第32話 レイン=クラリオネス①
こちらは本日1話目です。
次話は18時の更新となります。
「--はい、わたくしは〈レンテンド王国〉ジェンナー公爵家筆頭メイド、レイン=クラリオネスと申します。いえ、失礼致しました。元筆頭メイドです。」
綺麗なハープのような声色で、救助した女性――レイン=クラリオネスは俺に話しかけてきた。
いくつか気になるワードが飛び出したが、とりあえず相手の話を聞こう。
「まず、感謝致します。嵐に見舞われ、数日間漂流し、なんとかこの地へ漂着することができました。しかし、満身創痍で身体を動かすことができず、危うく魔物の群れに蹂躙されてしまうところでした。
……本当に助けていただきありがとうございます。」
綺麗な所作で頭を下げる彼女。
ふむ、意図的にこの地へやってきたというわけではないのか。
「いや、そこまで感謝しなくても大丈夫だよ。俺も偶然見つけたから助けられただけで、助けられなかったかもしれないんだから。」
「いえ、それでもこの身を助けてもらえたことには変わりないのです。」
義理堅いなあ。
とりあえず情報が欲しいから、《情報分解》を使ってみるか。
ただ何も言わずに調べるのは、マナー違反な気がするから確認取らないと。
「ああ、そうだ。レインさんとでも呼べばいいかな?ちょっとあなたについて調べたいからスキルを使ってみていいかな?」
「名前の方は、レインと呼び捨てしていただいて構いません。それで能力でわたくしのことを調べるとはどういうことなのでしょうか?」
「わかった、じゃあ俺のことは丈と呼んでくれ。でスキルでレインを調べるってのは、平たく言うと、俺に敵対心があるかどうか調べたいのさ。」
「そういうことなら構いません。どうぞご確認ください。」
いきなり着ていた服を脱ごうとするレイン。
待て待て、そんなことしなくてもいい。
スキルで確認するだけなんだから。
俺は脱衣し始めたレインを必死になって止める。
……けどやはり大きかったな、何がとは言わないけど。
名前:レイン=クラリオネス
種族:鳥人族(ツル系)
立場:[中立(友好)]逃亡者 …
能力:《滅私奉公するモノ》
《鑑定》《隠蔽》《飛行》
《領域感知》Lv6《身体操作》Lv8
《槍術》Lv7《風魔法》Lv8
《滅私奉公するモノ》
固有スキル。
家事スキルが大幅に向上する。
また心の底より、己が主人と認めた相手の側に
いる限り、身体能力が最大100倍になる。
ただし、主人からの命令に反すると、身体に致
命的なダメージをもたらす。
ちなみにまだ、主人と認定した者はいない。
《飛行》
鳥人族は基本的に所持しているスキル。
重力を無視して、空を飛ぶことができる。
《身体操作》
体術などの身体を扱い方を補助するスキル。
《槍術》
槍を用いた戦闘を補助するスキル。
《風魔法》
風魔法をどれぐらい扱えるかの指標。
Lv8だと、下〜上級魔法と、一部の超級魔法ま
でが使用可能。
ツッコミどころしかない情報だな。
おそらく隠蔽でスキルなどの能力は隠し切れると思ってるんだろうが、残念ながら俺には筒抜けだ。
まあ1つ1つ確認していくか。
「……なるほど、よく分かった。とりあえず現時点で敵対する意思はないみたいだね。」
「……はい、勿論ございません。命の恩人に対して、そのようなことは致しません。」
俺という存在を測りかねているんだろうな。
《分解結界》のおかげで、レインの《鑑定》は弾かれているからな。
《隠蔽》持ちに対して、実力差があれば《鑑定》は働かないから、おそらく俺のことを格上の相手で認識してるんだろう。
「とりあえず何か聞きたいことはないかい?俺の能力とか《鑑定》でもわかんないだろう。」
「!なぜわたくしが《鑑定》持ちだと!……いえ、まずそこは問題ではないですね。あなた、いえジョー様にわたくしを害する気はあるのでしょうか?また、ここは一体どちらなのでしょうか?」
ふむ、まあ妥当な質問か。
俺も当事者なら同じような質問をする。
俺の正体とかをバカ正直に聞いてこないあたり、頭は働くタイプらしい。
ただ名前は呼び捨てで良いって言ったのに、律儀に様付けか。
メイドってのはそういう性分なんだろう。
「いきなり2つも質問か、まあ答えても問題ない。とりあえず俺にレインを害する気はない。もしあったら、レインが目を覚ます前に事を為してるさ。」
「……それもそうですね、失礼致しました。」
「疑いたくなる気持ちもわからなくはないからね。それで、ここがどこなのかという質問に対する答えだが、詳しいことは俺も知らない。ただひとつ断言できるのは、ここは〈不抜の樹海〉だよ。」
そう俺が答えると、レインの顔が一気に青ざめていく。
まさに絶望といった雰囲気が滲み出てくる。
それが、樹海の名前を聞いた時の反応として正しい反応なのか。
驚きのあまり言葉が発せないみたいだね。
少し助け舟を出しておくか。
「ははっ、驚くのも無理はないかもね。ちなみに俺に関する情報を1つ挙げると、俺はこの樹海の中に住んでいる。意外と快適なんだぜ?」
信じられない存在を見るかのような目を向けてくるレイン。
どうやら驚きが一周して、話はできるようになったみたいだ。
「……あなたは人間なんですか?」
「はははっ、その質問は想定してなかったな。まあこれも問題なく答えられる。俺は人間だよ。間違っても幻覚の類いや魔物とかではないよ。」
まさかの質問に思わず笑ってしまった。
ちょっと流石に悲しいぞ。
こう見えて2ヶ月ちょっと前まで普通の高校生やってました。
「……そ、そうなのですね。これは失礼をば。」
「いや、いいよ。《鑑定》で見れないから、気になってしまうのも無理はないだろう。ちなみに俺の能力で《鑑定》自体を弾いてるから、実力差とかで見れないってわけじゃないよ。――まあ、レインのスキルは豊富だから、使い熟せることができたら、レインの方が強いかもね。」
「!まさか私の能力まで見られているとは…」
美人の思案顔は見ていて飽きないな。
……おっと、若干のS気が漏れてしまった。
おそらく、どんな強力な固有スキルなのか考えているようだね。
まあ向こうの質問に答えてあげたし、今度はこちらの質問に答えてもらうか。
俺はそれまでの気の抜けた雰囲気から切り替え、真面目なトーンで切り出す。
「レイン、君が逃亡者であることは、元メイド筆頭と名乗ったことに関係しているのか?」
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