第104話 "赤雷"の問題④
本日はこの1話のみの更新となります。
新作投稿しました!
勇者?聖者?いいえ、時代は『勝者』です!
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※本格的な投稿開始は来年からですので、予めご了承下さい。
「姫様ー!今行きますからねー!」
「いいえ〜、とりあえずそこにいてもらえる?いい子だからお願いね〜。」
「はい、姫座!こちらで待機させてもらいます!」
ああ、そう言えばファナも王女様だったな。
何というか王族らしいオーラがないから、すっかり忘れていたな。
今では、近所に住む頼れるお姉さんみたいな感じだからな。
クラリーとファナが呼んだ女性はかなり嬉しそうにしている。
しかし、ファナはファナらしくなく、どことなく笑顔が引き攣っている。
どうやら、感動の再会という感じではなさそうだ。
「なんだ、久しぶりの再会じゃないのか?」
「ん〜、そうなんだけどね〜。ああ、あの子は別にアタシを本国に送り返そうとかする子ではないの。けど、若干あの子苦手なのよね。ただの主従関係というより、ちょっと行き過ぎなのよ〜。」
「?どういうことだ?」
「んーアタシといる時に目の奥の色が変わるとかいうか〜。ピンクっぽい雰囲気を醸し出して来るのよ〜。」
ああ、察し。
そういうタイプなのね、あの子。
もう一度、その子に目を向ける。
ファナ同様に耳の先が尖っている。
だが、尖り具合はファナほどではない。
髪は肩にかからない程度の短さで、栗色だ。
それにしても、何故こんな所にいるのだろうか?
俺と同じことを思ったのか、ファナが問いを投げかける。
「それにしてもアンタ、何でこんな所にいるの?」
ここは言ってみれば、街の外れだ。
少し離れた所に先ほどまでいた農場があるだけで、周りに何かあるわけでもなく、物寂しい場所だ。
何か目的もなく来るような所ではないのだが…
「それは姫様の気配を感じたからです!」
遠方にいるため確認はできないが、こちらを一点の曇りなき眼をしているに違いない。
片や、ファナの方をチラッと見てみる。
今までの戦闘による疲労が2倍になったような顔をしていた。
深く追求しない方が良さそうだな。
どれどれ《情報分解》っと。
名前:クラリー=レ=イルレーン
種族:エルフ
立場:[中立(友好)]元エリルリエ宗主国第四王女
側仕え
能力:《鑑定》《上位隠蔽》《限定探知》
《気配遮断》Lv6《領域感知》Lv8
《身体操作》Lv3《精霊術》Lv5
《弓術》Lv4《暗殺術》Lv8
《風魔法》Lv6《水魔法》Lv5
《限定探知》
特定の対象を指定し、その対象を感知するスキ
ル。
相対距離が近いほど精度が上がり、半径100km
以内なら、効果を阻害されない限り、ハッキリ
とした対象の位置が分かる。
また、対象とかなりの距離は慣れたとしても、
どの方角にいるのかは分かる。
……うーむ、ある意味ヤバいスキルだ。
ファナが王女とかいう割に異常に《気配遮断》のスキルレベルが高い意味が分かってしまった。
昔から苦労したんだろうな。
まあ、何はともあれ人手が増えた。
ファナには申し訳ないが、協力するよう頼んでみよう。
エルグランドはいつの間にか蚊帳の外になっていたが、いつでもこちらを攻撃できるように臨戦態勢は解いていない。
「ファナ、申し訳ないけど、あの子に…」
「うーん、まーそうよね〜……クラリー、アンタ協力しなさい。そこの"赤雷"を無力化しないといけないの。」
「はい、姫様!それにしても、そこにいる害虫は"赤雷"だったんですか。今気づきましたよ。」
ピクッと、エルグランドの眉が動いた。
どうやら、クラリーの言葉に反応したようだ。
「……ふっふっふ、初めてだよ。僕ちんのことを知っている人間で最初にスルーされるのは。」
「ごめんなさい、わざとじゃないんです。ただ姫様に比べるとどうしても霞んでしまって…悪気はなかったんです。」
「だいぶ僕ちんのことをコケにしてくれるね。そんな"ならざる王女"よりも僕ちんの方が格上なのに。」
「あっ、それはないです。ふざけてるんですか?姫様以外は私含めて有象無象、塵芥に過ぎません。そんな物言いは不遜ですよ。」
ヤバい奴が無茶苦茶エルグランドを煽っている。
エルグランドの眉のピクピクが激しくなってきてるんだけど。
「もう、許してやらない。フィアナ姫以外はここでぶち殺す。僕ちんの逆鱗に触れたお前達が悪いんだよ。」
「はっ、姫様をぶち殺すなど夢物語もいいものですね。現実というものを教えてあげましょう。」
ファイッ。
売り言葉に買い言葉で再び戦いの火蓋が切って落とされた。
先ほどとは比にならないほどの炎の槍が降り注ぐ。
勿論の能力も使っているのだろう。
煌々とした赤みを帯びている。
だが、頭に血が上っているのだろうか?
