第54話 救出作戦実行
こちらは本日2話目です。
前話は12時の更新となります。
未読の方は是非ご覧になってください。
俺はまず王家秘伝の魔道具を使えるように準備をする。
「魔石を用意しようと思うんですけど、いくつぐらい必要になりますか?何回ぐらい転移をしようとするかで判断しようと思うので。」
「……少し待ってくれ、今から《念話》で確認してみる。」
OXさんがそう言って、部下である騎士の1人に指示を出す。
《情報分解》で能力を確認したところ、やはり《念話》スキル持ちであった。
それもLv7と高レベルで、同じ大陸内なら会話可能という便利なものであった。
……この感じだと、この世界に電話を作って生産チートするのは良くなさそうだな。
おそらくこれも重宝される一芸なのだろう。
電話が作られてしまったら、《念話》の希少価値はだいぶ低下してしまう。
電話の仕組みを理解しているだけに、少し残念でならない。
ひとり考え込んでいる間に連絡を取ることに成功したらしい。
いかんいかん、今は目の前の問題を解決しなくては。
「待たせてすまんな。確認してみたところ、多くても2往復で済む計算だ。どうやら、儂の妻が王城で何かが起こったことをしっかりと掴んでいたらしく、ここにいる者の身内は既に儂の邸宅に集まっているらしい。」
なかなか優秀な妻をお持ちのようで。
おかげで、魔道具の使用回数も節約できる。
それにしても、関係者を集めるとは考えたものだな。
迎えに来てくれれば、そのまま皆で逃走することが可能。
そして、迎えに来なかったら、人質にされたり処されたりする前に集団心中することが可能。
複数のパターンを想定して動いているようで称賛に値する。
魔道具の使用が2往復分となると、計4回使える必要があるのか。
OXさんの妻の英断のおかげで、十分に魔石が足りる。
姫様を除くここにいる人数分往復しないといけないと考えていただけに嬉しい誤算だ。
まあこれから起こりうることを想定して、プラス1して3往復分の魔石を用意したほうがいいな。
「一応保険も掛けて、3往復分の魔石を提供させていただきますね。」
俺はそう言うと、リメにバレないように合図を出した。
勿論からの魔石放出だ。
Bランクの魔石でもいいが、嵩張りそうなためAランクの物を用意することにした。
瞬く間に魔石が目の前に積み重なっていく。
俺やレインからしたら、特に思うところはなかったが、姫様一行にとっては衝撃的なものとなった。
「……まさか本当に用意してくださるとは。」
「……はい、しかもAランクの魔石ばかりです。」
「……こんな量の高ランク魔石見たことねえよ。」
「……夢じゃねえんだよな?」
おい、夢だと思った奴失礼だぞ。
この〈不抜の樹海〉で3ヶ月も生きていれば、容易に魔石は貯まる。
しかも、ほとんどがBランク以上の魔石しか落とさない。
貯めたくなくても自然とこれだけのレベルの魔石が大量に入手できるんだよ。
「さあ、これで足りるはずです。どうぞお納めください。」
OXさんは少し躊躇ったものの、魔石の確認を始めた。
本物とは限らない可能性も危惧しての行動なのだろう。
ただそれは無駄なことだ。
まあ全部産地直送の本物なんだけどな。
ある程度確認したことで納得したらしく、次の行動に移ったようだ。
姫様が自分の服の中を探り、胸元から1つのペンダントを取り出した。
あれは…六芒星か?
吸い込まれそうな深い紫色の楕円形の宝玉上に光り輝く金色の六芒星が描かれている。
これが王家秘伝の魔道具ってやつなのか?
