第99話 初めての街の問題
本日はこの1話のみの更新となります。
新作投稿しました!
勇者?聖者?いいえ、時代は『勝者』です!
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※本格的な投稿開始は来年からですので、予めご了承下さい。
「うおっ!」
なんだか殺気らしき物を感じた。
早くファナ達の作った魔道具を身につけなければ…
俺は小指に玉虫色の指輪をする。
そして、目立たないようにしながらも、周囲を見渡す。
これといった以上はない。
ふう、先ほどのは勘違いだったのか。
「どうかしましたか?」
「いや、何でもないよ。気のせいだったみたい。」
「?わかりました。」
俺は声の掛けてきた姫様にそう言葉を返す。
うーむ、初めてのことだから緊張して、神経が過敏になっているのかもしれんな。
気を引き締めないと。
……しかし、それは長くは続かなかった。
次第に頬が緩んでいく。
無理もないだろうと自分に言い訳をする。
だって、この世界に来て初めての都会なのだから。
目の前にはヨーロッパの歴史地区に指定されていそうな街並みが広がっている。
いや、現代チックな物体が存在しないから、より純粋な古き街並みって感じがする。
古きと言っても、こちらでは発展している部類なのだがね。
そして、当たり前だが、ただ街並みを見たいからと言って、ここまで来たのではない。
ちゃんとそれ相応の理由がある。
先日ついに砂糖が手に入った。
そして、牛乳もどきも手に入る算段がたった。
となると、もうアレを手に入れるしかない。
「ふっふっふっ、待ってろよ、卵ちゃんよ。」
そう、卵。
これが最低限の必要なピースだ。
ほんとはもう少し欲しい素材があるけど、なくても問題はない。
まあ、卵というより可能なら鶏が欲しい。
畜産始めるんだし、ちょうどいい機会なんだ。
「ちょっと〜、卵だけじゃないわよ〜。ドゥウィートの種籾も手に入れとないとなんだからね。」
ファナから俺を嗜める言葉が飛ぶ。
おっとっと、そうだった。
小麦の種籾も手に入れないといけないんだったな。
他にも香辛料とかも欲しいと言われたな。
あとは、誰にも言っていないが、米もしくは稲だ。
家畜の飼料って言ってたし、獲得難易度は低いだろう。
だが、果たして種籾があるかどうかとなると話は別なんだろうな。
ついキョロキョロ辺りを見回しながら歩いてしまう。
きっと側からみたら俺はお上りさんにしか見えないんだろうな。
だが、どうしても目新しい物を見てしまうと自分が抑えきれない。
「ふふふふふっ。」
ほら、同行者のファナに笑われてしまった。
だが、その見た目はいつものファナではない。
街行くヒューマンとほとんど変わらない出立になっている。
姫様も同様に明らかな別人へと変化している。
これもまた理由が存在する。
今回は3人と1匹でのお出かけだ。
王家の魔道具を使わないといけないということで、姫様。
より上位の鑑定スキルと戦闘力持ちということで、ファナ。
独断と偏見ということで、俺。
バレにくい護衛役ということで、リメ。
それで俺とリメは、ともかくファナと姫様は見る人が見れば、その正体がバレてしまう。
特に姫様に関しては、ここ〈イルガシャーシ公国〉の公王であるイノヴァ=ノーセン=イルガレノフの孫娘らしく、より知名度が高いそうだ。
少なくともバレたら大騒ぎだ。
そんな事態を避けるために、姿を変えてみせる魔道具を使っている。
転移後につけた玉虫色の指輪がそれだ。
ホウテンチョウの素材をふんだんに使っており、市場には出回っていない一品のため、魔道具であることもバレにくいらしい。
魔道具開発班のここ最近の最高傑作だ。
とりあえず先にやることを終わらせなければ。
俺達は街の中を進み、ある店の前へと着いた。
所狭しと肉が並べられ、ソーセージらしきぶら下がっている物まである。
そう、肉屋だ。
ここで資金を生み出すためだ。
資金自体は一応皆が持っていたものがある。
しかし、それらはあくまでも彼等自身のもの。
皆の公共物にするわけにはいかないのだ。
そのため、樹海内で取れた物を売却して新たに資金を生み出さなくてはならない。
かと言って、樹海内のものは基本的に市場に出回ることが少ない品に満ち溢れている。
そんな物を売ってしまえば、必ず注目が集まってしまう。
逃亡者だらけのグループなのだ、その事態はなんとしても避けたい。
「いらっしゃい、何の肉を注文かね?」
「ああ、購入じゃなくて肉の販売に来ました。ボアのいい肉が手に入りまして。」
