第45話 一夜明けて
こちらは本日1話目です。
次話は18時の更新となります。
アイネが訪れた昨夜であったが、やけにレインが近い気がする。
大和撫子よろしく、自分の後ろ3歩ほどをしっかりと維持してシズシズとついてくる。
前はもうちょっと距離間に規則性がなかった気がするんだけどな…
まあ昨夜の感じから考えるに、そうゆうことなのだろう。
俺は鈍感系主人公ではないから、しっかりと気付いてる。
そしておそらくだが、アイネとの話も既についている。
……いや、悪い気は微塵もしない。
目を見張らんばかりの美人から迫られて、嬉しく感じないわけがない。
そのうえファーストキスまで受け取ってしまったんだ。
それこそ地球にいた頃にアピールされてたら、一発でコロッと落ちるという悲しい自信がある。
悲しい男の性だ。
ただ、現状俺はアイネと婚約してると思ってる。
うん、多分、おそらく、きっと、メイビー。
それなのに、レインに靡いてしまうのは不義理なんじゃないか、と冷静な自分が語りかけてくる。
異世界だから一夫多妻が普通らしいが、地球の常識の方が色濃い自分は消極的な姿勢にならざるを得ない。
しかし、責任も取らないとな…
いや、けれども…
だかな…
思考が堂々巡りだ。
自分がここまで優柔不断だとは知らなかった、と自嘲が漏れる。
ひとまずアイネが地上に来るまで、あと5ヶ月。
現状維持くらいに留めておこう。
とりあえず思考を頭の片隅へと追いやり、今やるべきことへと集中する。
《分解結界》を付与したミスリル糸を展開していると言っても、今は森の中。
何が起こるかなんて誰にもわからない。
世の中絶対と言えるものはない、警戒していて損はないのだ。
チラッとレインを見ると、お仕事モードに切り替えているのか、全身から警戒心が滲み出ている。
俺も見習わないとな。
数刻の後、目的の1つに辿り着いた。
目の前には熟れた果実をこれでもかと実らせている樹木が立っている。
見覚えのある食欲をそそる色味だ。
是非チーズとオリーブオイルで味わいたい。
《情報分解》の能力を使い、対象の情報を確認する。
[フバツトマト]
不抜の樹海でのみ自生している、世にも珍しい
トマトが実る樹木。
日照量の差により、同じ樹木でも部分ごとにト
マトの品質に相違が生じる。
受粉せずとも結実する単為結果性を有し、さら
には季節関係なく通年果実を実らせる。
果実に毒性はない。
その説明文にはトマトであると記載されていた。
うん、トマト?
あれ、樹木にトマトって生えるっけ?
?さすが異世界のトマトだな?
1人でツッコミまでして納得する。
いや、正直未だに混乱は解けてはいない。
「ま、まさか樹木にトマトが実るとは…」
やっぱり変なのか!
レインも初めて知ったという驚愕を示している表情だ。
どうやらこちらの世界でも、トマトは基本的に蔓性の植物だという。
まじかよ、なんだよこの異世界トマトは。
初めて見たとき、なんかトマトみたいだなって思ってたけど、まさかトマトそのものずばりだとはな。
まあ、いい意味で予想を裏切られたな。
トマトが手に入るとなると、あの調味料が作れるな。
若干足りない素材はあるものの、それっぽいものは作れるはずだ。
楽しみだな。
リメの土魔法で樹木を丸ごと掘り起こし、レインの風魔法で浮かせて〈安息の樹園〉まで運搬する。
「さて、どこに植えるかな…」
流石に樹木を適当に植えるわけにはいかない。
日照量は果実の出来に多大な影響をもたらす。
安易な配置は後々響いてくるだろう。
拠点の現状整理をしてみるか。
〈安息の樹園〉は住居であるログハウス調の建物を中心に構成されている。
住居の西側及び北西側はフバツソラヌンの畑が耕かされている。
元々は北西側の一部だけだったが、一応の栽培ノウハウを掴めたため、その面積を拡大するつもりだ。
冬場に備えることも考慮して、元の面積のおよそ6倍を見込んでいる。
状況の東側は倉庫が2つ並んでいる。
住居に近い方が食糧用で、離れている方が鉱石用である。
もっとも食糧用と銘打ちながらも、実情はフバツソラヌンのみのための倉庫である。
実は元々逆であったのだが、フバツソラヌンの収穫前になって、家の近くに食糧置いてある方が都合がいいことに気づいた。
それで丸ごと中身を入れ替え、今の状態となっている。
したがって、今拠点内で空いているスペースは南側一帯と北側から北東側である。
……防壁の高さ的に南側一帯は影になる時間が多そうだな。
となると北側が妥当か。
フバツソラヌン畑に近ければ、オリ爺に管理を任せることも可能かもしれんな。
それに住居の裏手に木々って裏庭って感じがして、個人的にグッとくる。
ヒーリングスポットとしても使えそうだな。
その後も淡々としたペースで果樹を見つけては、拠点の北側へと運び込む。
あのトマトの木以降はこちらの異世界限定の果実ばかりだった。
一度食べたこともあるものばかりで、抵抗もない。
順調に事が進んでいた中、事件は起こった。
何度か果樹を運び込んだ後のことだ。
新たな果樹を求めて、川沿いを探索していた道中。
ゾワッ!
今まで感じたことのない感覚が背中を襲う。
なんだこれは?
武者震いではない、意図しない震えが起こる。
すると、その感覚をもたらした主がゆっくりと木々の間を抜け、距離を詰めて来た。
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