第49話 新たな来訪者
こちらは本日1話目です。
次話は18時の更新となります。
あと、9月の連休にまた毎日連続更新したいと思いますのでお楽しみに!
その日、陽炎が見えるほど暑い日になった。
よくよく考えれば今は8月の下旬。
地球だと夏真っ盛りだったが、このストラトラトスでは四季で分けると晩春だ。
これからどんどん暑くなると考えると実に萎える。
地球基準で考えると、まだ5月の終わりから6月の始めといったところなのか。
そんな中、俺は今日も鍛錬に勤しんでいた。
傍らにはリメがいつものようにいる。
ただし、心なしかいつもより溶けてゼリーのようになっている。
レインはフバツソラヌンの畑で、芽かきと土寄せの作業に従事してもらっている。
レインと戦闘訓練してもいいのだが、《槍術》Lv7の力は伊達ではない。
ブランクがあり過ぎる俺では到底叶わないレベルだ。
さらには《滅私奉公するモノ》の効果により、身体能力は最早人外の域だ。
男としてのプライド的にせめて健闘できるレベルになってから頼むとしよう。
気を取り直して、俺は意識を刀のみに向ける。
そして、何度も同じ動作を繰り返し、流れを洗練させる。
フォン。
フォン。
フゥン。
……ダメだ。
少しずつ改善はされているものの、未だ空を裂く音は好ましくない。
真っ直ぐに軌道を描けていないのか、空気抵抗による音が耳に入ってくる。
ひと段落着いたところで事件は起きた。
『誰かおらぬのか!』
決して小さくはない声が聞こえてきた。
方角でいうと……門の方からか?
『誰ぞいるのは分かっておるのだ。ええい、我らを〈レンテンド王国〉配下の騎士オーボエナッシ様と知っての狼藉か!』
非常に嫌なフレーズが聞こえてきた。
〈レンテンド王国〉だと?
レインが逃げてきた国ではないか!
厄介ごとの気配がする。
ひとまず俺はフバツソラヌン畑に行って、レインと合流を図る。
どうやらレインにも声が聞こえていたらしい。
動揺しているのが顔を見れば丸わかりだ。
「い、いかがいたしましよう?」
訂正、表情だけじゃないな。
声も含め動揺しているのが丸出しであった。
「落ち着け。」
「こ、これが落ち着いていられますか!何故こちらにいることが分かったのでしょうか?足取りなど掴みようもないはず…」
ここまで取り乱したレインは初めて見るな。
まあ見るならもっといい場面で見たかったな。
くっくっく、つい忍び笑いをしてしまう。
「わ、笑っている場面でございません!ああ、本当にどうしたら良いのか…」
このやりとりの間も外からは断続的に声が聞こえてくる。
とりあえず声の主は男性に違いない。
話し方も横柄だし、自分で名乗っているところを鑑みるに真っ当ではない貴族かな。
ただ一向にレインに関するワードが聞こえてくることはない。
わざとなのか、あるいは無関係なのか。
「とりあえず俺が会ってくるよ。レインは念のため待機していてくれ。」
「い、いけません。そのような危険なことは控えてください。」
「大丈夫だ、俺を害することなぞ不可能なんだから。それよりもレインのことが心配だから、頼みを聞いてもらえると嬉しい。」
「ご主人様…」
トロットロに蕩けた顔をするレイン。
う、うむ、また好感度が高まってしまった気がする。
だが、今はラブでコメしている暇はない。
「まあ、待ってて『居留守を決め込むとは良い度胸だ。そのような不遜な態度を取るなら、こちらにも考えがある。』…チッ。」
これ以上は待たせられないな。
俺はリメを伴い、門の方まで急行する。
門の方へ着いたところ、話し声が聞こえてきた。
どうやら相手方は複数いるらしい。
ただそこまでの団体というわけでもなさそうだ。
多くても10人といったところか。
俺は門を開き、外へと出る。
その際、門内部へと侵入されることを避ける為に《魔糸操作》を張り巡らす。
そして、相手方へと目を向けると、明らかに騎士然とした団体がいた。
予想通りの人数で9人いて、そのうちの2人以外は同じような格好をしていた。
おそらく、その2人以外は雑兵なんだろうな。
「やっと現れおったか、貴様我らを待たすとは良い度胸だな。」
他と格好の違う奴の1人が声を掛けてきた。
おそらくは隊長格。
明らかに他よりも高そうな装備をしている。
肥えた豚みたいな感じだし、相当裕福な経済環境なのだろう。
しかし、本当に鎧のサイズ合ってるのか?
