第24話 即落ち女神様
これから1週間の間毎日更新いたします。
こちらは本日1話目です。
次話は18時の更新となります。
「ああ、美味しかった。それにしても、ジョーは料理できたんだね!」
「はいよ、お粗末でした。向こういた頃から家事してたからな、ある程度はできるよ。」
作った料理はお気に召したらしく、好評であった。
どうやら、神々は普段飲食せずとも存在する上で問題がないらしく、あまり食事は取らないとのこと。
食自体が嗜好品って感じなのか。
ちなみに俺は、自分の作った料理を美味しそうに食べてくれる女の子がめちゃくちゃタイプだ。
だから美味しそうに食べてくれるアイネを見てると、つい微笑ましい顔で見てしまう。
食事も終わり、果実を絞ったジュースを飲みながら、2人でまったりとした時間を過ごす。
何度もたわいもない会話を繰り広げ、自然とお互いの緊張がほぐれていった。
そんな時アイネが話題を切り出した。
「……そっか…ねえ、ジョー。未だに元の世界に戻りたいとか思う?」
どこか申し訳なさそうで、寂寥感も含まれている言葉がポツリと聞こえてきた。
しまった、という顔をして、アイネは慌てて口を手で覆うが出てしまったのはしょうがない。
思わず出てしまったということは、限りなく本音であろう。
まあそんな気持ちを抱くのも無理もないことか。
言ってみれば、俺を含め多くの人が1柱の神の些細なミスで命を落とし、別世界へ行くことになった。
しかも、ほとんどのものは罪と呼べるものはなく、潔白の身ありながら、それまでの生活を絶たれたのだ。
同じ立場のものとして、責任感を感じているのだろう。
そんな気持ち抱くとは、やはりアイネは心優しい女神なんだろうな。
ふふ、不思議と口角が上がってしまう。
「ご、ご、ごめんなさい。つい変なこと言ってしまって、今のは忘れて。」
おっと、アイネのテンションが駄々下がりだな。
なんとか慰めてあげないとな。
……下げて上げてみるか。
「そう、思われてたとは心外だな。そんなに帰りたそうに見えてたか?」
「え、いや、そ、そんなことはないけど。ただやっぱり元の世界の方が良かったのかな、なんて…」
「まあ勿論元々はあの環境で生きていて、それからも生きていくはずだったから、未練がないわけではないよ。神の悪戯に巻き込まれていい迷惑だと思ったよ。」
「……ま、まあ、そうよね。」
あからさまにテンションが底をつかんばかりに下がる女神様。
やばい、すぐにフォローしなきゃ。
「けど、こう見えてアイネには感謝してるんだ。他人のミスのフォローだってのに見ず知らずの俺を含め助けてくれたし、感謝はすれど恨んだりするなんて以ての外だ。それに…」
「……それに?」
「それに、そのおかげで君に会えた。この一連の騒動がなければ、交わることのなかった運命はそのままだった。俺はアイネという存在を知れることなく、寿命を全うすることになっただろう。けど、今は君に会えた。心の底から惚れたと言える君にね。」
だいぶクサイ言葉を綴ってしまった。
正直、今は目線を合わせたくない。
俺はその羞恥に耐えきれず、アイネに背中を向ける。
キモい、とか思われたかな?
こんな台詞を元の世界で言おうものなら余程なロマンチストでない限り、ナルシストか重い男認定だろう。
けど、一応嘘偽りはない気持ちを伝えたんだ。
これで拒絶されたら、ちょっと寂しいな。
……いや、だいぶキツい、死にたい。
少しの沈黙の後、フワッとした匂いがしたかと思うと、背中に柔らかい衝撃が走った。
いったいなにが起きてるんだと、頭の中が真っ白になった。
状況を確認するために振り返ろうとすると、腰のあたりに両手が回されていることに気づく。
どうやら後ろから抱きつかれたらしい。
そして、その手に力が加わる。
「……こっち見ないでよ、バカ。」
先ほどよりさらに密着度が上がってしまった。
正直言って、色々とやばい。
どうしたものかと思い、考えようとするも背中からの感触で思考が上手く回らない。
打開策も思いつかないので、そのまでいることを選択する。
何度か訪れた沈黙の時間であるが、今はどこか甘い雰囲気が漂っている。
ふと壁際を見ると、空気に耐えられず、リメがどうしたものかと右往左往している。
ごめんな、リメ。
およそ10分ぐらい経っただろうか、その沈黙も解かれた。
「……わ、私もあなたに会えて良かったわ。今まで数えられないほどの永い時間生きてきたけど、そんな気持ちをぶつけられたのも初めて…」
一度アイネの言葉が止まる。
深く息を吸って吐いた後、続きが語られる。
「……それにこんな気持ちになったのも初めて、初めて尽くしで怖いぐらいね。なんだっけ、恋に恋するって言葉があるじゃない?あれだろうな、といつも話してる時思ってたんだけど、いざ会うとそんなことじゃないってわかったの。」
俺は無言を貫く。
またも静寂が訪れる。
なにか背中に先ほどまでとは違う温かいものを感じた。
それは少しずつだが広がっていくような気がする。
「……知らなかった、私ったらこんな女々しかったのね。」
思わず、抱きしめられていた手を解いて後ろを振り返る。
そこには目元が赤くなり、涙が溢れ出ている、幸せそうな笑顔のアイネがいた。
「も、もうなんで振り返るのよ。見ないでって言っ――キャッ!」
気付いたら、正面から抱きつき返していた。
アイネは抵抗もなく抱きしめられ、俺の胸元に収まっていた。
……心音のペースがどんどん上がっていく。
絶対に聞かれてるだろうな。
ここまで来たら野暮なことは言わない。
ただ一言だけ真っ直ぐに伝える。
「……好きだ、アイネ。」
「……私も。」
これ以上言葉はいらない。
目を閉じ、お互いの顔を近づける。
――そして2人の唇が合わさった。
何度か啄むようなキスを繰り返した後、アイネは名残惜しそうに俺から離れた。
寂しさを感じつつ目を開くと、そこには赤く惚けていて可愛らしい女神様がいた。
気まずい…
目線が合い、お互いに羞恥心が宿り、思わず目を背け合う。
「……じゃ、じゃあそろそろ時間ね。ま、また来月会いに来るわ。」
「お、おう、ま、また来月。」
慌ただしく別れの挨拶を済ませると、アイネは来た時と同様に扉を開き、元の場所へ帰って行った。
こうして初めてのデートは幕を下ろした。
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