第39話 ツヴァイング大陸①
説明回の前半です。
こちらは本日2話目です。
前話は12時の更新となります。
未読の方は是非ご覧になってください。
井戸が完成した翌日、残念ながら天候に恵まれず、室内で過ごすことになった。
俺は今、ソファに座ってリメを愛でている。
この感触が何ともたまらない。
ちなみにレインは何故か俺の隣にぴったりと寄り添っている。
……気にしたら負けな気がする。
まあせっかくの機会だし、レインにこの大陸のことについて聞いてみよう。
「なあ、この樹海って大陸の東端なんだろう?あの山脈向こうってどうなってるんだ?」
「どうと言われましても……いえ、ご主人様はこの世界について未だよく知られていらっしゃらないのですね。」
「ああ、生憎ここの樹海、それも一部しか知らない。あとは、通貨とか基本的なことぐらいしか知らないから良ければ教えてくれ。」
「かしこまりました。」
そう言って恭しく頭を下げるレイン。
……背も高いし、絶対スーツ姿似合いそうだな。
いずれ着せてみたいものだ。
くっ、俺の部屋にあった秘蔵本どうなったんだろうな。
「まず、樹海を囲むようにして存在しているクロージャーゼン山脈ですが、大陸諸国にとっては樹海の魔物を阻む防壁的意味を持っております。ご主人様は気にも留めていないようですが、本来ここの魔物は魔物ランクでB以上しか存在していません。そんな魔物を一般的な冒険者が相対したら、数分の命でしょう。
なんか知らない言葉が出てきたな。
魔物ランクなんて《情報分解》した時に出てこなかったぞ。
まあ内容の予想はつくが、一応確認しておきたい。
「へえ、そんなに強いんだ。ちなみに魔物ランクって何?」
「はい、魔物ランクとは冒険者ギルドが策定した魔物と討伐難易度の指標です。他のランクと同じようにF〜Sランクで表記されております。その基準ですが、Aランクの冒険者が単独で苦戦しつつも勝利できる魔物はBランクと、一つ上の冒険者ランクの者が討伐できるかどうかで判断されます。つまり、この樹海はAランク相当に至らない限り、入ることすらできない地とされております。まあ、あくまでも基準にしか過ぎません。」
「なるほどね、理解したよ。」
冒険者ギルドが独自に裁定した基準なのね。
だから《情報分解》でもランク表記がなかったんだな。
あくまでも指標に過ぎないから、曖昧な情報は安全を侵害しかねないからカットされると。
「話を元に戻しますね。それでその山脈向こうですが、まず山脈に接している国が南北と2つございます。」
ふむ、2つか。
いずれ山脈向こうには行きたいと考えていたので、知りたかった情報だ。
「まず、南の方ですが……元々わたくしがいた〈レンテンド王国〉でございます。一応国王が存在し王政を執っておりますが、実際は名ばかりの貴族政ですね。実質的に権力を持っているのは、4公爵家、いえ今は3公爵家です。そのうちの1つがわたくしが仕えていたジェンナー公爵家です。」
名ばかりの王政ね。
正直異世界に来たのだから、王様らしい王様を見てみたい。
となるとこの国は望み薄だな。
それにレインもあまりこの国に関して、語りたくなさそうだから、さらっとだけ教えてもらおう。
「他大陸との海運貿易が盛んで、様々な品々が取引されており、一種の経済大国でございます。そのため、他国文化も流入しており、この大陸の文化の発信地でもあります。また、船舶文化が発展しており、それに伴い、海軍が主力となっております。しかし、いずれもほとんどが各公爵家の支配下にあり、彼らによって牛耳られております。」
うわ、まじか。
経済大国とか、文化の発信地ってワードに魅力を感じたけど、最後の一文で行きたさが皆無になった。
けど貿易で取り扱われている品は気になるな。
穀物、野菜や香辛料の種が欲しい。
ん、そう言えばこの大陸の穀物事情はどうなってるんだ?
「途中で口を挟むようで悪いんだが、この大陸の主食は何を使ってる?」
「主食ですか?この大陸ではドゥウィートと呼ばれております小麦類ですね。」
「そうか小麦か……ちなみに米、稲はあるのか?」
「……一応ございますが、川辺や湿地帯など水分が多い地域に自生してるものでよろしいですか?あれらは、この大陸では主に家畜の飼料としての用途しかありません。んー、確か別大陸では主食として食べられていると聞いたことがあります。」
オッケー、米が食べられてないパターンね。
予想はしてた。
ということは種籾は案外容易に確保できるんじゃないか?
山脈向こうに行った暁には、種籾の確保に全力を注ごう。
「ありがとう、有益な情報だったよ。それで1つ目が、〈レンテンド王国〉だったね。もう一方の国について教えてくれるかな?」
話を脱線させてしまったので、軌道に戻す。
「はい、南の〈レンテンド王国〉に対して、北は〈イルガシャーシ公国〉でございます。元々この国は、〈レンテンド王国〉の陸軍戦力を担う最も大きな公爵領でございました。しかし、数代前の当時の当主が祖国に見切りをつけ、独立いたしました。独立当時は、〈レンテンド王国〉より強い反発を受けましたが、他国を味方につけ、武力を持って抵抗し、独立を目止めさせました。」
ほう、聞いてる限りだと先の国よりも良さそうに聞こえる。
「この国の国主は、公王と呼ばれ、代々その公爵家が務めております。教育が徹底されており、民草からの支持も高い善政を敷いているようです。また、各身分ごとの代表を集めて、国家運営に対する意見を求める場を設けているため、国民の不満なども少ないと聞いております。」
フランスの三部会みたいな感じか。
いや、それがさらに上手く行っているようなものか。
フランスのそれは結局行き詰まり、挙げ句の果てには革命へと至ったんだもんな。
そう考えると、一枚岩な国家と言える。
腐敗しきっている〈レンテンド王国〉とは大違いだな。
「国家の在り方についてはよく分かった。他の情報も教えて欲しい。」
「勿論でございます。先立って軽く触れましたが、〈レンテンド王国〉の陸軍戦力を担っていたこともあり、陸軍、特に騎士団の戦闘力には目を見張るものがあります。騎士団に関しては、この大陸でも最強の一角でしょう。しかし、基本的に平和主義の為、他国へ侵略することはないそうです。」
軍事力もだいぶ高い、と。
まあ山脈に接しているんだし、対抗戦力を保有していなければ国を維持できないだろうけど。
「商業などの経済分野は、可もなく不可もないといった感じで〈レンテンド王国〉に比べて数段落ちます。ただ、国内に多く存在するダンジョンやクロージャーゼン山脈に生息する魔物由来ものが多く扱われており、魔物関連の産業は発達している模様です。それに伴い、冒険者の出入りがとても激しく、彼らの利用する宿泊地や関連施設も発達しています。」
冒険者の多い国ね。
現時点で明確な身分を持たない俺としては、とてもウェルカムな状況だ。
素材売買もしやすそうだし、非常にポイントが高い。
それにしても、危うくスルーしそうになったが、ダンジョンもこの世界にあるのね。
異世界万歳だわ。
まあもし行く機会があったら、その時に詳しく聞こう。
よし、初めて訪れる国は〈イルガシャーシ公国〉にしよう。
まだだいぶ先の話になるだろうが、決めておく分には構わないだろう。
うん、〈レンテンド王国〉の方へは行かない。
行かない、絶対行かない。
……フリじゃないからな。
外から聞こえる雨音が止むことはなく、今もシトシトと心地よい音を奏でている。
どうやら、まだまだ話を聞けるみたいだ。
次回更新日は8/20(木)です。
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