第105話 "赤雷"の問題⑤
本日はこの1話のみの更新となります。
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勇者?聖者?いいえ、時代は『勝者』です!
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※本格的な投稿開始は来年からですので、予めご了承下さい。
ふぅ、これまでにない強敵であった。
やはり自分の持っている能力的に遠距離攻撃持ちには分が悪いな。
一方的にやりたい放題されてしまう。
今後の課題だな。
おっと、倒れたエルグランドを縛っておかないとな。
ここから復活されて再戦とかなったら溜まったもんじゃない。
普通の縄とかだと《ブレイキングスター》で破られそうだから、きちんと《分解結界》を施す。
「……あ、ありがとうございました。」
ふと気づくと、近くにいたクラリーが感謝の言葉を述べてきた。
ただ一言だけ口にすると、その後はまただんまりを決め込んだ。
魔術師もとい暗殺術を極めた者であるために羽織っているローブは、今までの戦闘で所々破れている。
また切り傷や軽い火傷痕も見て取れたが、大事に至るような負傷は見られなかった。
それにしても……さっきまでとキャラ違うくない?
女性に向かっていうことではないが、もっとなんかグイグイ行くオラオラ系って感じだった気がする。
今は気弱な無口系って印象を受ける。
「それはね〜、自分を取り繕ってるからだよ。基本的に、アタシの前もしくは敵との戦闘中に本性が出てきちゃうって感じなの〜。」
ビクッ!
いつの間にか離れた所にいたファナが近くにまで寄ってきていた。
魔道具発動のため集中している姫様のことも魔法で運んできたようだ。
「そ、そうなのか?」
「ええ、そうよ〜。他人との壁ガンガン築く子だから。話しかけられるだけ、相当友好的な感情を持ったようね。」
アレでそうなのか?
それだと、普通の相手だとその声すら聞けないんじゃないか。
現代日本に適応できなさそうなタイプだな。
「それで〜。さっきのアレってどうやったの?」
「?アレとは?」
「"赤雷"の最後の挙動よ〜。明らかに不自然じゃない?クラリーを狙っていたはずなのに、ジョー君の目の前に現れるなんてね〜。」
「……ほう。」
「それにね〜、"赤雷"の最初の奇襲も意識を操っての誘導じゃなかったよね。強制的にそこに連れてきたんでしょ〜?ジョー君のこれまでの戦いを観てると、そう感じたよ。」
「ははっ、流石だな。」
いやー、《分析眼》持ちのファナは誤魔化せなかったか。
ということでネタバラシ。
俺はかけていた能力を解除して、アレの正体を晒す。
エルグランドが先ほど瞬間移動した先の地面には、《認識分解》の解けた1本の棒が刺さっていた。
その棒は地面に突き刺さっている分を含めて、50cm程度で、これといった見た目の特徴はないものだった。
だが、それの正体はとある金属製の棒だ。
[雷導石]
この世界において最も電気伝導率の高い鉱石。
直前数秒以内に電気を受けていた場合を除き、
半径500m以内の電気はどんな意図的な物であ
ったとしてもこの鉱石の元へ誘導される。
また、いくらに電気を通しても、摩耗すること
はない。
「ヘぇ〜…けど、これがどうしたの?」
ああ、やっぱり物の正体を知っただけでは分からないのか。
科学技術が未熟だから、これがどのように役だったかは推測できないのだろう。
「簡単に言うと、ここに雷が誘導されたんだよ。」
俺が活用したのは、避雷針だ。
避雷針という名前だが、実際は雷を避けるのではなく、雷を誘導するために存在する仕組みだ。
周囲の雷の到達点――この場合、エルグランドの雷魔法の作用点を強制的にこの棒の場所に誘導したのだ。
今回は、雷魔法を使った擬似瞬間移動であったため、その転移先がこの棒へとなったのだ。
移動先でこの棒がそのまま刺さってくれていれば、とも思ったが、そこはエルグランドの勘というやつか、叶わなかった。
いつかのために作っておいた避雷針をここで使うとは思わなかったが、エルグランドの能力を把握した時に思いついたのだ。
逆にこれがなかったらと思うとゾッとする。
過去の自分に感謝しよう。
「――ぐっ…なるほどな…そう言うことだったんスか…して、やられたっスよ…」
俺がファナ、あと聞いているかどうか分からないがクラリーと姫様に説明をしていると、いつの間にかエルグランドが目を覚ましていた。
だが、縛られている自分に気づき、言葉を発するだけであった。