精度が著しく低い。
危ないと思うような攻撃の回数が先ほどと何ら変わらない。
今のうちに転移の準備を始めよう。
「フィアナ、動けそうか?」
「え、ええ、大丈夫です。言われたいことは分かっております。魔道具の発動準備にかかります。」
「すまん、頼む。」
この調子だといつもより時間かかりそうだな。
だが、その間にエルグランドを無力化してしまわないと。
魔道具発動の瞬間割り込まれでもしたら大変だ。
……同じことをクラリーにも言えるかもしれないが、ファナに何とかしてもらおう。
件のクラリーの方へと目を向けてみる。
やはりというか、俺達同様に炎の槍が雨霰のように降り注いでいた。
水魔法らしきもので迎撃しようとするも、《ブレイキングスター》の能力の前に太刀打ちできていないようだ。
だが、エルグランドの攻撃精度が低いため、有効打を受けているようには思えない。
しかしまあ、人手が増えたにも関わらず、手詰まり感は拭えていないな。
遠距離攻撃が実に厄介だ。
こちらの魔法は《ブレイキングスター》で掻き消されるため、無駄打ちにしかならない。
「ハッハッハッ、大きな口を叩く割には大したことないっスね!いや、大きな口というより無駄口っスね。」
相当煽られたことに怒りを感じていたのか、その鬱憤を晴らすかのようにこちらのことを煽り始めた。
それに対して、クラリーはすぐさま反応を示し、煽り返す。
何だこの世界の住人は、煽るのが好きなのか?
「姫様に比べたら、お前なんてただの虫ケラですよ。」
「弱い犬ほどよく吠えるって言うっスよね?ちゃんとした実力もないから、口だけは立派になった感じでスか?」
「……五月蝿いですね、害虫が。所詮固有スキル頼りの力押ししかできない脳筋じゃないですか?」
クラリーの言葉に対して、エルグランドの眉が今日最高のピクつきを示した。
「……へえ〜、そんなこと言っちゃうスか…」
そして、直感した。
ついに均衡が崩れる時が来たのだと。
俺は《魔糸操作》の行使をやめ、単身クラリーの元へと駆け出す。
《魔糸操作》を止めたにも関わらず、もう炎の槍が降り注ぐことはなかった。
当然だ、なぜならエルグランドが違う魔法の行使に取り掛かろうとしたからだ。
さらに幸いにも、弾幕の影響で俺達がいた付近は土煙が立ったりしていて向こうからはこちらの様子が伺い辛い。
今が絶好のチャンスだ!
(リメ、アレをクラリーの元に!)
俺はなるべく声を発さないようにして、リメに合図を出す。
そんな俺に気づかずに、エルグランドはクラリーに攻撃を仕掛けようとする。
「……"赤雷"たる由縁、お見せしまスね!」
「くっ……」
間違いない、雷魔法で擬似転移するつもりだ。
咄嗟に身構えるクラリー。
煽りつつも、やはり"赤雷"の戦闘力は理解しているらしい。
ピカッ、バシーン!
だが、しかし――
「――チェックメイトだ。」
「えっ?グハッ!」
俺は目の前に瞬間移動してきたエルグランドの腹部に渾身の一撃を叩き込んだ。
次回更新日は明日です。お見逃しなく…
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