第51話 姫様現る②
今話から1話あたりの文字数を少しだけ増やしたいと思います。
目安としては、幅が広いですが3000〜5000字程度になる予定です。
こちらは本日1話目です。
次話は18時の更新の予定となっております。
執筆の関係で多少遅れて投稿になるかもしれませんので予めご了承下さい。
――政変が起きたのです。
そう姫様は口にした。
そしてこの瞬間、厄介ごとが俺の所に転がり込んできたと確信した。
「……政変ですか?」
聞き間違いかもしれないことに一縷の望みをかけて聞き直してみる。
正直、自称NOT鈍感系であると自負しているから、聞き間違えたという可能性は低いということは分かっている。
けど、やっぱ面倒な気配がプンプンする。
「はい、政変です。私のいた〈レンテンド王国〉にて政変、クーデターが行われました。」
……しっかりどこで起きたとまで補足までされた。
そう言えば少し前にレインからこの大陸について聞いた時にキナ臭い国だとは思ったんだよな。
確か王がお飾りで、貴族の権力が強いんだっけか。
なんだっけか、3公爵家だったかが権力を握ってるって言ってたな。
まあ詳細を聞かないとどうしようもないな。
「……なるほど、どうやら話は大きそうですね。少しを腰を落ち着けてお話を聞いてもよろしいですか?」
「ええ、構いませんよ。貴方の言い分もごもっともです。それでどちらの方まで?」
「勿論ここですよ。ああ、あと外敵を防ぐために結界のようなものを張らせていただきますので、なるべくこの場から動かないようにしてくださいね。」
許可と取れる返事をされたので、先ほどから俺の背中に張り付いてもらっていたリメに合図を出す。
《ストッカー》の能力で保存しておいてもらっていたテーブルと椅子を出す。
数の問題もあり、椅子は俺、姫様、豚隊長さんの3つだけ用意した。
あとのメンバーは後ろの方で好きにしてもらう。
続いて、四方10mの大きさの正方形をイメージして、それぞれの角の地面に木の棒を立てる。
そして、その棒に引っかかるように《魔糸操作》を使って、幾重にも《分解結界》付与済みの糸を張り巡らす。
「……急にテーブルと椅子が現れたぞ。」
「……まさか《アイテムボックス》持ちか。」
「……しかし、詠唱もしなかったぞ。高レベルの空間魔法使いかもしれん。」
「……見ろこの結界、今までに見たことない系統だぞ。オリジナルか?」
「……可能性は高い。俺の《鑑定》も弾かれた。」
「……《鑑定》が弾かれただと?聞いたこともないぞ。」
今の行動に対する、後ろにいる奴らの声がちらほら聞こえて来る。
あれ、俺何かやっちゃいましたか、みたいなテンプレなフレーズが口から出そうになるが耐える。
ここで煽って良い方向に転んだケースを見たことがない。
良い意味悪い意味関係なく、過剰なリアクションが返ってくるパターンになるのは目に見えている。
ここはさも当然という泰然とした姿勢でいるべきだな。
「さ、こちらへお掛けください。」
「は、はい。失礼致します。」
「……ふん。」
おい、豚隊長さん態度悪いな。
まあいい、話ができる奴が1人いれば十分だ。
リメに果実を絞って作ったジュースを出してもらいながら、お話を始める。
「では改めて自己紹介を。自分はここを拠点に〈不抜の樹海〉で生活している代表者の丈と申します。」
「ご丁寧な挨拶痛み入ります。レンテンド王国第五王女フィアナ=イルミス=レンテンドでございます。」
「……ふん、その家臣、オーボエナッシ家当主であるオーエック=オーボエナッシだ。姫様の御目付役も仰せつかっている。後ろに控える者共は我が直下の騎士団の精鋭だ。」
なるほど、姫と愉快な仲間達という感じか。
まあこんなこと言ったら、売り言葉に買い言葉で口撃、あるいは攻撃が来るかもしれない。
この東京OX、もといオーエックってだいぶ沸点低いんだよな。
「じゃあ自己紹介はそこそこに本題に入らしてもらいます。政変がここにいる理由となんの関係があるんですか?」
「ええと、順序立てて述べた方がよろしいでしょうか?」
話し方というのは大きく分けて、2つに分かれている。
まず、順序立てて話を組み立てていき、最後に結論を述べるクライマックス法。
こちらは相手と親しい関係で、話をしっかりと聞いてくれる場合に使われる頻度が高い。
そしてもう一方は、先に結論を言った上で情報を補足するアンチクライマックス法。
ビジネスの交渉など、相手にインパクトを与える場合によく使われる手法だ。
今回のケースだと、決して相手と親しい関係ではない。
そのため、先に少しだけ詳しい結果を聞いた上で補足してもらうアンチクライマックス法が好ましいだろう。
