第52話 姫様現る③
無事間に合いました!
こちらは本日2話目です。
前話は12時の更新となります。
未読の方は是非ご覧になってください。
俺は果実ジュースの入ったコップから口を離し、再び話をする状態へと移行する。
「政変が起きた事実とその首謀者に関してはよく分かりました。では、次は政変の結果について教えていただきますか?」
すると、姫様の表情は雲がかかったように暗くなった。
すかさずOXさんの口撃が俺を襲う。
「貴様には関係ないだろ!これ以上話す意味はない。」
「オーエ!まったく貴方は…」
「し、しかし…」
言いにくいかもしれないが答えてもらわないと。
政変があったことと、今ここにいることが結びつくかと言われると難しい。
やや回りくどいかもしれないが、情報収集を兼ねて姫様御一行以外の状態を聞いておきたい。
「……そのあくまでも伝聞になってしまいますが、よろしいでしょうか?」
「ん?伝聞ですか?」
「は、はい。その政変が起きた時点で私は王都の方にいなかったので、直接体験したわけではないのです。」
話がややこしくなってきた。
政変が起きたけど、詳しく知らない?
「まあ、伝聞でいいから教えてください。」
「はい、それでは…」
姫様の言うことには、グライフ=ジェンナー率いるジェンナー家は王城内部の内通者によって城内へと侵入。
瞬く間に近衛兵を無力化し、王に王位の禅譲を迫った。
流石に唐突な禅譲は国内を混乱させるからと、その要求を拒否。
血生臭い争いになりそうなところで、私以外の王族は秘伝の魔道具を使い〈ヴィンスターズ帝国〉の方へと亡命。
現在は第四王女と婚姻関係にある辺境伯領にて潜伏中とのこと。
一方の王がいなくなった王都では、グライフは王位に就くことを宣言。
理由として、王の治政を愚かなものであったと批判し、民を解放するためだとした。
現在は、反乱分子を次々に投獄し、支持地盤の安定化に図ってるらしい。
他公爵家はジェンナー家に迎合し、既に傘下入りを果たしたとの情報もあるとのこと。
「なるほど…ちなみにその情報はどうやって知り得たのですか?」
「協力者の《念話》系スキルを用いてです。王族となると、側仕えに1人は長距離念話できる者を登用しているので。」
ほぼリアルタイムで情報を仕入れることが可能と。
なら情報の信憑性は高いな。
あとは、姫様が何故ここにいるかだな
「先ほど自分以外の王族は隣国へと亡命したと言っておりましたが、姫様自身はどちらにいらっしゃったのですか?」
「私は政変が起きた時点で国内の〈クロージャーゼン山脈〉麓にあるダンジョンに潜り、オーエ達と訓練しておりました。そのため、直接巻き込まれてしまったと言うわけではないのです。」
なるほど、ダンジョンの中にいたのか。
それなら騒動の地から離れているため、巻き込まれなかったのだろう。
それにしても、やはりダンジョンも存在するのか。
ダンジョンマスターになる系の小説も個人的に好きだったので憧れ度はかなり高い。
やばい、ちょっとテンションが上がってきてしまう。
「念のためと、私も所持していた魔道具を用いて転移しようと図ったのですが、慌ててしまっていたもので…ダンジョン内から転移してしまい、その結果転移先を指定できず気づいたらこの地に。」
そう言って恥ずかしそうに顔を赤らめる姫様。
あ、可愛い。
そして、ダンジョンの特異性を1つ知れたな。
ダンジョン内から転移はできるものの、何処へ至るのかは分からないのか。
一種のトラップだな。
まだ見ぬダンジョンに想いを馳せながら、会話に復帰する。
「ちなみに、その秘伝の魔道具とやらを教えてもらうことは可能ですかな?」
その言葉を発した瞬間、俺の目の前に魔法陣らしきものが展開された。
どうやらOXさんがご立腹な様子だ。
「今のは流石に看過できん!それは王家秘中の中の秘中、聞いて時点で首を刎ねられても文句は言えんぞ。姫様、此奴を屠る許可を。」
案の定、またOXさんは姫様に窘められる。
いい加減学習してくれ。
それでも姫様は魔道具の効果自体は教えてくれなかった。
まあそれにして、頑なに言わずか。
そんな機密情報を漏らすわけないか。
けど、気づいているのか分からんが、話の流れ的に魔道具の効果は絞れているんだ。
分類的には、転移系の能力で、転移先も指定できるタイプ。
転移となると類稀な空間魔法のイメージだから、その魔道具の価値は計り知れない。
使おうと思えば誰でも使うことができるのだからな。
「これは失礼しましたね。では質問を返させていただきます。その魔道具を使えば、ご家族に合流が叶うと思うのですが、何故されないのでしょうか?」
俺が思うに理由は1つ。
それは…
「そうしない理由は2つあります。」
あれ?
