第108話 協定の問題
明けましておめでとうございます!
今年も更新頑張っていきますので、応援よろしくお願い致します。
地球にあったキッチン家電を魔道具で開発しようと試行錯誤していたら11月の中旬に入っていた。
勿論それ以外のことにだって精を出した。
初代防壁と2代目防壁の間で栽培していたフバツソラヌンの収穫が終わった後、すぐにサイトキビならぬマトウキビを植えた。
ドゥードゥーの飼育もビリーを筆頭にドゥードゥーのケアをし続けた結果、1日に数個ずつだが無精卵を産むようになった。
そして、俺達は3代目防壁の東側に作った門を開き、客人が着くのを待っていた。
俺の足元より背後には、以前植えたラピッド草が一面に生えて、青々とした景色が広がっていた。
『オ久ジブリデスナ。』
先触れから遅れること数刻後、〈ゴブリニア〉からの一団が到着した。
数十人にも及ぶ団体を率いるのは、以前クーデターの際協力した西方面総大将であったゴ=ディオーンだ。
「ああ、久しぶりだな。変わりないようで何よりだ。」
『イヤハヤ、日々疲レガ溜マッテ仕方ナイノデスヨ。早ク責務カラ解放サレテ、ユックリシタイトコロデ。』
「はっはっはっ、それはそうか。まあなんだ、1回腰を据えて、話をしようか。あれからのレーアの頑張りとかも気になるしな。」
『ホッホッホッ、ゴ随意二。デハ野営ノ準備ヲ指示シテキマスノデ、シバシオ待チヲ…』
「ああ、分かった……レイン、野営用のスペースに案内して来てくれ!」
「かしこまりました。ではディオーン様、こちらへ。」
そう言って、レインはゴブリンの派遣団を西門から引き連れて、野営用のスペースへ向かった。
少し離れたところにある、およそ3m程度の石壁に囲まれた場所だ。
居住スペースにも空きは確かにある。
だがしかし、数十人もの人員が入るような空間は確保できない。
そのため、予め規模が大きくなることは分かっていたので、野営用スペースを建てておいたのだ。
一見すると、今回だけの無駄な建築にも思えるかもしれないが、その実そうではない。
平時は戦闘訓練用のスペースとして使っているので、割と有効活用している。
地面は土魔法で修復するし、土壁は《分解結界》付与済みの安心設計だ。
数分後、戻ってきたディオーンと数人の護衛を連れて、〈安息の樹園〉の居住スペースに戻った。
そして、これまた平時は集会所として利用するために建てた、少し大きめの建物に入り、ディオーンとの会談を始めた。
まずは、ステラヤマギュウの引き渡しである。
これは〈ゴブリニア〉での王位簒奪及び前王暗殺のクーデターに協力する条件として、要求していたものだ。
当初は何かしらの貴重な鉱石なりを対象にするつもりであった。
しかし、実際〈ゴブリニア〉に足を運んだ際、ステラヤマギュウの存在を知り、ほとんど迷うことなく何頭か譲渡してもらうことにした。
『デハ、配下ノモノニ指示シテオリマスノデ。』
「分かった、こちらも担当の者を野営地に送ろう。」
そう俺が言うと、脇に座っていたOXさんがビリーに指示を出す。
配下と言っても、俺のじゃなくてOXさんのだからな。
そして、ビリーは数人引き連れて、ディオーンの護衛の1人と共に出ていった。
次が、ここ〈安息の樹園〉と〈ゴブリニア〉間の協定である。
無論、一方に有利になるような不平等なものではない。
双方の利益になるようなものが理想だ。
と言っても、お互いに悩ましいという感情に苛まれる。
「お互いにまだまだだからな…」
『ソウデスナ…』
協定とか条約とかそういう決まりごとに出てくる定番どころが全くもって成立しないのが現状だ。
〈安息の樹園〉側は、人口が少ないこともあり、社会レベルが低い。
〈ゴブリニア〉側は、文明が発展途上もいいところであり、文化レベルが低い。