尤も既に政変が起きたという結論を出されているので、現時点でアンチクライマックス法が成立しているのだがな。
「いえ、順序立てていう必要はないです。質問するので、補足する形で教えていただけますか?」
「貴様、姫様のご好意を!」
「控えなさい、オーエ。ジョー様に失礼ですよ。ジョー様、その形式で結構でございます。分かる範囲でお答えさせていただきます。」
姫様に叱られて、止むを得ず口を噤むOXさん。
いい気味だな、しゃしゃり出るからだぞOX。
なんかもう気づいたら自分の中でOXさん呼びが普通になりかけている。
いかんいかん、本筋に戻らなくては。
「ありがとうございます、ご好意に甘えさせていただきたいと思います…その政変を引き起こしたのは誰なのですか?ああ、名前を言われてもおそらく見当がつかないので、どんな人物かも教えていただけると助かります。」
まあ、大方予想はできる。
3公爵家の誰か、もしくは合同だろうな。
民衆という線もあるかもしれないが、今回の場合は可能性が低いだろう。
レインから聞いた国の情報から考えるに、権力の増長で歯止めが効かなくなった貴族の暴走というシナリオが最も自然だからな。
「……そのお顔を見るにおそらく想像はついているのでしょう。ただ絞り切れていないだけ、といった感じでしょうか?」
正解だよ。
俺ってそんな顔に出やすいタイプだっけな?
地球にいた頃は感情表現に乏しい方だと認識されていたんだけどな。
「まあ、否定はしません。風の噂で聞いたことから考えるに、3公爵家のいずれか、例えばジェンナー家だと考えていますがいかがですか?」
俺がそう言うと、姫様とOXさんはどちらも目を見開いた。
後ろのモブ騎士達も騒然としている。
あれ?
予想ついてますよね、と聞かれたから、肯定したんだけどな。
そんなに驚愕する要素はなかったはずだが…
「驚きました。」
驚いていたみたいです。
「まさか、そこまで考えていらっしゃったとは…ジョー様のおっしゃる通り、ジェンナー家主導で此度の政変は引き起こされました。」
……例えばって言ったのに、ドンピシャで当てたことにされた。
まあ構わないんだけどさ。
それにしてもジェンナー家か。
レインの話から次期当主は美女と言えば見境なしのクソ野郎って認識だったから意外っちゃあ意外。
現当主が曲者って感じなのかな。
「ちなみに政変を起こした背景とかは知っているのですか?推測の場合は、そう判断したという要素も併せてお願いします。」
なかなか難しい質問をしてしまったのは重々承知している。
ただこれほど大きなことになれば、必ず目立った動きが予めあったに違いない。
「政変を起こした理由に関しては分かりません。それでも十中八九はより高次の権力者になりたかったからという理由であると思いますよ。」
まあそれが最も道理にかなった理由だな。
これに関しては俺も同意だし、否定する気はない。
「――まあグライフに関しては前々から自分本位である言動が目立ちましたからね。程度に関しては驚きましたが、事を起こしたという事実自体にはあまり違和感はありませんね。」
ん、今気になるワードが聞こえて来た気がする。
グライフだと?
あれはレインが担当メイドを務めていた、次期当主だと認識している。
まさか…
「1つ確認したい。」
「は、はい、なんなりと。」
すまん、少し前のめりになり過ぎた。
だが、確認しなくてはならない。
「今のジェンナー家の当主は誰なのですか?」
「グライフ=ジェンナーです。」
「何ジェンナー?」
「グライフ=ジェンナーです。」
「…んーと、もう一回聞くけど、ジェンナー家の現当主は誰?」
「貴様、くどいぞ。グライフ=ジェンナーだと言っておるだろうが!」
まじかよ。
あいつ次期当主って聞いてたんだが?
「ちなみに先月、前当主が魔物狩りの際に事故死したため、急遽当主の地位に着きました。」
……なるほど、合点がいった。
レインがいなくなった後に当主の座に着いたわけね。
うーん、怪しさ満点だな。
少なくとも前当主は事故死とかいう不幸な死ではないだろう。
おそらく事故死に見せかけた殺害。
このパターンは人が死ぬ系の小説でよく出てきていた。
まさかリアルで見聞きすることになるとはな。
まあいい、今回の相手方が判明したから良しとするか。
そいつなら身内にレインもいるから、関係者じゃないとは言い切れない。
予め相手方を知っておければ、関わることになった時に多少はスムーズに動ける。
さあまだまだ聞かないといけないことはあるぞ。
俺は空になった木製のコップに果実ジュースを注ぎ直した。
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