第102話 "赤雷"の問題②
本日はこの1話のみの更新となります。
新作投稿しました!
勇者?聖者?いいえ、時代は『勝者』です!
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※本格的な投稿開始は来年からですので、予めご了承下さい。
「まあ最初僕ちんは見学させてもらいますスね。」
ピカッ、バシーン!
雷鳴が聞こえたかと思ったら、エルグランドは離れた所へ瞬く間に移動していた。
これが雷魔法ってやつなのか。
転移魔法と変わらない移動スピードだぞ。
およそ300mは離れたが、果たしてその距離に意味はあるのか?
むしろ視界に入り辛くなった分、厄介だな。
ただ何事にも弱点はあるはずだ。
まあ、雷というのだ。
1つ仕込みだけしておくか…
「来ます!」
姫様の言葉通り全方位より敵が押し寄せてきた。
くっ、やはり数の暴力だな。
全てに対処できる気がまるでしないな。
だが今は3人、いや3人と1匹で対処しないといけない。
「可能な限り無力化に努めてくれ。相手に付け入る隙を与えたくない。」
「分かったわ〜。」
「わ、分かりました!」
なるべくというか、基本的に殺しはしたくない。
殺人を犯すと、法律とかより面倒な事態に発展する恐れがある。
今いる国で、果たして正当防衛という原理が認められるのか、はたまた両成敗の制度が存在するのか分からない以上不用意な行動はできん。
それに、まだ俺は明確な殺しをしたことはない。
〈ゴブリニア〉の侵攻に対する防衛戦やクーデターの際に、明らかに見た目人間という相手を弑した事実はある。
だが、それはあくまでも自身の手というより、何かを経由した間接的な殺人らしきものに過ぎない。
しかも、明確な同種という存在ではなかった。
異世界モノの作品の多くで必ずと言っていいほど、殺人と向き合う展開がある。
そして、大体は殺人に対する忌避感をなんとか乗り越えるものの、その後に襲ってくる罪悪感に苛まされる。
今、俺はその状況に陥っているのだ。
明確に自分と同じ人間に見える存在と相対している。
そして、その後の展開も同じになるだろう。
殺す、すなわち俺自身に大きな隙を作るということになる。
それだけは避けなくてはならない。
上手く無力化する方法を考えなければ…
そう言えば、姫様のスキルにアレがあったはずだ!
「フィアナ!《王威》は使えないのか?」
「た、試してみます。」
《王威》。
視界に入った自身より格下の相手のスキル及び固有スキルの発動を阻害するスキル。
これが効いてくれるなら話は早いのだが…
「す、すみません、あまり効果がなさそうです…」
くっ、やはり厳しいか。
明らかに相手は選りすぐりの戦闘集団だ。
戦闘に不慣れで、Lv2の《王威》程度じゃあ対処できないか。
俺は《情報分解》を発動して、敵全体を見渡す。
《剣術》Lv5。
《弓術》Lv4。
《槍術》Lv4。
《斧術》Lv5。
《短剣術》Lv4。
《双剣術》Lv5。
《格闘術》Lv5。
《火魔法》Lv5。
《水魔法》Lv5。
《風魔法》Lv5。
《土魔法》Lv4。
《闇魔法》Lv3。
大体のスキルの最大値はこんなものか。
数値自体は拠点メンバーの騎士クラスと変わらないか。
だが、組み合わせが明らかに敵の方が多い。
(リメ、土魔法で地面を盛り上げろ。)
「フィアナ、ファナ、少し足元動くから気を付けろよ!」
「大丈夫よ〜。」
「問題ありません!」
リメに合図を出して、高所から迎撃できるように地面を隆起させる。
重力が存在する以上、高所を取るのは戦いのセオリーだ。
魔法が両者の間を飛び交う。
姫様は、火・水・風・土の大小様々な魔法を敵に向けて放つ。
威力自体は決して高いとは言えないものの、確実に相手の勢いは削いでいる。
ファナは、流石と言うべきか、強力な風魔法を使って、眼前に迫る敵を蹴散らしている。
そして、倒れた相手は地面から生えてきた蔓のようなもので拘束されていく。
一度前に見せてもらったが、《精霊術》だ。
俺は、リメに頼りきった動きをする。
魔法戦だと、こちら側からは俺にできることはない。
精精迎撃するのが関の山だ。
時折飛んでくる魔法を【分解】の権能による能力を付与したミスリル糸を《魔糸操作》で用いて、迎撃する。
一見すると、急に魔法が消しとんだように見えるから、相手側に動揺が走る。
敵の数は順調に減っていき、今はもう半分程になっている。
敵もこちらの戦力の分析が終わったのか、闇雲な特攻をしてくることはなくなった。
その代わりに、連携を取りつつ、ヒットアンドウェイで攻撃を仕掛けてくるようになった。
だが問題はない。
この調子で行けば…
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
なんだ、この揺れは?
