第41話 魔力を感じよう
こちらは本日2話目です。
前話は12時の更新となります。
未読の方は是非ご覧になってください。
「そう言えば、レインが戦っているところ見たことないや。」
そう思い立ったが吉日。
レインの戦闘力チェックと、とある理由から洞窟がある西側探索へ繰り出した。
とある理由とは、レインから聞いた話がきっかけとなっている。
ここ数日間はフバツソラヌンの収穫に備えて、特に新たなことに着手することなく、基本的に〈安息の樹園〉へ滞在し続けていた。
そのため、必然的にレインとのコミュニケーションは多岐に及んだ。
ある時、やりたいことが見つかったので、レインに聞いてみたのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「魔法を使いたい、ですか……正直全属性の魔法を使えるわけではありませんので、お役に立てるかどうか…」
毎度のことながら謙虚なレインだ。
「まあそこまで詳しいことを聞きたいわけじゃないから。どちらかというと基礎かな。自分の魔法の適性ってどうやって調べたの?」
「はい、それでしたら容易なことです。それぞれの適性を持つ魔石に魔力を流してみて、それで反応を示した魔石の適性がそのままご自身の適性となります。」
たいぶ簡単な方法で適性がわかるんだな。
てっきりなにかの装置とかスキルを用いて、判別すると思ってたんだが。
あと、納得できた。
一度火の魔石を使って、料理しようと試みたが、悲しいことに無反応だったことがあった。
魔石って魔力流さないと使えないのね。
「へえ、そうなのか。なら幸いにも、火・水・風・土の一般的な適性の魔石はあるから、それでチェックしてみるか。どうすればいい?」
「魔石を握っていただいて、魔力を込めてみてください。」
うーん、それが分かれば苦労しないんだよな。
まあこの世界の全ての生命体には、大なり小なり魔力が宿っているらしいから、それが当然ということなのだろう。
魔法なんて物語の中でしか存在し得なかった地球では考えられないことだ。
「え?どうやるの?」
「あ、大変失礼致しました。魔力を認知するところから始めないといけませんね……と申しましても、どう説明したらいいものかと…」
悩むのも無理はないか。
かなり難しいことを聞いてしまったな。
…………ん?地球と違う?
こちらの世界に来てから、早2ヶ月。
その間、少なからず体内に魔力の源は取り込まれていたんじゃないか?
魔力を持つ魔物の肉も食べたし、魔力の回復効果のある水も毎日のように飲んでいた。
ということは地球とストラトラトスでは体内環境に差異が所持ているはずだ。
その差異とは、すなわち魔力やそれに類するもの。
この違和感さえ認識できれば、魔力も必然的に認識できるのではないか?
「――えーと、体内にある内なる魔力がオドで、体外にある外なる魔力がマナですので、いや、これでは今はあまり重要ではない……魔力の源である魔素を認識していただくにはどうしたものか…」
未だレインはブツブツと口籠もりながら、どのようにして伝えたものかと思案中らしい。
そんな彼女を横目に、俺は目を閉じ身体の中の違和感を探る。
目を閉じたことで、視覚以外の感覚が強くなったように感じる。
いつもは気にならない心臓の鼓動をハッキリと感じる。
土と草の香りを含んだ空気が循環器系を巡り、肺内に満ちる。
そして、末端に至るまで張り巡らされた血管の中を迸るなにかを感じた。
……これなのか?
明らかに地球にいた頃に比べて、血液の存在を濃く感じる。
勿論出血すれば、血という存在は明確なものであった。
しかし、平常時にここまでハッキリと感じることはなかった。
レインに確認してみるか。
「なあ、レイン。その魔力ってのは身体中で感じられるものなのか?」
「え、あ、はい、そうでございます。何か管のようなものが身体中に張り巡らされ、その中を魔力の源である魔素が流れております。それが如何なさいましたか?」
なるほど、やはりそうか。
話を聞く限りだと、血液中に魔素と呼ばれる物質が含まれており、それらは血液同様に血管内を巡る、と解釈できる。
「血管の中をその魔素って物質が流れていると認識でいいかな?」
「えっと、申し訳ございませんが、その血管?という名称に心当たりはありません。その魔素の流れる管は魔力管と呼ばれております。」
明らかに血管が通っている場所と同じ場所に存在を感じられるのだが違うのか?