権利相互保障とか言っても、そもそもこれといった権利を制定しているわけではない。
少なくとも〈安息の樹園〉内は最低限の決まりごと以外は存在せず、メンバー間の道徳に全て委ねている。
関税云々は双方共に経済という文化が発展していないため、発生しない。
〈ゴブリニア〉側に関しては、金銭など知らない可能性が大だ。
また、自給率100%と完全自給自足が成立しており、お互いの物資に頼らず生活することが可能なのだ。
となると、あとやれることとなると……
「緊急時の協力体制の構築、か。援軍送ったり、避難民受け入れたり、こんなところだな。」
『妥当ナトコロデ。』
非常にシンプルな物に落ち着く。
と言っても、実はこれが最も俺達サイドが欲している条件だ。
近い将来〈レンテンド王国〉との衝突が不可避になった今、最も大事なのは防衛関連事項だ。
数人単位の襲撃ならまだしも、軍勢で来られるとこちらの人員数では到底対処できない。
ゴブリン侵攻の時と違い、ヒューマンの国の軍となると確実に策を弄してくる。
多方面から攻撃されようものなら、白旗上げざるを得ない状況になる可能性が高い。
その点、もし〈ゴブリニア〉が協定を結んでくれれば、かなり楽になる。
ゴブリン軍団を送ってもらって、挟み撃ちにするも良し。
篭城時に、物資を供給し続けてもらうも良し。
敗戦時に〈ゴブリニア〉に避難させてもらうも良し。
正直メリットしかない。
勿論、対王国に限った話ではない。
この地は魑魅魍魎の魔物が跳梁跋扈する〈不抜の樹海〉なのだ。
それこそ災害レベルの魔物が襲ってくることも十分にあり得る。
事実、〈ゴブリニア〉はかなり昔の話だが、見たこともないような八つ首のヘビ型の魔物に襲われ、人口が2割以下になったことがあったらしい。
明日は我が身、いつそんな状況になってもおかしくない。
〈ゴブリニア〉側も文句ないようで、防衛関連についての協定が結ばれることになった。
1つ、双方はお互いに平和を尊び、他方の領域に対する不可侵を貫く。
1つ、一方の平和が他存在により脅かされる場合、双方共に平和維持の為に惜しみない努力をする。
1つ、一方の安寧の地が奪われし場合、もう一方が救いの手を差し伸べ、再び安寧の営みを遅れるまで保護する。
だいぶ抽象的な条項になったが、かえって良かった。
細かく決めすぎると、その分協定の行使対象か否かの線引きが明確になり過ぎてしまう。
多少余裕を持たせた方が後々のためになる。
おそらく性格が悪い者であったなら、解釈違いを言い訳に緊急時の援助を渋るなんてことも考えるだろう。
だが俺は、基本的にそういう裏切りの行為は許せないタチなのだ。
もし、拠点のメンバーの誰かがそんなことを言い出した者なら、容赦なく糾弾しよう。
もし、〈ゴブリニア〉が渋ろうものなら、容赦なく危機を乗り越えた先で報復しよう。
協力関係になった今、1つの課題が浮かび上がった。
〈安息の樹園〉と〈ゴブリニア〉の距離が遠すぎる、ということだ。
いや、この際距離に目を瞑ろう。
しかし道が悪過ぎる、悪路もいいところなのだ。
どこまでも広がるような樹海。
行手を阻み続けるフバツハートチークをはじめとする無数の大木。
流れの早い川だってあったし、ちょっとした連山だってあった。
緊急時に200kmの悪路を乗り越えて、助太刀するなぞ誰がしたがるんだ。
迅速な行動ができる環境を作らなくてはならない。
「ということで街道を、いや鉄道を作ろう!」
「「「「……テツドウ?」」」」
ああ、そうだ。
ここ異世界だった。
次回更新日は明日です。お見逃しなく…
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