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第43話 初めての収穫

こちらは本日2話目です。

前話は12時の更新となります。

未読の方は是非ご覧になってください。

まともに魔法が使えることができないと気落ちして、〈安息の樹園〉へと戻ってきた。

そんなテンションだだ下がりの俺を迎えたのは、オリ爺からの嬉しい報告であった。


『主よ、フバツソラヌンの収穫が可能ですぞ。』



気がつけば、異世界ジャガイモを植えてから、明日でアイネが来るのは2回目だ。

したがって2ヶ月周期のフバツソラヌンはジャストで収穫時期を迎えたのだ。


それまでの落ち込んでいた気分も吹き飛び、晴れやかな気持ちになった。

いや、まだだ。

これから収穫するのだから気を抜いてはいけない。


俺とレインはそれぞれ農作業に適した服装に着替え直し、畑へと向かった。

地球のジャガイモの性質と変わらないのか、茎葉が見事に枯れている。

半月前までは花も咲き、青々しかった生命力に満ちていたが、今はその見る影もない。


「まあ、収穫作業を始めていきたいと思う。オリ爺には説明していたが、これでおそらく収穫できる段階だ。」


リメ、オリ爺、レインの3者は静かに話を聞いてくれている。


「俺の知っている同種に基づく予想なので、絶対にこの状態が正解であると言う確証はない。それは理解しておいてくれ。」


心の中で異世界ジャガイモも呼びするぐらいには、同種のものであると信じている。

しかし、それこそこの世界はファンタジー。

これまで通りの常識が通じるとは思わない。

細心の注意を払うに越したことはない。



収穫方法は至ってシンプルで掘り起こすのみ。

戦々恐々として、最初のフバツソラヌンに手を掛けたが、地球の時と相違なく、同じ方法で済んだ。


収穫してみたフバツソラヌンの様子を見てみる。

種芋の段階から思っていたが、ある一点を除き見た目は一般的なジャガイモと変わりはない。

その相違点とは、色である。

見慣れた茶色ではなく、これ以上ない有毒であるという自己主張に満ち溢れた濃い紫である。

……原産地のジャガイモってたしかこんな色だったっけな。


やり方さえ分かれば、あとは単純作業だ。

力加減を間違えないように指導しながら、皆で収穫作業に従事する。




なんだか非常に懐かしい気持ちになる。

昔こうやって畑仕事してたな。

家族みんなで喜んでた収穫時期に汗水掻いていたのも、まるで昨日のことのように思い出せる。


…………千景は元気にしてるのかな。

未練はなくなった、とは嘘であっても言えない。

正直また深い心傷を負ったのではないかと心配でしょうがない。

しかし割り切るしかない。

だって、もう会う手段がないからな。

……ふっ、薄情だって思われてるんだろうな。



「――ん様、ご主人様。如何なさいましたか?」


フバツソラヌンの収穫も終わり、ノスタルジックな気分に浸っていた俺にレインが声を掛けてきた。

いつのまにか意識が外界との感覚を遮断していたようだ。

気付くのがかなり遅れた。


――いや、なんでもないよ。


そんな言葉を返そうと思った。

けどレインの俺を見る目が、心底心配したような様子であった。

言外に、1人で抱え込まないで下さい、とでも言いたそうな目だ。


「……1人残してきてしまった家族のことを思い出しちゃってさ…」


レインには俺のここに至るまでの経歴を話してある。

そのため、この言葉だけで誰のことを指すかまで理解することができる。


俺は別に慰めが欲しいわけではない。

かと言って全て忘れろなんて言葉を貰いたいわけではない。

なんとも自分で形容のし難い不定形な感情だ。

それがわかってか、レインは特に言葉を発するわけでもなく、ただ正面から俺を見据えるのみである。

……これでいい、これでいいんだ。


さあ、気持ちをリセットしないとな。

こんな様子を妹に見られないからな。

凹んでても何も変わらないことは、とうの昔に味わった。


「ん、ありがとう。」


「いえ、わたくしは特に何もいたしてはおりません。」


「いいんだ、とにかくありがとう。」


レインが返す言葉を待たず、収穫したフバツソラヌンの元へと向かう。

量的には、地球のジャガイモを基準に考えると、3ヶ月分といったところから。

うむ、十分な収穫量だな。

しばらくは、畑の面積を広げて、フバツソラヌンの栽培に勤しむことにしよう。


ああ、あと果実系の木もいい加減拠点内に植えないとな。

別になくても困らないが、少なくなる度に森の中へ採取しに行くのは手間だからな。

来週あたりに済ませよう。




早速夕食時にフバツソラヌンの出番となった。


地球でジャガイモは、北欧を中心に主食とされている。

外国のみならず、日本国内でもジャガイモによる主食になりうる料理がある。

北海道の郷土料理である豪雪うどんは、厳密には小麦も使われているが、その麺の原材料のほとんどがジャガイモである。


まあここに小麦はないから、豪雪うどんなどを作ることができるわけではない。

安易ではあるが、マッシュポテトを作って食べた。


一口食べた感想として、美味いの一言に尽きる。

勿論地球にいた頃に、マッシュポテトを食べる機会は幾度となくあった。

そのどれよりも美味いと感じた。


それになんと言っても嬉しいのは腹に溜まる点だ。

この世界に来て初めての体験。

久しぶりにきちんと腹が満たされたと感じることができた。



これからしばらく主食として活躍してもらおう。

次回更新日は8/25(火)です。


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