Different Sides(4)
シルバーウィークということでまた連続更新します!
こちらは本日1話目です。
次話は18時の更新となります。
◇救出作戦後の???の状況
「おい、ユーダ家の方はどうなった?」
俺は王城の執務室の椅子に座りながら、日の入りと共に王都中に遣わした将達に確認を取る。
この同時多発的高機動力作戦が成功すれば、王都に俺に盾つく者はいなくなるはずだ。
特に王族と特に懇意にしていた貴族は排斥しなければならない。
「はっ、無事制圧が完了しました。現在当主の身柄は当城地下の牢獄にて拘束済み。いつでも尋問の方へ移行できます。」
「あい、分かった。人員が揃い次第、順次尋問を開始してくれ。王都内や他領地の協力者を炙り出せ。先に捕まえておったチッケア家とブルースタ家も同様に取り計らえ。」
「「「はっ。」」」
よしよし、順調にことは進んでいる。
王族のほとんどが亡命を果たしたのは想定外であったが、近いうちに王国は我が手中に落ちる。
ダンジョン内からまだ国内にいるはずのフィアナが出てきたら無理矢理婚姻させ、我が嫁に据えよう。
まあ対外的には正妻扱いするが、実態としては妾だな。
せいぜい俺を楽しませるんだな。
もはや王都にお前の味方をする力ある者はいない。
「おい、肝心のオーボエナッシ家の首尾はどうだ?」
御目付役を請け負っているこの家さえ押さえれば、フィアナの抗う意志は削ぐことができる。
限りなく身内の者が人質となれば無碍にはできまい。
当のオーボエナッシ家の現当主のオーエックも今は王都に居らず、フィアナに同伴している。
言わずと知れた愛妻家であるオーエックならば、妻の命を何よりも最優先にするはずだ。
ふむ、なんと抜け目のない作成であろうか。
俺は計画が最終段階へ移行できることを確信し、上機嫌になった。
しかし、待てども待てどもオーボエナッシ家からの報告は上がらない。
仕方なく部屋の中に配下の者へと確認を取る。
「おい、オーボエナッシ家の首尾はどうだと聞いておるのだ。これ以上待たせるな、疾く報告せよ。」
しかし、配下の者は皆視線を下げたまま顔を上げる気配がない。
まさか?
いやしかし、そのようなことはないはず。
どこにも落ち度などなかったのだぞ!
埒が開かないと、配下の者を怒鳴りつけようとするも、そばに控えていた側近の1人である執事が耳元に顔を近づけてきた。
これは対外的に発信することを避けたい話題を交わす時に用いる方法である。
「粛清部隊が到着した頃には屋敷の中がもぬけの殻であったとの報告が上がっております。一応屋敷の近辺を捜索中だそうですが、今現在何の成果も得られていないのでおそらく徒労に終わるかと…」
「なんだと!」
バキィッ!
「「「ひぃ!」」」
思わず目の前にあった机を叩き割ってしまった。
俺の持つスキルからすると、机なぞ紙細工と変わらない。
ちっ、俺の執務用に机を新調しなければな。
それしても誰もいなかっただと?
大方《念話》持ちはいるだろうと踏んでいたが、逃走手段は限られてくる。
今王都は厳戒態勢を敷いていて、門は全て閉め切っている。
王都外への移動は不可能なはずだ。
だが、現に消えて見せやがった。
考えられるとしたら、世界に数人しかいない《空間魔法》持ちなはずだが、我が国にそれもオーボエナッシ家が接触できる者の中にいるはずがない。
もしいたとしたら、俺の耳にも入ってくるはずだ。
そうなると、残す選択肢は魔道具か。
このレベルになると、王家レベルの物しかないはず…
……まさか!
「至急フィアナ嬢が赴いているダンジョンまで確認に行け。もうその場にいない可能性が高い。ついでにオーボエナッシ家の屋敷に魔力解析班を回せ。必ず魔力の残滓があるはずだ。そこから何が使われたのか解析しろ。」
「は、はっ!直ちに。」
配下の者が即座に執務室から出て行ったのを見送りながら、俺は誰にも聞こえないような溜息を吐いた。
おそらくもうダンジョン内にフィアナはいない。
そして、オーボエナッシ家の人員を救出したのも彼女だ。
くっ、これは誤算だった。
翌日にはオーボエナッシ家の魔力解析班から、数日後にはダンジョンに向かった配下から、俺の耳には予想通りの結末が告げられた。
それは俺の王国の権力掌握を躊躇させるに十分なものとなった。
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◇幼馴染み・清水めぐりの状況
「えっ、〈クロージャーゼン山脈〉の中腹以上の立ち入り禁止?」
急遽パーティーリーダーのアマザナがパーティーに招集を掛けたと思ったら、予想外のことが告げられた。
1週間ほど前に〈クロージャーゼン山脈〉方面を目指して移動することが決まって、その準備をしていただけにショックだ。
「えっ、どうするの?」
これで行くこと自体中止にされるのは個人的にかなり困る。
数時間前ほどに、なんかまた丈の周りに余計な存在が増えたような気がしたからだ。
それに一瞬だけ、気配がなくなってしまったように感じたのも原因だ。
「ほら、見てよアマザナ。めぐりの顔、不安でいっぱいじゃない。」
ムードメイカーのシェーナが私の不安を感じ取って、フォローしてくれた。
こういう時にシェーナがいてくれて良かったとつくづく思う。
「今のはただの報告だ。別に〈イルガシャーシ公国〉へ行かないとは言ってないだろ。」
「……じゃあ予定通り?」
アマザナが笑い飛ばすように言うと、物静かなクラリーが確認する。
「ああ、めぐりはともかく、あたい達は〈クロージャーゼン山脈〉に用はあるが、しばらくは中腹未満しか行く予定はなかったからな。中腹以上行けなくても問題はない。」
「そういうことね。なんだ、ビックリさせないでよ。めぐりが死にそうな顔になったじゃない。」
「ははっ、すまんな。どうも、あたいは言葉足らずなところがあるみたいだ。」
アマザナの自虐ネタに私も含めパーティーの皆は笑う。
ふふっ、そうね。
たまにアマザナのこの癖に引っ掻き回されるんだったわ。
「まあ、あたい達が〈イルガシャーシ公国〉に着く頃には一時的に立ち入り禁止の規制は解除されるかもね。」
「……それはどうして?」
アマザナの発言にすかさずクラリーが疑問を呈す。
そうね、なんで私達が着く頃には〈クロージャーゼン山脈〉に立ち入れるようになるのかしら?
