第53話 救出作戦始動
こちらは本日1話目です。
次話は18時の更新の予定となっております。
ただ現実が忙しく多少遅れて投稿になるかもしれませんので予めご了承下さい。
「――どういうことだ?」
俺の提案に真っ先に反応を示したのはOXさん。
まあ姫様以外で1番親族が多そうだからな。
俺の悪魔の囁きが如き提案に耳を傾けてしまうのも分からないでもない。
そして、後ろに控えるモブ騎士達の中からもちらほら気になっているという素振りを見せる者が現れた。
先ほど《建築》スキル持ちと判明したケングもその中の1人だった。
今更ながら、モブ騎士達は全員で9人だ。
皆がOXさんの装備を少しグレードダウンさせたような似た格好をしている。
ただ悲しいかな、全員男性だ。
よくある紅一点の女騎士みたいな存在はいない。
せっかくだから、この世界に来たのだし見てみたいものだ。
脳内の思考が脱線してしまった。
そんなモブ騎士達の過半数である6人ほどが期待したような視線を向けてくる。
残り3人は彼らの中では若い方らしく、未だ大切な存在が出来てはいないのだろう。
ただ、仕方ないな先輩方、という感じの生暖かい目を向けつつも決して否定的ではなさそうだ。
よし、これで大勢は決まった。
騎士共を味方につけ、目の前の2人の説得に乗り出す。
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。
OXさん、姫様の順に口説き落とすとするか。
「OX…オーエック殿、ご家族の方はいらっしゃいますか?」
「……妻が2人、そして息子と娘が1人ずついる。」
おう、こんな見た目ななのに一夫多妻を築いているのか。
ただ俺は見逃さなかった。
息子と娘というフレーズを口に出した時、目元が緩んだということを。
子煩悩もしくはそれに近いレベルで子供を溺愛している気がする。
これは説得勝ちできる気がする。
「そのご家族は今どうなっているのでしょうね。」
「………」
「あくまでも推測の域を出ませんが、ジェンナー家から反乱分子と見なされてしまっているなら、投獄や拷問、果ては処刑されてしまうかもしれませんね。」
「……貴様。」
「先ほど話を聞いた限りでは、政変が起こってから間もない。相手方は王城内の完全制圧作業に従事している頃だと思います。ただ内通者もいたので、数刻のうちには城外へと粛清の嵐が広がっていくのでないかと。あまり時間があるとは言えませんね。」
敢えてOXさんを刺激する言い回しをする。
交渉の場で相手を刺激するのは、悪手なのは理解している。
しかし、今回に限ってはこれで良い。
何故なら釣れるのだから。
「おい、迂遠な言い回しはやめろ!何が言いたいのだ。」
フィーッシュ!
「簡単に言うと、魔石を用意しますから、王家の魔道具を使って救い出しませんか?勿論対価はいただきますが、命を寄越せだとか奴隷になれとか言うことはありませんよ。」
「ぐっ…」
側から見たら、俺はまさに悪魔のようであろう。
甘い誘惑をしながら、対価を取り立てようとする。
だが許せ。
これは俺の安寧、スローライフのための布石なのだ。
より良い居住空間を作り出すためには、どうしても人手が欲しい。
さあ俺の誘いに乗れ。
肯定の意を示す言葉を示すだけでいいのだ。
首を縦に振るだけでもいいんだぞ。
ただ俺が予想していたのとは全く違う方向から返事が聞こえた。
「いいんじゃないでしょうか、オーエ。誘いに乗らせていただいては?」
まさかの姫様からのGOサインが下った。
「し、しかし、姫様。」
「だいぶ葛藤していらっしゃるみたいでしょうから許可してあげます。どうせ私の身を案じてのことでしょう。」
「なっ。」
あれ、そうだったの?
てっきり部下達の手前、軟弱な様子を見せるわけにはいかないと言う理由かと思っていたんだが。
それにしても、姫様のためか…
おそらく姫様は王家の魔道具を使ったとしても家族に合流してはいけないという理由からだな。
王家としての責務を全うするために家族を一度捨てないといけない。
その姫様の側で家族と仲睦まじくすることが果たして許されるのか思い悩んだ。
そんなところだろうな。
あれ?
最初の印象が悪かったから気付かなかったが、もしかしてOXさんって実はいい奴?
