第44話 第一次修羅場
こちらは本日1話目です。
次話は18時の更新となります。
今、俺は猛烈にこの場から走り出したい。
リメが小さい身体で俺を守るように前に出てくれる。
そんな俺を2つの鋭い眼光が貫く。
フバツソラヌンの収穫も終わった翌日を迎えた。
そう、アイネが来る日だ。
日中は何事もなく平穏に過ぎていった。
今考えると、まるで嵐の前の静けさといった感じだった。
ただ日が傾き始めると共に、若干1名がピリピリとし始めた。
それは誰なのか?
他でもなくレインである。
理由を聞いても、女の問題であるの一点貼りだ。
深く触れてはならないと第六感が告げている。
そして時は来た。
開戦の鬨を告げるように、既視感のある豪華な扉が現れた。
そして、初めてアイネがここに来た時同様の過剰な演出と共に出てきた。
いや、その時以上かもしれない。
服装が明らかにキラキラしていて張り切ってる感しかない。
ただただ静かに微笑んでいるアイネ。
レインも同様に完全に作り込んでいそうな笑顔を浮かべている。
怖いよ。
「貴女がレインでいいのかしら?」
永遠とも思える静寂がアイネの言葉で終わりを迎えた。
なんか初めて会った時みたいな女神様っぽい言い方な気がする。
「はい、お初にお目にかかります。アインネス様。」
レインは一切怯むことなく返答する。
なんだその胆力、俺に分けてくれよ。
もう俺の背中、冷たいものでびっしょりだよ。
「ええ、そうよ。ふふふ。」
束の間の静寂。
されど、今の俺にとっては十分長く感じる。
「この度、わたくしはジョー様に命を救われました。どんな障害があろうとも、この恩を一生かけてお返しするつもりでございます。」
今度はレインから沈黙を破った。
どうして言葉を発するだけなのに、ここまでの圧を感じるんだ?
なんだろう、気のせいかな。
レインの右ストレートが見えた気がする。
対する、アイネは一瞬ではあるが、眉間に変化が起こった。
しかし、それは常人には認識できないスピードで行われた。
そのリアクションに気付けたのは、真正面から相手を見据えていたレインだけであった。
「へえ、そうなのね。さすが私の見込んだジョーだわ。まあ見返りを求めて、助けたわけじゃないって聞いたし、そこまで気負わなくてもいいんじゃないの?」
今のは分かった。
かなり皮肉を利かせたカウンターだった。
鈍感系主人公ではないと自負している俺でなきゃ見逃しちゃうね。
やめて、私の為に争わないで、とでも言ってみるか?
収拾つかなくなる気しかしない。
最早瞬きすら許されていないんじゃないかと錯覚するような空気の中、アイネとレインの応酬は激しさを増していく。
気付いたら、皮肉というより直接言葉で殴り始めてるな。
「いえ、ご主人様よりお許しは得ております。まさか、それを許容できないほど狭量な器であるわけございませんよね?」
「ええ、勿論。ただ私が思うに、ジョーの優しさに付け入るようなマネするのは恩を仇で返すようなものじゃないかしら?」
「それは甚だ見当違いであると思います。まさか、わたくしよりも先にご主人様と巡り会えましたのに、その心の広さをご理解していないのですか?」
「ふふ、おかしなこと言うのね。知っているに決まってるでしょ。ただ嫌なことでも受け止めちゃうことも少なくないから、心配になってね。ジョーったら昔からそうなのよ。」
「わたくしが聞いた話だと、アインネス様がご主人様と知り合って未だ数ヶ月であると認識しております。そんなごく僅かな期間でマウントを取られても反応に困ってしまいます。」
「別にマウントを取ろうとは思ってないわよ。ただ私の方が先に巡り合ったと言う事実を述べただけ。もしかしてだけど、今の皮肉にでも聞こえてしまった?ごめんなさいね、他意はないのよ。」
「そもそもの目的がわたくしに対する煽りであるなら、十分に皮肉と言えるのでは?そうなれば他意も何もないですものね。今一度ご自分の発言を顧みられては如何ですか?」
「ブーメランって言葉を知ってるかしら?ああ、知らないから、そんなにも言葉がすらすらと羅列できるのね。気づかなかったわ。」
ギャイギャイ、ぎゃいぎゃい。
よくもまあここまで言い合えるな。
聞いているこっちとしてはなかなか複雑な感情だ。
女性の、異性には見せない裏社会を見せつけられているのだ、仕方ないと言えば仕方ない。
それにしてもキリがないな。
いい加減口論を止めなくては。
このままだと、話が全く進まない。
「な、なあ、その辺で矛を収めないか?」
「ジョーは黙ってなさい。」
「ご主人様はお静かにお願いします。」
ひい、女の子怖いよ。
2人から相手を射殺さんとする視線が流れ弾となって俺に降り注ぐ。
口を一文字に結び、静かにしてますと言外にアピールをする。
そして2人は顔を見合わせ、アイコンタクトを取る。
そのまま、俺を置いてアイネのために作った部屋へと入っていく。
勿論俺はそれを黙って見送った。
数分後、2人は部屋から出てきた。
先ほどまでの険悪な空気は霧散しており、穏やかな表情を湛える様子を見て一安心した。
喧嘩良くない、ダメ絶対。
その後アイネを交え、いつも通りの夜を過ごした。
妙に2人はニコニコしていた気がする。
レインのアイネ様呼びとか引っかかることが多々あったが、頑張ってスルーした。
そんな地雷原に踏み込む勇気なんてない。
そして、この夜、アイネだけでなくレインにも唇を奪われた。
初めてです、という言葉を添えて。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……仕方ないから、貴女のことも認めてあげるわ。端的に言うと、ハーレム入りを許可するわ。独占したいという気持ちはあるけど、正直私1人には勿体ないいい男だもの。」
「寛大な判断に感謝致します。もうわたくしの中での主人は、ご主人様以外にあり得ません。もし叶わなければ、この身を捨てることも厭いませんでした。」
「そう、それだけの覚悟があるならいいわ。ただ何があってもジョーを悲しませるようなことはしないでね。もしそんなことがあったら、絶対に償わせるから。」
「改めて言われるまでもありません。ただアインネス様にも同じことが適応されますので、ゆめゆめお忘れなく。」
「当たり前ね。あとアイネでいいわよ、ただ私も今まで通りレインと呼ばしてもらうわ。」
「それではアイネ様と呼ばせて頂きます。今後ともよろしくお願い致します。」
「ええ、勿論。これからは2人でジョーに群がる女が現れたら、しっかりと見極めないとね。」
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