だが、遠くに見える街に異変は感じられない。
局所的な揺れだ。
ということは、明らかに人工的で作為的なものだ。
!
すぐさま接地している地面に対して、《分解結界》を張る。
ポロポロポロ。
その瞬間、地面の一部に小さな穴が開いた。
その穴の中からは瞳が覗いている。
ふう、危うく奇襲を受ける所だったな。
奇襲の実行犯はなんとか地上に出ようと地下から《分解結界》の突破を図る。
だが、それは叶わない。
何度か攻撃をしてみるものの、その攻撃の音すら起きない。
やがて、穴から覗いていた瞳は消えた。
これで難局は乗り切れたか。
その後も順調に敵の数を減らしていく。
殲滅し切るのも時間の問題となってきた。
そろそろ馬鹿正直に戦う必要もなくなってきたな。
小麦とか残念ではあるが、〈安息の樹園〉に撤退することにするか。
どうせこの有様なら、この国の何かしらの機関も動いてきそうだ。
「フィアナ、ここで王家の魔道具の発動は問題なくできそうか?」
「はい、転移先の地点が明確であるため、問題なく使えるはずです。」
「よし、じゃあ発動し始めてくれ。俺とファナで時間稼ぎをする。頼むぞ、ファナ。あと少しの辛抱だ。」
「いいわよ〜、もう帰るってのは残念だけどね。」
「すまんな、また次回の機会に持ち越しだ。」
「では、発動し――」
パチ、パチ、パチ、パチ、パチ!
明らかに場違いな音が聞こえてきた。
こんな状況で拍手なんてする輩がいるわけが…いや、1人いたな。
「いやはや、見事っスね。大多数相手に物ともしない戦闘の強さに、慌てることなく戦況に対応する頭脳の強さ、そして、僕ちんを決して視界から外さない警戒心の強さ。こんな逸材が在野にいたなんて驚きでスね。」
ピカッ、バシーン!
「それにしても、あの魔法を消し飛ばす能力はなんスか?魔力を感知しなかったんで、スキルか固有スキルってのは分かったんスけど、見たことない能力っスね。これでも一応数々の敵を屠ってきてるんスよ。」
ピカッ、バシーン!
「お兄さん、ホントに何者なんスか?一応そこら辺の騎士団なら倒せるメンツ揃えたんでスけど。"ならざる王女"がいたとしても、無傷で退けるなんて信じられないっスね。」
ピカッ、バシーン!
「あっ、僕ちんもモチロン同じことできまスよ。それぐらいのことできないとSランク冒険者なんてできないんで。逆を言えば、それができたお兄さんは僕ちんに近しい戦闘力を持っててもおかしくないんスよね。」
ピカッ、バシーン!
少しずつ近づいてくる"赤雷"。
これが戦いの真っ最中じゃなければ、その綺麗な赤い煌めきを見ていたいものだ。
だが、そんな平和な時間が訪れることがないことは分かっている。
俺も腹を括ろう。
なに、時間稼ぎなら得意中の得意だ。
ピカッ、バシーン!
目の前に赤い雷鳴が降り立つ。
「第2ラウンドスタートっス♫」
次回更新日は12/27(日)です。
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