第48話 特訓開始
こちらは本日2話目です。
前話は12時の更新となります。
未読の方は是非ご覧になってください。
テンペストグリズリーとの戦闘があった昨日。
その後は疲れもあり、〈安息の樹園〉の家に着いた途端死んだように寝た。
そして朝起きた時にレインから小言を言われてしまった。
どうやら、あまりにも急に意識を落としたため、生命の危機に瀕しているのでは、と思ったらしい。
一応心音など聞いて命に別状はないと確認はできたものの、気が気ではなかったみたいだ。
顔を見ると、眠れなかったのだろうか、目の下に隈ができている。
俺は感謝の意を示して、そのままレインに一度睡眠を取るように促した。
綺麗な顔に隈なんかは似合わないならな。
レインがベッドで寝息を立て始めたことを確認して、俺は家の外に出た。
勿論己を鍛えるためだ。
寝る前のレインと約束したこともあり、〈安息の樹園〉内でのみ行動する。
念入りなストレッチを行い、本格的な特訓を始める。
どの分野を伸ばすか考えながら、拠点の壁伝いにランニングを開始する。
〈安息の樹園〉は四方50mの大きさであり、一周すると200mと学校にあるグラウンドのトラック一周と同距離になる。
ひとまず5km分の25周走ることにする。
元々運動自体は苦手ではなく、学校やそのクラス内で見ると中の上程度といったところだ。
短距離走は得意で学校でも5本指には入るぐらいで、瞬発力等の瞬間的な力は自信がある。
ただ長距離走は苦手で、クラス内でも下から数えた方が早いレベルだった。
スタミナは継戦能力にも関わってくる大事な要素なのでランニングでの底上げを目指す。
……さてと、如何に戦うかだな。
スキルが使えるなら、基本は《魔糸操作》主体に戦えば済む。
なんせ《魔糸操作》で生み出した糸には【分解】の権能の一端が宿っている。
単純な固有スキル、勿論ただのスキルで対抗し切れるとは限らない。
無抵抗のままスッパスッパ刻んで殲滅できる。
たとえ相手が単体だろうと複数だろうと変わりはない。
じゃあスキルが使えない場合はどうするか。
その時点で今の俺が使える能力は【分解】の権能である《素材分解》《情報分解》《分解結界》《認識分解》だけである。
とりあえず《分解結界》に関しては必須だ。
これさえ使っていれば、生半可な攻撃で俺に被害を与えることはない。
これは先の奴との戦闘の時に実証された。
ただ、空間ごと飛ばされていたから、過信しすぎるのも問題だ。
直接俺内部の座標に作用されたら防ぎ切れるかも保証されてはいない。
仮にスキルが使えない場合は、身体の表面に張っている《分解結界》の防御力に任せて撤退すればいい。
撤退は恥という風潮があるかもしれないが、所詮は命あっての物種。
生き残ることに全力を尽くそう。
では、スキルの使えない状況、なおかつ戦うことを強いられてしまったらどうすればいいのか。
生身の状態で相手に反撃を与えることなど難しい。
しかもスキルが使えなくなる状況にできるような相手だ。
相当な猛者だろう。
そう考えると一撃に全てをかけた方がいいか。
俺の能力の詳細を知られないうちに、短期決戦上等で挑んだ方がいい。
逆に長期戦だと、お互いに決定打に欠けてジリ貧だ。
最悪の場合、権能すら対応される可能性すらある。
短期決戦となると、俺の武器の都合上、抜刀術になるのか。
ここは異世界だからスキルとしての《抜刀術》もあるだろう。
しかし、そういうシステムによるものでなく積み重ねた経験による技術としての抜刀術が求められる。
抜刀術なら少なからず触れたことがある分野だ。
俺の住んでいた地元から程遠くない場所に抜刀術の祖に当たる人物が祀られていた神社があった。
その影響なのか、過去数年間習い事で抜刀術を学んでいた。
触り程度しか身に付いてはいないが、基本だけは理解しているつもりだ。
師範からもこのままいけば大成できると太鼓判を押されていたため、センスもあると信じたい。
とりあえず刀に慣れるところから始めよう。
ふう、疲れた。
鍛錬もひと段落ついたので今日の所は終了だ。
まだまだ習っていた頃に比べると粗さしかない。
俺は疲れた体を癒すため、家の中に戻り浴室へと向かう。
浴室は個人的には傑作だと思っている。
なんて言ったって浴槽は木製だ。
地球にいた頃は温泉によく行っていったし、檜風呂とかに憧れていた。
せっかくだから檜で浴槽を作ろうと思ったが、頼れる味方フバツハートチークがここでも活躍した。
檜より数段上な性能で、しかも香りも優れている。
まさに極上のリラクゼーションだ。
さらに妥協せず俺の能力もフル活用だ。
お湯が溢れてもいいように大きなフバツハートチーク製の板を浴槽の下に設置している。
これには水と老廃物を排除対象とした《素材分解》が施されているため、恒常的に清潔が保たれている。
この水と老廃物を排除対象とした《素材分解》はその板だけではなく、天井や壁にも施されている。
そのため、結露したりすることなく、カビも生えない。
ただ一つ残念なことは浴室には今のところ浴槽しかないことだ。
シャワーがないため、桶を使って身体を洗ったりしている。
生活魔法で洗浄してもらえば、別にわざわざ身体を洗う必要はないのだが、やはり風呂に入る以上はお湯を使って綺麗にしたい。
ゆくゆくはシャワーそのもの、もしくはシャワーの代わりになる魔道具を作りたいところだ。
風呂から上がった俺は再び刀を手に取る。
ちなみに今持っているのはメイン武器の異刀:不抗ではなく、木刀:薄刃である。
どちらの武器も今はなきリメの《生み出すモノ》で作り出しただけにフィット感が抜群だ。
しかし、まだ刀を持っているという感覚がある。
これではまだまだ刀に慣れたとは言えない。
手に何も持っていないと認識してしまうレベルまで馴染ませなくてはならない。
フォン。
空を切る音が心地よい。
だが、精進あるのみだな。
「ご主人様、ご夕食の準備が整いました。」
すっかり目の下の隈が取れたレインが呼んでいる。
はてさて今夜のメニューはなんだろうな。
次回更新日は明日です。お見逃しなく…
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