本当に勘の鋭いやつだ。
《分解結界》が付与されていることに気づきやがった。
「まさか、僕ちんの弱点が…そんなものにあったとはね…勉強になったっス…今回ばかりは負けでスね…」
そして、笑い出すエルグランド。
側から見ると、変人にしか見えないな。
いや、実際そうなのだろうけど。
「いやー、これは怒られてしまいまスね…成果なしで帰国とは…」
「残念でしたね、自分が来る前に既にここの治安部隊に連絡済みです。逃げることはできず、すぐにお縄につくことになりますよ。姫様、この手際褒めてください!」
「あー、うん。ありがとね〜。」
大好きなファナ相手と敵に対しての言葉のため、クラリーが生き生きとした声を出した。
本当にテンションの上がり下がりが激しいな。
それにしても、戦闘が終わってホッとしていたが、後始末が待っているのを忘れていたな。
この場合、事情聴取とかされるんだろうな。
どれくらい時間がかかるんだろう。
ああ、身分とかの照会されたらどうしよう。
俺、身分証とか一切合切持ってないぞ。
軽く脳内がパニックになりそうなところで事態が動いた。
「はぁ…こればかりは使いたくなかったんスけどね…罰金で済むといいな…」
エルグランドはそう言葉を発し、手元を弄り始めた。
そこには何かの鉱石らしきものがついたブレスレットがあった。
正体を探ろうとした時、クラリーは驚き、エルグランドの動きを止めようとした。
「あっ、それは転移せ――」
しかし、それは叶わなかった。
「では、これにてさらばっス。次回こそ必ず姫様を捕らえてみせまスよ。」
その言葉を残し、エルグランドはその場から消えるようにしていなくなった。
明らかに先ほどまで使っていた雷魔法によるものではない。
先のブレスレットによるものだろうか?
「今のはいったい…」
「今のはね〜、転移石ってやつだね。ダンジョンの奥とかで手に入る貴重なやつ。それを使うと、予め指定した地点に転移できるの〜。まさかそれを持っていたとはね…」
ファナの説明によると、滅多に見れる代物ではないらしい。
だからこそ、失念していたとも言える。
クラリーも実に悔しそうにしている。
これは面倒臭いことになりそうだな。
絶対に顔を覚えられたし、リベンジを誓われてしまった。
そのうちまた相対することになりそうだ。
「じゅ、準備できました!」
姫様が魔道具の発動準備が終わった。
それと同時に遠くの方に何かが駆けてくるような土埃が見えた。
おそらく治安部隊というやつだろう。
「この後は面倒臭そうだし、俺達も帰るか。もう魔道具発動しちゃったし。」
「そうね〜、ここでやめたらまた魔石集めたりしないと行けなさそうだしね〜。」
後始末の面倒……魔道具が既に発動段階に入ったことを言い訳にして、この場を去ることをクラリーに告げる。
魔道具の発動を途中で止めると、発動1回分の魔石がパーになってしまうことは常識らしい。
まあ、尤も魔石はあと数回発動分ぐらいはリメの《ストッカー》で持ってきているんだが。
「行ってしまわれるのですか…姫様…」
「そうね〜、残念だけど。クラリーと離れるのはすごーく残念だけど。」
「もう離れとうのうございます!どうか自分もお側に…」
かなりの温度差がある別れの言葉を告げ合うファナとクラリー。
てか、別に治安部隊云々で残ってくれとは言わないのね。
「せめて、姫様が今どこにいるかだけでも教えてもらえませんか?」
目をウルウルとさせて懇願するクラリー。
そして、どうしたものかと俺に目配せするファナ。
魔道具発動の最終段階に入ったのだろうか、もう足元に現れている魔法陣は一段と輝いている。
後始末を全て任せることになるし、場所ぐらいなら言っていいんじゃないだろうか?
口外しないようにと言えば、おそらく周りに言いふらしたりしないだろうし。
俺は躊躇いながらも小さく頷くというアクションを示した。
ファナはそれで全ての意図を察してくれたのだろう。
「〈不抜の樹海〉よ〜。」
「な、なんと!い、いえ、自分達のパーティーにもそこを目指す者がいるのでちょうどいいかもしれません。自分もそこへ近いうちへ行きます。」
「!えっ、それって誰な――」
「すみません、魔道具発動します!」
クラリーの最後のセリフにかなり気になるところを残して、俺達はその場から転移した。
〈不抜の樹海〉を目指す者、一体誰なのだろうか?
次回更新日は明日です。お見逃しなく…
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