「まず、不用意に合流すると一網打尽にされる可能性が高いからです。私が合流すると、他国や他家に嫁いでいる姉様達以外は全て一ヶ所に固まることになります。如何に魔道具を用いて赴こうとも、いずれ私がそこにいると言うことがバレてしまう。その場合、無理をしてでも王族を根絶やしにしようと動くことも十分に考えられます。王族の血脈を未来に残すことを考えると、私は不用意に動くことは叶わないのです。」
なるほど、その理由なのか。
これは予想外だったな。
俺のイメージしていた由緒正しい貴族の思考パターンだ。
何よりも自分たちの血を後世に残すことを優先する。
血を絶やさせることは最早悪と断定する。
ただ、それをこんな俺と同世代か少し下の女の子がしているとはな。
流石というべきなのか、それとも鼻で笑うべきなのか。
俺にとって理解に苦しむ話だよ。
「それでもう1つの理由は、単純に魔道具を使用できるほどの魔石がないことです。残念なことにこの魔道具は膨大な魔力を必要とします。1回の発動で、少なくともBランクの魔石が100個、もしくはAランクだと10個ほど必要となります。尤も空間属性を持つ魔石なら同ランクの10個分になりますので、数でいえば少なくはなります。」
そう、こっちだよ。
俺もこれだと思っていた。
転移というレアな魔法が何の対価もなく、誰でも使えるわけないだろうな。
その分何が必要になるかといえば、そのエネルギー。
つまり、魔道具の発動に求められる魔石の数が桁違いになるというわけさ。
正直、俺にとって魔石は今のところ何の価値もない。
強いて言うなら、光源用に使っている光属性の魔石ぐらいか。
他の属性の魔石は、ただの綺麗な石ころだ。
それに狩りに行けば、Aランクの魔石でさえゴロゴロ手に入る。
貴重なものであるという認識はしていない。
今まで採った魔石はリメの《ストッカー》で収納してもらっているけど、そろそろ限界が近い。
これ以上溜め込むと今のリメというベストサイズが損なわれてしまう。
……魔石用の倉庫も作らないとかな。
けど次から能力頼りで作れないんだよな。
人手が必要になるな。
ん、人手?
お誂え向きなのが今目の前に沢山いるじゃん。
こいつらに手伝わさせてよう。
そうと決まれば、やることは1つだ。
「じゃあ最後に1つだけ聞いてもいいですか?」
「はい、なんなりと。」
「ここにいる皆様の中で建築系のスキルを持っている方はいますか?」
予想していなかった質問だっただろう。
向こうにしたら何の脈絡もないのだからな。
「……ケングが《建築》Lv7のスキル持ちだ。」
こればかりは姫様は把握していないようだ。
代わりにOXさんが答えてくれた。
部下のスキルはきちんと把握しているようだ。
集団の中から1人が前に出てきた。
茶髪の中肉中背、とこれといった特徴がないな。
どうやら彼がケングらしい。
嘘は言ってないと思うが、念のため《情報分解》で確認する。
……確かに《建築》を持っていて、Lv7だ。
他のスキル構成は《剣術》や《土魔法》ぐらいで目立ったものはないな。
件の《建築》の詳細を見てみる。
《建築》
作業空間を指定し、その範囲内における建築作
業を補助するスキル。
作業員の筋力を増加させる。
また崩壊を防ぐため、一定時間建築物を仮止め
することが可能。
さらに、見たことがあり、建築技術を理解でき
た建物を図面に写すこともできる。
作業空間の範囲および仮止めできる時間はレベ
ルに比例して増加する。
何気に便利そうな能力だな。
建物を固定しながら作業できるってのはなかなか魅力的だ。
図面書けるなら、同じ様式で倉庫も作れそうだ。
これなら十分に俺の目的を果たせる。
「分かりました。とりあえず質問は以上です。ご親切に回答ありがとうございました。」
「いえ、構いませんよ…それで物資の提供の件なんですが…」
「ああ食糧や建築資材でしたら、多少融通します。それに…」
どうせ魔物の肉や木材は余ってるんだ。
いくらか渡したとしても問題はない。
けどまあ恩は売り切れるだけ売り切ったほうがいいな。
善人っぽい顔をしながら俺は自己保身のための提案を口にする。
「――皆様、ご家族の方々を助けたくありませんか?」
次回更新日は9/13(日)です。
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