第23話 初めてのお家デート
こちらは本日2話目です。
前話は12時の更新となります。
未読の方は是非ご覧になってください。
突然、目の前に光の扉が現れた。
それは荘厳な装飾な施された、両開きの扉であり、ゴゴゴゴッと効果音がつきそうなまである。
いや、実際そう聞こえてくる。
バタンッ。
すると、その重そうな扉が開いた。
その瞬間、目の前を扉の中から溢れ出た光の奔流が覆い尽くす。
こんなエフェクト聞いてないぞ?
徐々に光量は弱まり、最終的には直視しても問題ないぐらいに収束した。
その淡い光の中に見覚えがあるような黒い人影が浮かび上がる。
「ストラトラトス世界の主神にして、創造神アインネス、ここに降臨である!」
………
「我が神体、比類なき永久の輝きなり。我が玉音、万象を創造す息吹なり。伏して拝せよ、この邂逅に歓喜することを赦す。」
………なんかひどく可愛そうな人みたいだ。
昨夜の言動もやはり気のせいだったのかな。
それとも、これが神様が地上に来たときのデフォなのかな?
ただいつも話してたアイネっぽくないな…
俺は無言で生暖かい視線を彼女へと向ける。
そして、数呼吸の間、微妙な空気が2人包む。
「……な、何か言いなさいよ!そんな無反応だと、まるで私が変な人みたいじゃない!せっかく会えるから張り切っていつも以上に準備してきたのに…」
あ、そうだったのね。
だいぶ仰々しい登場シーンだったけど、頑張った結果なんだ。
曰く、いつもの光量の200%と盛りに盛った、反省も後悔もしていない、と供述している。
小難しい言い回しも、地上へ神託を授ける時と同様の公的な場面の最上位レベルの文句であったとのこと。
いや、そんなん知らんて。
ただそんなに張り切るほど楽しみにしてたんだな。
どうせなら気軽な感じでやって来てくれたら良かったのに、と思うと不思議と笑みが溢れてくる。
健気というかなんというか、若干空回りしてるてころですら愛おしいと感じてしまう。
「--ようこそ、俺の女神様。」
「……こほん。改めまして、お久しぶりねジョー。また会えて嬉しいわ。」
「ああ、久しぶりだなアイネ。俺もまた会えて嬉しいよ。それにしてもあの登場はな。」
ダメだ、思い出しただけで笑いがこみ上げてくる。
「わ、笑わないでよ!私だってもうちょっと軽い感じで来るつもりだったの。……そ、その、昨日の夜変なこと言っちゃってどんな顔して会えばいいか分からなくなっちゃったの。」
なんだこの可愛い生物は。
初心な反応ばっかりして、こちとらそれに対するニヤニヤが止まらないじゃないか。
俺は舌を軽く噛んで、顔の弛緩を抑制して、アイネの緊張を解してあげようとする。
「そ、そうだったのか…」
無理無理、そんな気の利いたセリフ吐けるわけがない。
一応女性経験は中学の時に一度だけあったけど、あれは黒歴史に近く、まともに好きな異性と接したことはないに等しい。
くっ、恋愛ハウツー本もしっかりと読んでおくべきだった。
また無言の時間が流れる。
このままじゃあ永久ループになる気がする。
とりあえず変化を起こすか。
「ま、まあ、アイネも来たことだし夕食にしたいんだけどいいか?」
「え、ええ、いいわよ。せっかくだし、いただこうかしら。」
「ああ、任せろ。俺が腕によりをかけて作ってやる。」
そう言って俺は料理をするため、火を起こしに外に出ていく。
その背後からアイネの呟きが聞こえてきた。
「……こ、これってお家デートってやつよね…」
気を取り直して料理に取り掛かる。
しかしまあ今ある食材と調味料だとできることはほぼないんだけどな。
そう思いながら、脇についてきてくれたリメにとあるものを出してもらう。
油だ。
これは先日の羽毛狩りの際、手に入れることができた素材から作ったものである。
普通の植物類がない樹海であるため、勿論これは魔物から採取した。
[オリヴァントの果実]
木型の魔物オリヴァントから採取した素材。
大きさは直径15cmほどの果実であり、これを
絞ることにより、約1リットルほどの油を採取
できる。
その油は非常に風味豊かであり、カロリーも少
なくヘルシーであるため、貴族層の女性を中心
に高い評価を得ている。
この果実を絞り、瓶詰めしたものがリメに出してもらったものだ。
今日はこれを使って料理をする。
「--どんな感じかしら?だいぶ良い香りがするのだけど。」
どうやらアイネも外に出てきたみたいだ。
もう悶絶タイムはいいのかな?
「ああ、もう少しで出来上がるよ。と言っても、食材も少ないし、作れるレパートリーは限られるんだけどね。」
俺は今岩塩で下味をつけたスタンピートボアの肉を豪快に焼き上げている。
時々、その身から跳ねた肉汁が火元に落ちることで、周囲に芳醇な香りが立ち上る。
正直、ひとりだったらこのままドカ食いしていた。
しかし、今はレディーであるアイネがいるのだ。
お家デートに憧れもあったようなので、自然と作るものにも気合が入る。
いつもよりお洒落に仕上げなきゃな。
「あら?そっちのはなにかしら?」
そう、特製ソースも同時並行で調理している。
幸いにも樹海産の果実はいくつかあるため、その果実を組み合わせて作る。
カロリー高めの肉を女性でも食べやすいように、さっぱりとしたポン酢をイメージしたものに近づける。
味の絡まりやすさも考慮して、少量の肉汁を加えることも忘れてはいけない。
肉もいい感じに焼けてきたので、いよいよフィナーレだ。
あとは盛り付けるだけなので、アイネには家の中に戻っていてもらう。
綺麗な焼き色になった肉に包丁で切れ目を入れ、中の色を確認する。
……よし、程よくピンクに仕上がったな。
ミディアムレアに焼けた肉を一口大に切り分け、リメに作ってもらった陶器製の皿に乗せていく。
肉は2つに分けて乗せ、片方には岩塩のみを振りかけ、もう一方には特製ソースをかける。
勿論それだけでは見栄えが悪いので、別途調理した果実などで彩りを加える。
うむ、レストランで出せそうな見た目になったな。
完成した皿を持って、アイネが待つ家の中へ戻る。
……喜んでくれるといいな。
次回更新日は8/9(日)です。
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