パッツパツだぞ、特にお腹が。
はてさてどう対応するのがベストか…
ここはあくまでも〈不抜の樹海〉だ。
言うなれば治外法権、〈レンテンド王国〉の支配下ではない。
では、対等の立場で話しても問題はないはず。
「それはすまなかったな。どこの誰かも分からない団体に尽くすほどに馬鹿じゃあないんでね。」
「貴様、無礼であるぞ!」
「下民らしく遜った態度を取らぬか!」
雑兵の中からこちらを貶す声が上がる。
なんだ、雑兵も含め煽り耐性の低い特権階級なのか。
面倒臭いことになりそうだ。
「今の言葉は聞かなかったことにしてやる。ただ次はないぞ。」
これでもかと睨んでくる隊長格さん。
おそらく威圧してるんだろうな。
ただ悲しいかな、テンペストグリズリーと比較したら、プレッシャーは皆無に等しい。
これなら、高圧的に対応しても問題はなさそうだ。
「へいへい、次からは気をつけますっと。」
「貴様!」
「それでいったいなんの御用で?こちらも暇ではないんで、聞くだけ聞きますよ。」
「チッ、用件は簡単だ。ここにある物資を全て寄越せ。お前には我らに尽くす義務がある。」
は?
おいおいおい、やはりテンプレによくあるクソ貴族なのか?
なんでそんなことしなくちゃならないんだ。
だいぶ頭にカチーンと来た。
「それを受け入れる道理はないな。」
「なっ、貴様!こちらは偉大なる〈レンテンド王国〉の騎士だぞ。そのような態度が許されると思うなよ。」
「だからそれを受け入れる必要性が見当たらない。ここはその〈レンテンド王国〉とやらではなく、〈不抜の樹海〉だ。どこの国も所有していない。」
すると、それまで団体が纏っていた威圧的な態度が霧散した。
代わって、動揺した雰囲気が纏い出した。
「なっ、やはりここはそうなのか。」
「このような地へ送られるとは何ということか。」
「クソッ、あのような出来事がなければ…」
どうやらここにいること自体は不測の事態によるもので、望んでここにいる訳ではないのか。
レイン捜索の線も捨て切れないが、他の理由によるものである可能性も高い。
少し探りを入れるか…
「ああ、間違いなくここは〈不抜の樹海〉だ。あんたらは何故このような場所にいるんだ?」
「煩い、貴様には関係ないことだ。大人しく物資を寄越せ!」
「対価もなく物を渡すほどお人好しじゃあないんでね。説明だけでもしてくれたら、多少の融通は考えよう。」
「平民風情が無礼だぞ!それ以上囀るならこちらも強硬手段を取らせてもらう。」
与えられるのが当然という認識で生きてきたのだろう。
現状というやつをまったくもって理解していない。
ここは世界的にも類稀なる危険地帯だぞ。
そんな場所に拠点を作れる相手によくもまあ高圧的な態度を取れる。
明らかにヤバイ奴に決まっているのに。
俺が同じ立場なら、とりあえずは下手に出るぞ。
まあこれ以上関わるメリットが存在しないな。
丁重にお断りさせていただこう。
「ああ、そうか。なら話はここで終わりだ。」
「ま、待ってください。もう少しお話を…」
それまで沈黙を保っていた、隊長格ではない特異な格好をした1人が声を上げた。
思ったよりも高い声だな、中性的という印象を受ける。
フードを被っていて性別はよく分からない。
だが、こいつが1番話ができそうだな。
「分かった、これが最後のチャン「ひ、姫様!何を!」…ス…」
へっ、姫様?
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