからフバツソラヌンの収穫は3回は見込めるから…
「ジョーお兄様、これは何ですか?初めて見た文字です。」
ちゃっかりと俺の隣に座っていたルテアが俺の書いたある文字を指差し聞いてきた。
ああ、その字ばかりはそっちの方が都合がいいから、あえて使っているんだ。
最初の方はこっちの言葉で書くと少なくとも3文字も書かなくてはならないから、1文字もしくは2文字で済む地球の文字を使った方がいい。
この際だから教えちゃった方が都合が良さそうだな。
いや、ルテアだけじゃなくて可能な限り皆に認知してもらった方がいいな。
「これはね、数字と言ってね…」
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そうアラビア数字を教えることになった。
この際だから日本語も教えることも検討したが、流石に最初からとなると時間がいくらあっても足りなさそうだと諦めた。
他に言語で困っている要素は今のところないからね。
「では、これから皆さんに数を表す文字を覚えてもらう。」
「なんだかよく分からんが…役に立つというのなら吝かではない。」
OXさんが珍しく文句を言わずに賛同してくれた。
嘘だろ?
明日は雨が降りそうだな。
……なんて心の中で思っていたら睨まれた。
「大丈夫です、お父様。ルテアも昨日学びましたが、より便利な文字であると思いました。」
すかさずルテアがフォローしてくれた。
やはり妻好きなOXさんは子供好きだったらしい。
すぐに眉間によっていた皺が跡形もなくなった。
他の者達もその一言で納得したのか、前向きに学ぶ姿勢を見せてくれた。
俺に対する反感が強いポアロでさえ、渋々ながら学ぶ気になってくれたようだ。
序盤は順調に進んだ。
なんと言ったって書き方は簡単で、基本的に一筆書きで済むのだ。
さらにどれだけ位が増えようが、数字を並べて書くだけで事が足りる。
今まで数を表すために長々と書いてきたのがバカらしく思ったと言われるレベルだった。
貴族であるOXさんにも高評価を得た。
他の文字と区別しやすいため、情報をまとめた際により見やすく表せることに関心を示していた。
こればかりは俺も予想していたかった副次的効果だ。
言われてみれば尤もなことであったが。
ただ物事は全て順調に終わることなど稀である。
そう、案の定問題が発生した。
何を隠そう、0の存在である。
0という概念が開発されたのは古代インドである。
0という文字自体を最初に用いたのはバビロニアであったが、あくまでもそれは記号に過ぎず、0を数字として認識したのはインドであった。
この世界の文化と似ているヨーロッパ方面では、0という数字は文化的に許容されることなく、17世紀頃までは宗教的観点から排斥対象にされていた。
これは0が無を意味する概念であることが原因であった。
古代ヨーロッパにおいて、高度な数学や天文学が発達したギリシャでは無の存在が認められなかった。
これは、空間内には必ず何かの物質が充満しているとして真空の存在を否定したアリストテレス哲学の宇宙論が関係していた。
その宇宙観が中世ヨーロッパにも継承され、宗教レベルで人々に普及されていったのだ。
個人的には、この世界は魔法もあるんだし無の存在は認められているんじゃないかと思った。
なのに、なぜ0という考え方が存在しないのだろう。
それに対して、無の存在は認められているものの、それを数字で表すことはなかった、との答えが返ってきた。
まあ数字をどの分野で使うかで、考え方は変わるよな。
古代エジプトでも、高度な数学レベルにあった一方で、それの用途が暦と土地測量の分野だったため、0という考え方は生まれなかった。
0の日はないし、面積がない土地なんてないものな。
という理由で0を教えることに苦労した。
何せこの世界に0に該当する言葉がないのだ。
他の数字はこの世界の文字と照らし合わせながら、教えることができていた。
その手が使えなかったのだ。
結局、0とはそもそもなんぞや、という概念的な話をした末にこちらの文字を組み合わせて0という意味を表す言葉を作った。
勿論英語のZEROをそのまま流用した。
ポアロを代表に一部がチンプンカンプンだと言わんばかりに頭を悩ませていた。
こればかりは時間をかけて理解してもらうしかない。
昨夜ルテアと近くにいたレインに教えた時は優秀なのか、すぐ理解してくれて助かった。
小数や分数について教えることにも苦労した。
地球では古代エジプトやバビロニアなど早い段階で誕生していた。
それこそ文化の似ているヨーロッパでは分数がよく使われていた。
しかし、この世界では最小のものを1と定めたり、別々に認識するなどしてきたため、その考え方は存在していなかった。
例えば、麦が満杯に入った桶が2つと半分ほどに入った桶が3つあったとする。
地球の考え方で言えば、いくつか表現の仕方があるものの、麦が入った桶が3.5杯分あると表すことができる。
ただこの世界だと、麦が満杯に入った桶2つと半分入った桶が3つあると、そのまま表現するのだ。
ただ同様に苦労するかと思われた負の数は意外とすんなり受け入れられた。
どうやら地球で負の数が認識される要因になった負債という考え方が同じように存在しており、既に言葉も存在していたからだ。
結局、1日だけで終わらず、翌日も説明に費やした。
ある程度アラビア数字を理解してくれたことを認めたため、その理解を図るために簡単な足し引きの問題を作成して解くように指示した。
最初ということでだいぶ時間が掛かりそうだ。
俺はそう思い、再び拠点計画を紙に書き始めた。
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