それこそ心臓や大動脈なんかは他所に比べて、存在感は強い気がする。
……まさか、血管の存在は知られてないのか?
魔法で治療ができるファンタジー世界では、医療分野は発展し得ないということか。
便利さ故の弊害というやつだな。
この世界の医療技術についても後々調べたいところだ。
「いや、なんでもない。とりあえず、それらしきものを感じたんだ。」
「!左様でございますか。まさかおひとりで魔力の流れを感知できるようになられるとは…」
「まあ、確実にそれであるとは言えないけどな。」
「それでは、実際にわたくしの魔力をご主人様の体内へと流し込みますので、それを感知してみてください。では、失礼致します。」
そう言って、レインは俺の両手を握りしめてくる。
美人に手を握られると緊張する。
しかも正面から見つめてくるオプション付きだ。
やべえ、手汗かいてきた気がする。
そんな悶々とした気分でいると、右腕の方に違和感を感じた。
まるで得体の知れないものが体内へと侵入してくるような感じだ。
心地良さと不快さを併せ持った何かはそのまま身体の中を巡り、左腕の方へ至ると徐々にだが薄れていった。
レインをしっかりと見据える。
そして、目で語りかける。
『今のがそれか?』
それに対して、首を縦に振り応えるレイン。
一転してその表情から固さが消えた。
どうやら、目的は達成することができたようだ。
その後何度かパターンを変えて、どのレベルまで魔力を感じることができるのかを試した。
「それでこの魔力ってのは、どうやって魔石に流せばいいんだ?」
結局、魔力はなんとか認識する段階まで至ることができた。
まだまだ時間かけた上で、魔力を感じることだけに完全に集中しないと分からないがな。
微弱な魔力に関しては、受け取ることを知っているという前提がない限り、ほとんど気づかなかった。
やはり魔力の感受性は低いようだ。
「はい、魔力を感知さえ出来れば、以降の過程は容易でございます。まず、その魔力を魔石を握っている手の方へ移動させます。」
初手から感覚的な話になるのか…
俺は目を瞑り再び魔力の源である魔素を感知しようとする。
やはり、心臓を中心に身体中に存在しているようだ。
これを局所的に集中させるということなのか?
俺は魔石を握っている右手の方へ、集中的に血液を送り込むイメージをする。
実際そんなことができるわけがないが、何事もイメージすることは大切だ。
……徐々にだが、右手における魔素の存在が増している。
これで正解だったみたいだな。
「よし、おそらくできた。この次は?」
「はい、その溜まった魔力を魔石の方へ移します。これで魔石へ魔力を宿す作業は完了となります。」
くっ、やはりこの世界では出来て当然というレベルの話だから、説明が説明になってないな。
どうやって物を咀嚼するか説明するのと変わらないのだろう。
文句言ってもしょうがない。
大人しく右手に宿る魔力を魔石へ移そうとする。
これが意外と難しい。
何度も魔力を霧散させては、また右手へ集め直す作業を繰り返した。
長時間の試行錯誤の末、なんとか実現することはできた。
そのイメージとしては、手に力を入れずに力を入れるという、訳の分からない感じだ。
魔力を注いだ魔石は淡い色を放っている。
火の魔石だったから、赤い光だ。
なんだか少しだけ嬉しい。
俺の異世界初の魔力行使だ!
喜んでいる俺を尻目に、レインはボソリと言葉を漏らした。
「……どうやら、ご主人様は火の適性は低いようですね。」
…………嘘やん。
次回更新日は8/23(日)です。
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