第34話 雨降って地固まる
今回はアイネ目線でお送りします。
こちらは本日1話目です。
次話は18時の更新となります。
アイネ目線
「で?何か弁解することはあるかしら?」
私は少し不機嫌である。
恋仲となった相手が、わずか数日で他の女の子を引っ掛けたからだ。
こんなにも節操なしとは思わなかったわよ!
確かにレインって子は自分のものにしたくなっちゃいそうな女の子よね。
胸も私よりも立派だし、所作を綺麗だし、胸も大きいし、従順そうだし、胸も綺麗だし、Fカップもあるし…
今まで抱いたことのない感情が胸の中に宿る。
これは……なんなのだろうか?
名前もわからない黒く重たいものが心の中で蠢く。
『……い、いえ、何もありません。この度は大変申し訳ございませんでした!』
そう言いながらジョーは誰もいないはずの虚空に向けて土下座する。
おそらく私に向けてのものであろう。
……惚れ惚れするようなレベルの土下座ね。
「ふん、どうだか?私たちは既に恋仲というのに他の女にも手を出す……」
『え?』
どこか驚くような要素があったかしら?
自分では至極当然のことを述べたつもりであった。
『――お、俺たちってもう恋人だったのか?』
え?
信じられない言葉を口にするジョー。
え、だって、嘘よね…
お互い好き同士で想いを伝えあったじゃない!
そのうえキスまでしたのよ?
私なんて生まれて初めての経験だったのに。
…………ああ、なんだ。
アレは私の思い違いだったのか…
知らず知らずのうちに頬を温かいものを伝う。
しかし、その液体はどこか冷たく寂しさすら感じさせた。
私の表情が見えていないにも関わらず、理解してしまったのか、ジョーは慌てて弁明してくる。
しかし、どうしても今はその言葉が空虚なものにしか聞こえないのだ。
『ま、待ってくれ!もう俺たちは恋人同士ということでいいのか?てっきり俺はあと半年、じゃなかった6ヶ月待たないといけないと思ってたんだが…』
「い、いえ、いいのよ……馬鹿みたい、勝手に舞い上がったりしてて……私の独りよがりだっただけ……そうよね、わ、私なんて……愛を育む資格なんてな…」
『やめろ!その先は言うな!』
急にジョーが声を荒げた。
ズキッと胸に痛みが走る。
『……確かに関係をはっきりさせてなかった。それで今アイネを傷つけてしまった……本当に自分が情けないと思ってる。け…』
「や、やめて、もうそれ以上何も言わないで!』
『いいから、聞いてくれ!』
嫌だ、イヤイヤ。
聞きたくない聞きたくない。
言い訳なんて聞きたくない。
これ以上その声で語りかけないで。
いつの間にかその声が聞こえてくるだけで安らいでいる自分がいた。
夜になるまで、その声を聞くことを待ち遠しく感じていた自分がいた。
その声で私の夢を壊さないで。
所詮私は女神。
万物の母にして、世界を司る者。
片やジョーは異世界からやってきた極普通の青年。
それも私が能力を与えていなければ、この世界でまともに生きていけないレベルの。
そんな神と人との2人で愛を育むなんて、そんな幻想を見たのが過ちであったのだ。
『私に恋愛する資格なんてないとか言うな!いったい誰にその許可を得ればいいんだ?恋愛なんて誰だってする。勿論しない者だって一定数は存在するさ。けれど、恋愛してはダメだと決めつけるのは違う。人を愛するのに資格もクソもないんだ。』
いつもより乱暴な言葉。
けど、今はそれが何よりも本心であるということを証明してくれている。
『――俺のアイネに対する想いは本物だ!そんな俺の前で自分のことを卑下しないでくれ、資格がないとか言わないでくれ……たとえ本人だとしても言って欲しくない。』
思わず息を呑む。
先ほどまでの悲哀よるものではない、歓喜の温かさが目元に宿る。
不思議と胸が高まってくる。
「な、なにを…」
『俺は初めて見たとき、心底惚れた。外見だけの、一目惚れってやつだ。けれど、その内面を知って、一緒に話していて、同じ時を過ごして、さらに想いは深く大きくなっていった。だから、俺が惚れた女が自分自身を否定するのはやめてくれ…』
深く息を吸う音だけが聞こえる。
今、私の周りからそれ以外の音が全て消えていた。
『――俺はそのままのアイネが好きなんだ。』
嬉しい。
月並みの言葉しか出てこない。
とっくに私の言語機能は停止している。
嬉し涙がボロボロこぼれ落ちるが、構わない。
この溢れることを知らない気持ちの結晶を拭い去るのは間違っている。
暫くの間、ジョーは無言でいてくれた。
その無言すら心地よく感じてしまう。
涙のブラインドが掛かっていなければ、きっと穏やか微笑みを浮かべた彼が見えただろう。
「……じゃ、じゃあ私たちはお互いす、好き同士でこ、恋人ってことでいいのね?」
『ああ、それで間違いない。ゆくゆくは夫婦になれればいいとさえ思ってる。いや、必ず結ばれるさ。』
聞きたかったこと以上の言葉をジョーは紡いでくれた。
せっかく涙も収まってきたのに、また泣かせたいのかしら。
先ほどからボロボロ泣いているわね、私。
ジョーがこちら側を見れないことに感謝する日が来るなんてね。
ああ、早く会いたいわね。
次の夜が待ち遠しくて仕方ない。
「ふふっ、嬉しいわ。思わず涙が出てしまうくらいに。これは初めての喧嘩というやつかしら?喧嘩するほど愛が深まると聞いたことがあるわ。」
『喧嘩どうかわからんが、お互い思ってることをぶつけ合えた。だから、相手のことを前より理解できたんじゃないかな?』
「ええ、そうね。仲を深めるためにも、また喧嘩しましょう。」
『喜んで喧嘩したくはないな。まあ思ったことがあったら遠慮なくぶつけてくれ。俺もそうするし、ちゃんと受け止めるからさ。』
嘘ばっか、私に文句言うつもりもなさそうな顔して何を言ってるんだか。
「ふふ、いい男ね。私には勿体ないくらい。」
『バカ言え、アイネの方こそ俺とは釣り合わんいい女だよ。』
その後、とても他人には聞かせられないような蜜語を交わし合い、甘いひと時を過ごした。
話終わってから羞恥に駆られ悶絶するまでがワンセットよ。
ふふっ、色々言い合ったけど幸せな気持ちでいっぱいになれたわ。
これが愛を育むということなのね、とても素敵なことね。
けど、絶対あのレインとかいう子は、危ないわね。
鳥人族は一度主人と認めた相手には生涯懸けて尽くすという、細胞レベルに刻まれた本能がある。
絶対ジョーのこと主人として認めたわ。
それに、自覚があるかわからなけど、たぶん惚れてるわ。
そうよね、命を救ってもらったんだもの。
まるで地上の人々が紡ぐ恋物語にありそうな展開だもの。
ええ、きっとそうね。
……相手がジョーなら間違いなく私は堕ちるわ。
独占したい気持ちは勿論あるのだけど、私1人には勿体ないほどのいい男なのよね…
この世界は一夫多妻も認められていることだし、他の女の子を娶ることも受け入れるべきかしら?
けどそうすると、私と過ごしてくれる時間も減ってしまうし…
そして、初めて恋した女神様はまた苦悩する。
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