私達が最高位パーティーとかいう理由だったらまだしも別にそういうわけでもないし。
「まあタイミングの問題さ。ギルドで聞いた話なんだが、実は隣国の〈レンテンド王国〉で政変が起きたみたいでさ。〈イルガシャーシ公国〉も政治的緊張で国境付近を警戒しないといけないだとよ。それで今は国境付近にあたる中腹以上は兵共以外立ち入れないらしい。」
なるほどね、それは当然ね。
新たな権力者が勢いそのまま攻めてくる可能性は無理できない。
その結果の中腹以上の立ち入り禁止なのね。
「だから、ウチらが着くのは1ヶ月後とかだし、少なくともウチらが中腹以上を目指す頃になれば、ある程度の緊張状態は解けるんじゃないかな、って感じ?」
「そういうことさ。」
シェーナがその先の流れを予想し、アマザナはその予想を肯定した。
流石に1ヶ月は厳しいかもしれないけど、麓の方を少し回っていたら、緊張状態は解けそう。
一応今は晩春だし、冬前には山脈越えできたらいいな。
結局、予定通り3週間後ぐらいに〈クロージャーゼン山脈〉を目指して移動することは変わらなかった。
流石に丈が政変に巻き込まれることはないと思うけど、そんなこと言うとフラグになっちゃうかな。
まあ無事でいてください。
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◇クロージャーゼン山脈最奥部・???の状況
「お父様、先ほど樹海の方から《転移》系統のスキル発動が感じられましたの。」
わたしがいるのは、人族の者たちから〈クロージャーゼン山脈〉と呼ばれている山脈の万年霧と雲に閉ざされた地なの。
その地を統べるお父様が空間の前にて、先ほど感じたものを報告するの。
わたし達の一族は種族的には世界最強であると自他共に認められているの。
そんなわたし達の一族は世界の均衡を揺るがしかねない魔術の発動を抑制する役目を担っているの。
最たる例だと、第1級警戒効果である時間停止なの。
ここ数百年使われたことないものだが、使われた際にはすぐその術者を排除しないといけないの。
今回確認されたものは、空間転移なの。
場合によっては排除しなければならない第2級警戒効果であるの。
わたしは一族の中でも、特に魔力の使用を敏感に感じ取れるスキルを持っている。そのため、監視役という大役を任されているの。
今回も勿論わたしが最初気づいたの。
「……そうか…」
「はいなの。転移した数的には2桁だったから、問題はなさそうなの。」
2桁程度の少人数ならさほど問題にはならないの。
勿論魔力を多く持つ者がいたりしたら、対応が変わるけど、今回は規定範囲内だったの。
そもそもこの程度なら気にしなくてもいいと思うけど、お勤めだから仕方なく報告するの。
わたしが生まれてからまだ140年しか経ってないから、まだまだ半人前なの。
万が一ということもあるから、役目は果たさないといけないの。
「……3ヶ月と少し前のことを覚えているか?」
?お父様が脈絡もないこと言い始めたの。
たしか、平均の10倍以上の魔力を持つ者が急に世界に現れたという出来事を指していると思うの。
んーと、6人だった気がするの。
「……おそらくそれは転移人であったのだろう。世界に幸福と災禍をもたらす者。今回の件に絡んでいる可能性も否定できん…」
転移人?
初めて聞いたの!
そんな存在がいたなんて知らなかったの。
世界はまだまだ広いの。
「……観測業務をひと段落させた上で引き継ぎを済ませた後、樹海のかの地へと赴くのだ…」
「わかったの!ライルとレフィも連れて行っていいの?」
1人で行けないわけじゃないの。
ただ今回は珍しい存在に会えそうだから、わたしの従者兼お友達のライル君とレフィちゃんも連れて行きたいの。
お父様、許して欲しいの。
「……よかろう、これも経験だ。ただし、危なくなったら逃げてくるのだ…」
お父様は心配症なの。
ライル君とレフィちゃんの3人なら国1つぐらい相手でも余裕なの。
そして、わたしはお父様の前から下がってお勤めに戻ったの。
んー従姉に頼めば、たった数ヶ月後には行くことができそうなの。
わたしはワクワクしながら、従姉の部屋に向かったの。
今話で第1部は終わりとなります。
次話から第2部が始まります。
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