あんな悪役顔なのに。
人は見かけに寄らないということを実感した。
「ですが、それだと姫様だけが…」
「良いのです。既に私の家族は一応の安全圏へと退避しております。しかし、貴方の家族は未だ王都内におり、ジョー様のおっしゃる通りになる可能性が高いでしょう。ここは救いの手をありがたく受け取るべきでは?」
姫様も思慮深く慈しみの心を持った者のようだ。
レインから〈レンテンド王国〉の話を聞いていただけに、俺がイメージしていたのは無能で無知な王女。
あるいは、傲慢で高飛車な王女であった。
それがいい意味で裏切られたな。
「もし対価というものを気にしているのなら心配なさらず。ジョー様は悪くはしないとおっしゃっております。それに万が一の場合は、私の身を捧げます。国を追われた立場と言えど、王家の血を引く娘となれば十分な対価となるでしょう。」
自分の身を安売りしすぎじゃないか?
それともこれは計算した上での行動で、同情してもらい無償で協力させようとしているのか?
真に迫っているだけに本心が分からない。
もしこれが演技というなら、容姿も整ってるから、地球にいれば瞬く間に演技派女優の仲間入りだな。
まあ俺からしたら、たとえ演技だろうが関係ない。
貰うものは貰うし、払うものは払う。
ギブアンドテイク最高。
「まあ対価の話は一度置いておいて、ご家族の方をどうしたいのかだけ決めていただけませんか?時間も惜しいので、早く決めるに越したことはありませんよ。」
結論を急かす。
一見この話し合いは俺が有利そうに見えるが、決してそんなことはない。
イコール、もしくは不利にすらなりうる。
そもそも相手が人質の救出、もしくは物資の提供を取り下げられたら、俺には打つ手がない。
こちらから改めて人手が欲しいのでその分対価を払うと言ったら、今の交渉テーブル上のものより対価が大きくなる可能性が高い。
その事態はなんとしても避けたいところ。
「……是非もなし。姫様のご好意に甘えさせていただくとしよう。どうかよろしく頼む…」
誠に不本意ですが、って感じの顔だな。
ただこれで同意の言葉は引き出せたな。
重畳重畳。
だから俺は満面の笑みを浮かべる。
「ええ、喜んでお手伝いさせていただきますよ。」
俺は1度拠点に戻り、レインにあれこれ指示を出す。
「先ほどのは〈レンテンド王国〉の王女さん一行だったんだ。一応確認するけど、顔を合わせる気はある?」
「……王女様ですか?どなたでしたか?」
「第五王女だよ。名前は、えーと、フィアナ=イルミス=レンテンドだっけな。」
「なるほど…その方でしたら問題ございません。おそらくオーボエナッシ家の方々もいらっしゃるのでしょう?」
「ああ、その通りだ。もしかして、そちらには会いたくない感じなのか?」
「いえ、そのようなことはありません。ただわたくしとの面識がございますので、この場にいることを追求される可能性がありまして…」
「そういうことね。わかった、とりあえず詮索無用ということで伝えておくよ。
指示終えた俺は、再び門のところへ赴き、姫様一行を拠点内部へと向かい入れる。
「ひとまず拠点内へ入ってもらいます。なお救出作戦を終えるまで、拠点内部に関する質問等は受け付けないので無用な詮索はお控えください。場合によっては…」
話をしていた俺は騎士達の背後から忍び寄るように寄ってきていた数匹のハガネノサルを《魔糸操作》で一刀両断した。
寸分の狂いもなく一撃で仕留めた俺は、もう一度姫様一行に向き直った。
「……相応の対処をさせていただきますので、ご理解ください。」
うーん、意図せず過剰なパフォーマンスになってしまった。
俺は悪くない、接敵してきた猿達が悪いんだ。
案の定、拠点内部を見た姫様一行は色々と聞きたそうにしたいた。
レインが現れた時はその様子が顕著に見られた。
OXさんや騎士達は勿論のこと、姫様までも驚いた様子だった。
「……なああの人って。」
「……ああ、"白銀の戦姫"か。」
「……たしかジェンナー家に仕えていたはずだが?」
「……レイン様にお目にかかれるとは。」
それでも約束通り、詮索はしないでくれた。
まあ救出作戦が終われば質問責めに遭いそうな気はするがな。
さあ、そろそろ救出作戦に入るとするかな。
日も傾いてきたことだし、早く動かなくてはな。
おそらく時間経過的に今夜が山場であろう。
俺のスローライフのためにしっかりと仕事するかな。
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