第2話 女神様へのお願い
それで気づいたら、この謎の空間にいた。
足が地面についているようでついていなく、フワフワした無重力空間にいるような感じだ。
もっといえば、なんだか身体の輪郭も朧げで、今自分が自分であるかも認識しづらい状態である。
いったいなにがどうなってるんだ?
「先ほどの一件は大変申し訳ございませんでした。」
目の前の女性は最初にそう言った。
その女性はこの世の者とは思えないほど、顔も身体も整いすぎている。
とりあえず何と言っても、綺麗な顔である。
美しさも可愛さも全て内包していて、地球上で見たどんな女性よりも魅力的だ。
空色の軽くウェーブした髪が一纏めにされ、肩から胸元にかけられており、それも相まって視線を外すことができない。
それから身体の方に目をやると、これまた素晴らしいと言わざるを得ない。
大きすぎ小さすぎない胸も適度に引き締まった尻も完璧と言っても過言ではない。
やばい、めっちゃタイプ。
「――あ、あの、よろしいでしょうか…?」
「え、あ、はい。大丈夫です。」
思わず答えてしまった。
その美女曰く、バス目掛けて隕石が落ちてきて俺を含め乗客は皆死んでしまったようだ。
バス周辺にいた人も余波に巻き込まれ、死傷者になってしまったらしい。
確か先ほど、隕石というフレーズがバスの車内で聞こえた気がする。
なるほど、あの熱はそういうことであったのか。
それは死ぬわな。
ただその話には続きがあり、その隕石は地球に属するある神が自身の腕試しのために誤って地球上に飛来させてしまったものらしく、本来は地球の重力圏に入らないはずのものであったとのこと。
しかも、それによって出してはいけないレベルの死者が生じてしまい、神々のいる神域は大騒ぎらしい。
それぞれの世界ごとに、神の権能の行使には条件というものが存在する。
地球では、現代技術のひと未来先で実現可能なことまでは権能を行使していいとされている。
だがしかし今回の死者の遺体は、隕石によってもたらされた高温により一瞬で炭化し、衝撃で粉砕されたらしい。
生き返るための器がなくなってしまった状態からの、蘇生など地球上の技術で何段階も先の未来である。
つまり無の状態からの復活など地球の技術的に不可能であり、如何に神々といえど制限的には権能を行使できない。
怪我人はともかく死者を蘇生すると地上が大混乱に陥るため、死者は地球上に戻ることができないとのこと。
「なんとなくですが、状況というものはわかりました。それで自分も含めどの世界に行くのでしょうか?」
「複数人ずつ別々の世界に行ってもらいます。そして担当する者次第ですが、それぞれ転生なり転移なりしてもらうことになります。」
自分だけでなく、どうやら結構な人数の死者が出たみたいだな。
いったい何人が、と聞くのは無粋か。
「それで私の世界ですが、貴方を含め7人がその年齢のままで転移してもらいます。その際、過剰な望み以外なら任意で一つだけ望みを叶えます。」
「私の世界……え、ということはあなたは女神様なのですか?」
「ええ、そうですよ。私はアインネス、一応この世界の主神である創造神を担当しております。」
まじか、なんとなくそんな気はしてたけど、やはり女神か。納得。
けど、まさかの主神か。
ん、あれ?貴方を含め7人?
他の人はどこにいるんだ?
あと、めぐりはどうなったんだ?
「この世界には私の配下の神が存在しています。貴方以外の6人はそれぞれその配下の方に担当してもらっています。ちなみに、貴方の幼馴染みもこの世界に来ていらっしゃいます。」
めぐりも巻き込まれたのか。
まあ、隣の席に座っていたらそうなってしまっても当然っちゃあ当然か。
ただ不幸中の幸いか、同じ世界ならまた会えそうだな。
ん?あれ、今俺の考えたことを口に出したっけ?
「私は女神なのですよ。読心するぐらい些事なのです。」
あ、ちょっとドヤったなこの女神。
尊大な感じかと思ったけど、可愛いとこあるじゃないか。
そういうの、めっちゃ可愛い。
「こほん、考えてることがわかると言ったばかりじゃないですか。それなのに、可愛いとか…」
なんだ頬を染めて、まさかチョロインか?
褒められ慣れてない感がこれでもかと伝わってくる。
「い、いい加減にしなさい!わ、私はそんなちょろくありません。話に戻りたいんですけど。」
「申し訳ございませんでした。」
これは弄りすぎたな、反省。
せっかく自分のためにアレコレしてくれるというのに悪いことをしてしまった。
「それで、貴方の望みは何でしょうか?」
うーむ、叶えてほしいことか…
「妹に、千景に現状を伝えてほしいです。」
「あら、1人ぐらいなら別に権利を使わずとも大丈夫よ。私の配下がきちんと遂行いたします。」
よかった、唯一の気がかりであった妹への配慮ができた。
これで元の世界に思い残すことはない。
しかも、他の望みも叶えてくれるのか。
それは太っ腹だな。
「それで他に望みはないのでしょうか?勿論何も望まずそのまま転移されることも可能ですが。」
ふむ、どうしたものかな。
と言っても、心配することがなくなった以上、自分が望むことはただ一つだ。
少し悩むフリをした後、俺は口を開いた。
「女神様、いやアインネス。」
―――俺と、結婚前提で付き合ってくれ―――