第38話 井戸の完成
こちらは本日1話目です。
次話は18時の更新となります。
井戸を畑の周辺に設けることにしたので、ひとまずオリ爺に地下水脈の位置を聞き出す。
ちょうどフバツソラヌンの手入れも終わったところらしく、摘みたての花が瑞々しく畑の脇に置かれていた。
どうやら、手は空いてるみたいだ。
一連の経緯を掻い摘んで話す。
『なるほど、そういうことでございますか。尤も地下水に関しては、〈安息の樹園〉周辺は大部分が地下水の流れる土地なので、選り好みせんでも水の確保はできましょう。強いていうならば、あの辺りが一段と量が多いですな。』
どうやら、拠点は井戸を掘れば、空振りに終わるということはなさそうだ。
さらに詳しい話を聞くと、いわゆる水脈にあたる、透水性が高い地層である帯水層は深さ15mぐらいあるらしい。
想定していたよりも浅いところにあり、安堵した。
地球にいた頃読んだ文献によると、深層地下水と呼ばれるもので深さ2,500m級のものもあるらしい。
さすがにそこまでいくと井戸作りを断念する必要がある。
まあオリ爺の根が届く範囲で地下水の存在がわかったため、そこまで深くないことは予想していた。
前聞いた話だと、1番深いところで30m程まで根を張るらしい。
テリトリーの確保及び示威行為も兼ねているらしく、結構地下はオリ爺の根が張り巡らされているらしい。
一応いつでも撤去できるらしく、井戸作りにも支障はなさそうだ。
それでオリ爺に示された地点へと赴いた。
と言いつつも、畑と家のちょうど中間ぐらいの場所であったので、数m移動しただけだ。
オリ爺が根を操作して、目印となる穴を開けてくれたが、正直周りの地面との違いがわからない。
ほんとにこの下に地下水が流れているのか?
まあ、やるしかないので作業を始めよう。
まずはリメに土魔法を使い、帯水層の下部まで届く穴を開けてもらう。
最初は細くてもいいので、確実に目標地点までの穴を開ける。
深さは25m程になり、想像よりも帯水層が厚いことに驚いた。
その後、穿った穴自体を拡大していく。
魔法とはやはり不思議なもので、地面が抵抗なく蠢く様子に自然と目を奪われる。
……明日あたりレインに魔法の使い方を聞いてみよう。
四方2mほどの正方形に形を整えてもらい、ひとまず井戸の原型を作り終えた。
次に、井戸内の壁の強化だ。
勿論ここでの主役は俺の【分解】である。
しかし、かなり穴が深いため、地上からの能力付与は厳しいので、直接穴の中に入って作業する必要が生まれた。
ここで出番となるのが、レインだ。
《飛行》のスキルを使って、俺と一緒に穴の中に入ってもらう。
女性に抱き抱えられる男性という、側から見たら恥でしかない状況だが、背に腹は変えられない。
……うう、男の尊厳が…
俺は《分解結界》を付与しながら穴の中を降りていく。
壁の強度を補強しつつ、地中生魔物や動物、植物の根などが侵入しないようにする。
死骸とかで水が汚染されたら困るからな。
そして、半分ほど穴を降りてきたあたりで違和感に気付いた。
なぜだか、息苦しいような…
と思ったのも束の間、すぐに元通りになった。
「なあ、今魔法でも使ったか?」
「あら、お気づきになられるとは。縦穴式であるため、空気が次第と薄くなっておりました。大事を取って、エアパッケージという魔法を付与させていただきました。もしかして、不要でしたか?」
「いや、そんなことはない。ありがとう。」
危ないところだった。
垂直な穴であるから、空気の対流が起きにくいんだよな。
危うく酸素欠乏症になって、命の危機に陥るところであった。
俺の【分解】は、有を無にしたり、有を別の有にしたりすることは可能だ。
しかし、無から有は作れない。
それこそ、アイネの【創造】の能力になるからな。
エアパッケージってことは名前の通り、エアマスクみたいなものか。
全身を空気の層で包まれたらしく、若干膜が見える。
そうこうしていると、帯水層に到達した。
もうすでに水が染み出している。
ここからの付与は考えて行わないといけない。
まず、水が流入してくる、四方のうちの一辺に《素材分解》を付与する。
不要な分解処理対象として、各種病原菌と有害物質を弾くようにする。
水分とそれに含まれるミネラル分だけを井戸の中に流入させる。
次に、残りの辺及び底面に対して、フバツハートチーク製の木の板を貼り付けていく。
本当は金属製のものが好ましいが、あいにく生み出す技術はない。
いずれ作成できたら、付け替えるとしよう。
おっと、無限に溜め続けると井戸から水が溢れ出してしまうな。
木の板を帯水層全ての高さに貼らずに、3分の2ぐらいの高さまで貼ることにする。
そして、貼った木の板に対して、幾重にも《分解結界》を付与する。
水が染み出して、再び地面の中へ吸収されることを防ぐためだ。
木にとって過剰の水分は、腐敗の原因になるため、害意と認定できる。
そのため、《分解結界》で木の板を保護すると、水を弾き留めようとする素材に早変わりだ。
これで井戸の中身は完成。
さあ地上に戻ろう。
俺を抱き抱えていてくれたレインを労い、最後の建築作業へと移行する。
リメとレインに建て方の指示を出す。
まあログハウス作る要領と変わらないから、何度か建築作業をしているリメはすぐに理解してくれた。
レインも次第に慣れていき、早いペースで進んでいく。
その間、俺は汲み上げるための滑車を作る。
丸い形のフバツハートチークの板を出し、アンチディスダイト製の工具で溝を掘っていく。
……力加減がかなり難しい。
何枚か木の板をダメにしてしまった。
《分解結界》を滑車に付与すると、摩擦すらなくなるので、汲み上げることができない。
そのため、作用部の強度は細心の注意を払わないといけない。
中心の厚さに注意しながら、形を整えいく。
俺が削り終わり表面を滑らかにしていると、リメとレイン組の作業も終わりを迎えていた。
だいぶ立派な井戸だな。
滑車をくくりつけたところで、1つ気づいた。
よくよく考えると、縄がない。
縄を綯うためのわらが探索した限り、存在していなかったからだ。
ミスリル糸を使うって手もなくはないが、糸自体かなり細い。
容易に手のひらを切り裂く。
また、綯わせて太い縄状にしようにも、30m弱必要になるため、素材が圧倒的に足りない。
それよりもミスリル糸が勿体ない。
悩んでいると、レインが寄ってきた。
「如何なさいましたか?」
「ああ、実は…」
今抱えている問題をレインに対して話す。
すると、キョトンとした顔でレインは代替案をさも当然に提案してきた。
「それでしたら、木の蔓や根を用いればよろしいのでは?幸いここにはオリバー様もいらっしゃいますし、容易に丈夫なものが入手できると思います。」
……どうやら頭が固くなっていたようだ。
別にワラやミスリル糸に固執する必要はなかった。
地球の常識とやらに未だ囚われていたようだな。
もう少し柔軟な発想を心がけよう。
オリ爺に頼みに行くと、二つ返事で了承してくれた。
十分な耐久力のある蔓をもらい、それで縄を綯う。
若干ワイルドな縄になったが、これで井戸は本当に完成だ。
早速、試飲するために、縄の先に木製のバケツをくくりつけ水を汲み上げる。
うむ、美味い。
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