第40話 ツヴァイング大陸②
こちらは本日1話目です。
次話は18時の更新となります。
「近いところは分かった。他にこの大陸にはどんな国がある?」
俺のレインへの質問は続く。
嫌な顔一つせずレインは答えてくれて、しかも結構詳しいところまで教えてくれるのでありがたい。
ほんとは自分の手で本とか読んで知識をつけたいんだが、そんな高望みはできない。
聞いたところによると、この世界では未だ活版印刷の技術は開発されていないため、本類は大変高価な品であるらしい。
あと、紙自体も羊皮紙が一般的で、流通量に期待はできないとのこと。
……俺の趣味が…
絶対拠点が発展したら紙作りに精を出してやる。
「いくつか存在しておりますが、特筆すべきは先の国々を除くと2ヵ国です。いずれも樹海及び山脈には面しておりませんので、直接影響を受けることはないと思われます。」
「まあ知識はあっても困らないからな。暇つぶしがてら、その国々も教えてくれ。」
転移魔法を覚えたりするとか移動手段を確保しない限り、行くことはないだろうが知る分には損はない。
「1つ目が、この大陸最大面積を誇る強国、レンテンド王国〉及び〈イルガシャーシ公国〉南部の一部が接している〈ヴィンスターズ帝国〉がございます。弱肉強食を掲げる軍事国家で、主に獣人種が国民の大半を占めております。しかし、他種族に対する迫害や差別があるわけではなく、完全な実力主義であり、国の中枢の要職にも他種族の者が就いているようです。」
「……軍事国家か…」
嫌な予感しかしない。
こいつは臭え。
愚王が支配していて、近隣諸国に侵攻をしまくっているという異世界もののテンプレ臭がぷんぷんするぜ。
思案していたのが顔に出ていたのか。
俺の考えていたことが分かったかのように、レインは補足説明をしてきた。
そんなに分かりやすい顔をしていたのか。
「軍事国家と言っても、闇雲に近隣諸国へ侵攻したり併合したりなどはしておりません。どちらかというと、他国のいざこざに武力介入して鎮圧するなど、この大陸での盟主的なポジションに位置しております。」
ふーん、盟主的ね。
ということは、EUみたいに明確な国家の枠組みを超えた超国家的グループは存在していないのか。
まあ地球の歴史でも、少なくとも西暦でも18世紀に入ってから生まれたぐらい遅咲きの思想だからな。
……いや、機関とかに限っていうならギルドは既に超国家的機関に該当するのか。
まあ何にせよ、国家の集合体組織は存在していない。
ただ、その〈ヴィンスターズ帝国〉は軍事力を背景にしたこの大陸随一の発言力を有しているということか。
少なくとも他国は完全に無視するなどできない程度には影響力は高そうだ。
ないとは思うが、なるべく目をつけられないように気をつけておこう。
「軍事国家でありながら、農業大国でもあります。広大な領土を持つため、大規模な農業事業を可能にし、その作物を他国に向けて大量に輸出しております。」
ふはっ、理想的な軍事国家だな。
自国内で食糧生産が賄えるのだから、もし戦争になっても兵糧が尽きることはない。
しかも、他国の食糧事情すら掌握してるため、取引停止するなど、いくらでも他国の弱体化を図れるというわけか。
レインが果たして気付いているかは分からんが、この国家運営の路線を考案した奴はかなり頭が切れる。
それこそ、英雄だ。
「それでもう一方の国ですが、〈イルガシャーシ公国〉と〈ヴィンスターズ帝国〉に接している〈イーサン・ハーレ教国〉がそれに該当いたします。かなり宗教色の強い国家であり、エーアン教が国教に指定されており、国民全てが信徒となっております。」
エーアン教?
また知らないフレーズが飛び出してきた。
説明してもらわないとな。
「エーアン教とは、〈イーサン・ハーレ教国〉を中心に布教されており、唯一にして最高神であるアルファネウスを信仰対象としております。」
おかしいな、この世界は複数の神々が存在するうえに、主神はアイネ、もといアインネスなはずなのだが…
教義も聞いてみたが、自分の知る神々との乖離を感じる。
ということは誰かが生み出した宗教ということか。
後日、アイネに確認してみたが、アルファネウスという神は存在しなかった。
まあ神々の中では、信仰自体はアイネに贈られている扱いになっているらしく、あまり問題ないらしい。
ちなみに、レインは特に信仰している宗教はないらしい。
強いて言うならば、俺を崇めているジョー教だ、とか言い始めたので、注意しておいた。
やめてくれ、まじでそれは恥ずかしい。
「それでこの国ですが、先の〈ヴィンスターズ帝国〉と対象的に、かなり種族差別が激しいです。純粋な人族を頂点にして、人族とのハーフまでは人権が認められており、それ以外の者に関しては奴隷扱いしても構わないとされております。おそらくわたくしが当国へ行けば、半日と待たず奴隷商行きでしょう。そのため、他国に比べると人々の行き来が少なく、だいぶ閉鎖的な国家ですね。」
異世界名物の胸糞慣習か。
やはり奴隷制は存在しているのか。
これに対しては、正直驚きはない。
実際に直面すれば話は変わってくるが、存在する必要があるから存在しているのだろうから、奴隷制に対する忌避感は薄い。
ただ、問答無用で奴隷にするみたいなものは反吐が出る。
そんなに自分たちが偉いのか?
同じ種族であるが、全くもってその考えが理解できない。
考えただけで吐き気がしてくる。
ここに関しては、絶対行かない。
「……だいぶお怒りのようですね。ご気分が優れませんか?」
「ああ、そうだな。けど、この感情は同種族が負うべき贖罪だ。コレから目を逸らしちゃならない。」
「……その悶々とした気持ちをわたくしの身体にぶつけてくださって結構ですよ。」
「冗談はやめてくれ……まあ気を使ってくれたのは分かる。ありがとな。」
気が利く女だな。
ただ、俺の返答を予想してなかったのか、頬がだいぶ赤くなっている。
思わず頭を撫でてしまう。
あ、さらに頬を朱色へと変えていく。
これ以上はやめておくか。
……残念そうな顔をするんじゃない。
仕方がないので、数分間同じように頭を撫でてやった。
「ちなみにレインはどこへ行くのがオススメなんだ?」
他にも国についての話を聞いたうえで、レインに質問した。
一応、冒険者だったと言っていたし、経験者に聞くのが1番だな。
「……国というより、都市になりますがよろしいでしょうか?」
ん、なんだか引っかかる言い方だな。
普通は国名を述べてから、その中の都市の紹介をするんもんだと思ってたんだが…
「ああ、構わない。」
「はい、わたくしのオススメは先の大国4ヵ国に囲まれている〈スウィーセファンド〉という都市でございます。こちらはどこの国にも属していない中立都市というものであり、言わば小さな国のようになっております。中立都市ということで多くの人々が行き交い、活気に満ち溢れており、各国の文化にその地で触れることが可能でございます。」
なるほど、言い回しが特殊であったことに合点がいった。
行きたくない国の文化もそこへ行けば触れることができるということは、かなりのアドバンテージだ。
是非将来的に訪れることとしよう。
気づけば、すっかり雨は止んでいた。
そして晴れ渡った夜空には大小明暗様々な星が輝いていた。
あの後も色々聞いたり話したりしていたからな。
けど、その分今日はとても有意義な1日であった。
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