第35話 海からの帰路
こちらは本日2話目です。
前話は12時の更新となります。
未読の方は是非ご覧になってください。
昨夜の、アイネとの痴話喧嘩からのイチャイチャというイベントを経た俺は今樹海を進んでいる。
正確には、行きで下ってきた川沿いを逆走している。
ちなみにレインから風魔法を付与してもらって移動している。
リメは俺の腕の中でしっかりと抱きかかえている。
今回リメはお休みだ。
周囲の景色がドンドンと置いてけぼりになっている。
流石、超級魔法すら使えるだけのことはある。
聞いたところによると、各魔法レベルが5になると、自分以外の対象に魔法の効果を付与できるようになるらしい。
適性があっても、魔法を使うセンスがないと、付与させることはできないとのこと。
そして付与できるようにならないと、上級魔法は使えるようにならないそうだ。
Lv5が言わば登竜門なのか。
「それにしても、もう海岸にいなくてよろしかったのでしょうか?」
傍らにいるレインが聞いてくる。
「ああ、この状態がまだ続くようなら、ここに留まる理由もないしな。それに、目的の1つは果たせ
た。」
そう、今回の探索兼素材採取は終わったのだ。
未だに海は静かになる気配がないほど、大荒れだ。
そして、当分この状態は継続するらしい。
どうにも、〈不抜の樹海〉に関する文献で出てくる現象に酷似しているとのこと。
その現象の名は、"大荒海"。
正直安直なネーミングだと思った。
しかし、その実タチが悪い現象で、毎年春頃の数ヶ月の間に渡って、〈不抜の樹海〉近海が、この大時化の状態が続くとのこと。
その発生のメカニズムは判明しておらず、諸説では海に眠る何者かが動いた影響だとかとも言われているらしい。
……後々のフラグな気がする。
それに、目的であった海塩の採取は無事達成できた。
荒れている海と言えど、リメの《ストッカー》で一時的に海水を貯蔵することなぞ造作もなかった。
その取り込んだ海水を用意した陶器の容器に適宜出してもらいながら、《素材分解》を行った。
海塩とそれ以外のものに分解することができ、前者だけをリメに回収してもらった。
その間、手持ち無沙汰であったレインは周囲の警戒をしつつも、目の前でされる行為に幾度となく目を奪われていた。
神の為す偉業を目の当たりにしたかの如く、キラキラした目を向けてくる。
……やめてくれ、見られてると流石に恥ずかしい。
ちなみに海塩にも《情報分解》をしてみた。
[大荒海塩]
"大荒海"の時期に採取された海塩。
海に住う邪悪なる者の影響により、闇魔法の性
質に変容してしまっている。
若干の中毒性は持つものの、そのさっぱりと洗
練されたような風味により、如何なる料理にも
マリアージュをもたらす。
案の定というか、予想通りの展開だな。
洞窟で取れた岩塩が光属性だったから、闇属性来そうだなと思ってたが…
しかも、海に住う邪悪って、あきらかに厄介ごとの気しかしない。
やっぱりフラグが立ってるじゃないか!
くっ、俺のスローライフが…
しかし、海塩自体に罪はなく、説明文を見るに高いポテンシャルを宿していたので、採取作業はかなり捗った。
それでやれるだけのことはやったために、帰路に着いているというわけだ。
ちなみに海に建てた拠点はそのまま残しておくことに決めた。
【分解】をフルに発揮させて保護しておいたので、次回以降もそこを維持し利用しようという魂胆だ。
行きの川下りで3日かかったこともあり、日帰りで樹海の拠点に戻ることは困難であったため、開けた土地で野営することにした。
ちなみにそう言い出したのはレインだ。
夜間移動はリスクが高いので、一般的に避けるのが常識らしい。
まあ塩の採取作業で若干疲労感のある俺からしたら断るわけない提案だったので、二つ返事で了承した。
あとレインは元々Aランクの冒険者であったこともあり、野営に関する知識も豊富で、経験も十分にあるということだ。
この際、正しい野営方法を習っとくのもいい経験になるかもしれない。
恵まれた能力のおかげで、異世界転移初日から屋根の下で寝泊まりできている身としては、新たな知識を手入れられるのは嬉しい。
そのことをレインに伝えると、またも驚愕しつつも、直後得心した顔になった。
徐々にだが、俺の言うことやることに慣れてきているようだ。
「それで、本拠点の方には、ご主人様以外にどなたがいらっしゃるのでしょうか?」
ん?あれ、言ってなかったっけな?
会話のログを遡りながら、言い忘れてたことを思い出す。
「ああ、伝えてなかったけど、俺1人だけだ。」
「…………はい?」
「まあ正確には、人間は俺だけ。あとはここにいるリメと、オリヴァントのオリ爺の3人だ。」
「……嘘ですよね?」
レインが、顔を近づけ、まじまじと見つめてくる。
どうやら、信じてくれていないらしい。
まあ俺以外人族かいないとなれば、疑いたくなるのも当然か。
ちなみにリメとの初対面は特に抵抗なく終わった。
《鑑定》持ちなこともあり、リメの存在がどのようなものか認識して、平伏しようとすらした。
まあこれからは一緒に過ごすんだから、そういうのはなしでお願いね。
それにしても、この状況。
な、なんか美人に言い寄られてるみたいで、興奮するな。
……いや、やっぱなんかちょっと恥ずかしい。
よくよく見てみると、レインもほんのり頬を染めている。
お前も恥ずかしいんかい!
「いや、残念ながら正真正銘本当だ……照れるから離れてくれ…」
「そうですか、わかりました。とりあえず信じましょう。」
「ああ、そうしてくれ頼む。と言っても無理もないだろうから、俺の身の上話をしようか?俺がここにいる理由も気になるだろう。」
「是非!」
悔い気味に答えるレイン。
心なしか、目が輝いている気がする。
そして、また顔を近づけようとしてくる。
とても嬉しいけど、近い近い。
そして俺は今日ここまでの日々を語り出した。
「――という理由で海岸にいたんだ。これからはレインが知っている通りだから、説明は省くよ。」
最初にくべた薪が燃え尽きた頃、俺の話は終わりを迎えた。
まあ、全ての薪が燃え尽きたってならないあたり、まだまだ日の浅さを伺える。
「……なるほど、そのような理由があって…」
レインは俺の話に口を挟むことなく、時折相槌を打ちながら聞いていた。
途中、アイネとの話になった時、若干眉がピクッと反応を示していたが、気のせいだと信じたい。
「…………敵は1人か…」
今も何か小声で言っていた気がするが、気のせいだ。
うん、おそらく、たぶん、きっと、メイビー。
だから何か決断したような表情も嘘であってくれ。
「ま、まあそういうわけで、俺の拠点に来た人族第1号はレインになるね。まだまだ発展させたいと思ってるから、これからよろしく頼むよ。」
「はい、わかりました。わたくしが誠心誠意ご主人様の傍らでサポートし続けます。」
……ちょっと違うニュアンスを含んでそうだが、触れてはいけない気がした。
君子危うきに近寄らず、だな。
次回更新日は明日です。お見逃しなく…
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