「そうか、じゃあ奥に来てくんな。肉の査定を行うから。」
みせのおくのほうへいくと、屠殺された獣の臭いが漂う部屋に着いた。
まあ、長時間滞在したいとは思えないな。
樹海内の物は基本的に市場に出回らないと言ったが例外も存在する。
それが今から売ろうとしている、世界中比較的出回っているスタンピートボアだ。
スタンピートボアは樹海内で珍しく魔物ランクDでしかない。
所謂第一次消費者で、高次消費者の捕食対象になるべく存在している。
なので、スタンピートボアは流通させても然程違和感はない存在なのだ。
「話し方はすまんが、丁寧な言葉遣いなんだのに慣れてないもんで、これで許してくれ。で、肉ってのはどこだい?」
「これです。どうぞご査証ください。」
「……ほう、アイテムボックス持ちか。」
俺はリメに指示を出して、《ストッカー》の保管領域内からスタンピートボアを丸々1匹出す。
「ん?こ、これは上質なスタンピートボアじゃねえか。しかも、全然腐敗が進んでいない…坊主、これはいったいどこで?」
「ああ、実は先ほどこの街へ着いたんだが、その道中でたまたま遭遇してね。ん?解体済みのものが良ければ、一応用意はしてるが…」
「いや、解体は俺自身の手でやる。職業病なもんでな。悪いな、気使ってもらって。」
「いえ、大丈夫ですよ。それで幾らほどになりそうですか?」
「待ってくれ、試しに1体解体させてくれ。待たせる分、多少色つけるから。」
「ええ大丈夫ですよ。店先の方でお待ちしております。」
自然な感じで獣臭が激しい部屋から退却する。
状態の確認も尤もなので、店先の肉類を見て待つ。
やはり生肉はほとんど置かれていない。
ソーセージらしきものや、干し肉らしきものばかりだ。
生肉は注文が入った上で切り落とす方式なのかもしれないな。
「スタンピートボア1体あたりの適正売却金額っていくらぐらいだ?」
「ん〜そうね、保存状態もいいし色つけてくれるみたいだから、金貨1枚ほどじゃないかしら?銀貨75枚以上なら妥当だと思うわよ〜。」
「なるほど、分かった。」
1体あたり7,500〜10,000円てところなのか。
安いのか高いのか分からない物価だな。
数分経ったぐらいか、肉屋の亭主が奥から出てきた。
その表情は朗らかであるため、どうやら買取には期待できそうだ。
「お早いですね。」
「これが仕事だからな。それにしても、良い状態のスタンピートボアだな。色つけて、金貨1枚と銀貨10枚で買い取るよ。どうだい?」
おっ、まさかの高評価だ。
想像以上の買取金額に驚いてしまう。
「お、なんだか驚いたという表情をしているな。今は結構適正な買取金額なんだぞ。ああ、そうか、この街に来たばかりで、坊主達知らねえのか。ここ最近まで山脈の方が立ち入り禁止になっていて、あまり魔物の肉が出回っていなかったんだ。今もまだ供給量は少なめって感じでな。」
「なるほど。」
「そういうわけでまだ肉があるようなら、売って欲しい。10体までは買い取るよ。」
そう言われたので、リメに10体ほどのスタンピートボアを出してもらう。
「ん?さっきのやつと合わせると、11体になるぞ。」
「いや、1体はサービスってやつだ。もし、受け取りづらいって言うなら、1つ道案内をしてくれると助かる。」
「ああ、なるほど情報料てか。その程度ならお安い御用だ。待ってな、今金持ってくるから。」
そして、俺は金貨11枚を受け取る。
初めて金貨を見たが、この世界の鋳造技術はなかなかのものらしい。
綺麗な六角形で、人物らしき造形も鮮明に彫られている。
話に聞いたところによると、各国で王の顔を彫った貨幣が鋳造され、流通するらしい。
「それで道案内ってのはなんだい?生憎だが、店からは離れられないから、口頭だけになるが、許してくんな。」
「構いませんよ。これぐらいの大きさの卵を週に何回も産む鳥を飼育している所ってありますかね?」
「ああ、ドゥードゥーのことかい?それなら、ここから西に行った街の外れに鳥の鳴き声でうるさい農場があるからそこへ行ってくんな。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「おう、また今度売りに来てくんな。」
「ええ、ではまた。」
そして、俺達は肉屋の亭主に教えてもらった通りに西に向かって歩き出した。
次回更新日は明日です。お見逃しなく…
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