思ったよりもシンプルなんだな。
そして、いよいよ魔石を使う時が訪れた。
「ほう。」
思わず口から感嘆の声が溢れた。
とても地球では味わうことのできない光景であった。
姫様が魔石を手に取ってペンダントに近づけたかと思うと、その手に持っていた魔石が溶けた。
そう、溶けたとしか表現ができない。
近づけた側から綺麗な粒子状となり、清流のように六芒星の中心へと流れて込んだ。
能力1回分である10個の魔石をペンダントに移した瞬間、六芒星の一角に光が宿った。
なるほど、これで残りの使用回数が分かるのか。
その後も10個毎に六芒星の角は1つずつ光を帯びていき、計6回分の魔石を移した結果、六芒星全体が淡く輝き出した。
その後、作戦の流れを打ち合わせ、着々と準備を進めた。
気づくと、俺の身体は震えていた。
怯えているわけではない。
これは武者震いだ。
この後に起こりそうなことは想像できている。
勿論自ら望んでそのようなことを為したいとは思わない。
だが、ここは異世界。
俺が地球で生きていた頃よりずっとずっと命の価値が軽く、そして命のやり取りが身近な世界。
分かっている、分かっているんだ。
今回の救出作戦は少数精鋭で行うことにした。
メンバーは、姫様、OXさん、騎士3人、そして俺。
姫様は、勿論王家の魔道具を使用してもらうため。
これに関しては、OXさんを始めとする騎士達は反対した。
しかし聞いた話によると、この魔道具を使えるのはレンテンド家の王族もしくはその配偶者であるらしい。
そのため、姫様を危険に晒すことになってしまうが、止むを得ず実行メンバーの1人になってしまった。
OXさんは今回のまとめ役。
最も位が高く、向こうにいる人達を取り纏めるにも適任であるからだ。
個人的には、作戦を実行するには少々、いやかなり疑問視した。
お前、そんな見た目で守れるのかと。
一応、言葉遣いを丁寧にした上で遠回しに聞いてみた。
「大丈夫だ、こう見えて戦い慣れている。」
ちょっと信じられる要素がなかったから、こそっと《情報分解》でOXさんの能力を確認してみた。
名前:オーエック=オーボエナッシ
種族:ヒューマン
立場:[中立(警戒)]オーボエナッシ家現当主
能力:《身体操作》Lv8《自動回復》Lv7
《自重操作》Lv8《剣術》Lv4
《火魔法》Lv6
《自動回復》
大気中の魔素を取り込むことで、大幅に自然治
癒能力を高めるスキル。
回復魔法とは仕組みが違っており、恒常的に発
動されている。
回復スピードはレベルに比例して増加する。
《自重操作》
自身の体重を一定範囲内で自由に操作できるス
キル。
この能力により自重が変わったとしても、容姿
に変化はない。
他存在に接触している場合、その接触している
対象にも有効化する。
自重の増減範囲はレベルに比例して増加する。
《火魔法》
火魔法をどれぐらい扱えるかの指標。
Lv6だと、下〜中級魔法と、一部の上級魔法
までが使用可能。
固有スキルを持っていないが、想像以上に戦闘スキルが整っている。
自分の体重を好きに増減できるってのはなかなかに強力だ。
軽くすることでスピードを上げ、重くすることで攻撃力を上げる。
蝶のように舞い、象のように踏みつぶす。
このようになるだろう。
騎士3人も皆何かしらのLv6以上の戦闘系スキルを有しており、精鋭中の精鋭をピックアップした。
そこに姫様の《囲い守られるモノ》の身体能力をバフを20倍ずつ受けているので、生半可な相手では歯が立たないであろう。
そして、俺。
拠点の代表者という点と、先に見せていた結界を評価されての選出。
道理が通っていたし、恩を売りたい身としては願ってもない提案だった。
これで貢献度も爆上がりだ。
ただこれで異世界に来てから初めて人の営みというものに触れることになった。
俺の立てたプランだと、アイネが地上に降りてきたら向かおうと考えていた。
今回の件で、それが早まってしまった。
正直残念でならないが、これも全てはアイネとこの地で安寧を享受するため。
それに、今回はあくまでもオーボエナッシ家の邸宅内でしか行動しないため、厳密には異世界の街初体験ではない。
自分に言い聞かせることで納得した。
いい加減これ以上時間を費やすことはできない。
覚悟を決めていざ参ろう。
――日の入りと共に、実行メンバーの姿が〈安息の樹園〉から消え失せた。
次回更新日は9/15(火)です。
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