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Different Sides(6)

本日はこの1話のみの更新となります。

◇〈レンテンド王国〉某所の様子



「閣下、報告がございます!」


転がり込むように執務室に駆け込んできた伝来らしき者。

格好から察するに、魔法師団関係者か。


ただその態度はいただけんな。


「駆け込んでくるとは何事か!貴様、無礼であろう!」


俺が何か言う前に秘書官からの叱責が飛ぶ。

無駄な発言をする手間が省けたな。


「しっ、失礼しました。何分緊急の案件でござまして…」


「良い、赦す。申してみよ。ただ、内容次第では追って沙汰を伝えなくてはならんな。」


途端にその者は顔を青ざめさせた。

まあ、直ぐに不敬罪と認定しなかっただけありがたく思うんだな。


それにしても、また資金に関する陳情か?

ちっ、与えられた仕事1つまともに出来てない魔法師団に払う金なんかないんだよ。

ただでさえ国の統治が上手く行ってないんだ。

厄介な案件だったら、無能な魔法師団ごと潰すか…


「は、はっ!先ほど王家の魔道具の発動を感知致しました。」


「なんだと?」


ほう、やっと与えられた仕事をこなしたか。

〈スウィーセファンド〉の一件より監視を強化しておいた成果がやっと出たらしい。


「閣下は先を望んでおられる。疾く述べよ。」


「はっ。転移前は座標範囲外のため特定ならず。転移後は敵国〈イルガシャーシ公国〉東部にある主要都市〈ウラフヴォスト〉近郊でございます。」


「なぜ転移前を特定できておらん!このむ「良い、赦す。」…はっ、失礼致しました…」


「ひとまず〈ウラフヴォスト〉周辺にいる者を全て集結させ、その場にいるフィ…王族の身柄を拘束せよ。勿論丁重に扱うのだ。もし、その身辺に不審な者がいた場合、即処断することを許可する。」


「はっ!」


「くっくっく、()()も動くかもしれんな。」


秘書官の1人に指示を出す。

今回は情報の入手スピードが早かったから、逃すこともあるまい。

それに()()なら間違いないだろう。

そうそう逃したりはせん。


対処は終えたので、次は分析だ。

はてさて、どういったことか。

王家の魔道具、すなわち王族の誰かが動いたことを示している。

答えは自ずと決まってくるが、裏付けを取らねばならんな。


「おい、ロードスが身を寄せている帝国の辺境伯領を監視している者に連絡を取れ。王族の数が揃っているかを確認させるのだ。」


「はっ!」


秘書官の1人が執務室から出ていく。

確認が取れるまでに他にある情報を聞くとするか。


「判明したのはいつだ?」


「文字通り今さっきといった感じでございます。感知と同時に、こちらへ赴きました故。」


「転移前を観測できなかったと言うのは真か?」


「はい、その通りでございます。少なくとも王国・帝国・公国・教国のいずれかである可能性は非常に低いかと。」


「ふん、そうだろうな。」


「閣下、確認が取れましてでございます。」


案外早く確認を取りに行った秘書官が戻ってきた。

まあ答えは予想通りだろうな。


「続けよ。」


「はっ!1人も欠けず、全ての者が在中とのことです。」


「そうか、分かった。」


やはり王家の魔道具の使用者はフィアナか。

これで〈スウィーセファンド〉の雪辱を晴らすことができるな。

それに前情報だと、あのオーボエナッシの双子妻も近くにいておかしくない。

くっくっく、フィアナ共々我が手中に収めてやろう。



それに逃したとしても、フィアナ共の場所はある程度特定できた。


想定外と言えば、想定外だったな。

まさか危険を回避するために転移した先が魔境だったとはな。

大方誤作動だろうが、一体何を考えているのやら?


だが、考えてみよ。

フィアナ共は〈不抜の樹海〉に拠点を据えて生活していることになる。

言い換えれば、そこは生活が可能なレベルということだ。


幼少の頃より〈不抜の樹海〉の話を聞いていたが、やはり名ばかりの地なのではないか?


これはもしかしたら良い機会なのかもしれない。

我が治世の間に〈不抜の樹海〉に進出し、領土を増やすのも悪くなさそうだ。

クーデターを境に軍事力の増強は進んでいる。

十分実現可能な話になりそうだ。


「よし、下がっていいぞ。ご苦労であった。」


報告に来た魔法士団の者を下がらせる。

続いて軍部の者達を呼び出し、軍事計画を練り上げることとしよう。



これは、俺が王国史に名を残す偉大なる名君になる一歩だ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


◇〈イルガシャーシ公国〉某所の様子



「むっ!」


今の気配は、王家の魔道具か?

転移先は東……〈ウラフヴォスト〉のあたりかのう。

感じた魔力量的に、転移してきた者は多くて4人と言ったところじゃな。


王国でクーデターが起きて、2ヶ月程度。

未だ王族の者が反逆者の手に落ちたという情報は出ておらん。

ということは軍事行動ではあらんな。


ワシは側にいた部下に〈レンテンド王国〉に忍ばせている者に連絡を取るように指示を出す。


()()()()()()王族が逃れたという帝国の辺境伯領には人員を送り込めんからな。

王国の、更に手だれの者が多く、生半可な者だとすぐに処理されるからのう。

結果として、どうしても二度手間のような確認作業になってしまう。


報告は幾ばくも待たずにもたらされた。


「イノヴァ公、報告いたします。」


「何と言っておった?」


「辺境領の者に動きなし。おそらく例の姫によるものかと。」


やはり、そうであったか。

辺境伯領は監視の目があることが分かっているため、迂闊な動きはできん。

それこそ王家の魔道具を用いるようなことはな。 


そう考えると、必然的に当時嫁いだりしていない王族で唯一王都を離れていたフィアナに辿り着く。

反逆者側もどうやら同じ結論に至ったようじゃな。


ほうほう、それにしてもあの子がのう。

前に一度見たときは恥ずかしがって王の妃である我が娘の後ろに隠れておったんじゃが、かなりお転婆な女の子へと育ったようじゃな。


「それで、王国の動きは?」


「案の定〈ウラフヴォスト〉周辺の影の者に捕縛命令を通達。"赤雷"が動くことも示唆するような発言もあったとのこと。」


"赤雷"か。

彼奴は少し厄介じゃな。

性格に難はあるが、王国でも屈指の実力者じゃ。

被害はある程度を覚悟する必要がありそうじゃな。


「……"赤雷"が動くかもしれんのか…強権を発動する。山脈に配置していた騎士団の一部を治安維持を名目に〈ウラフヴォスト〉へ進軍させよ。議会には事後報告とする。」


「きょ、強権をですか!かしこまりました、即時通達しておきます。」


慌てて部屋を飛び出していく部下。

強権の発動なぞ数年ぶりのことじゃからな。

無理もなかろう。


議会の反発を招くかもしれんが、こればかりは迅速な行動が求められるからのう。

いや、"赤雷"の名を出せば大丈夫そうか。

若い世代にはいい刺激になるじゃろう。



「あの、イノヴァ公。もう1つお伝えしたいことがございます。」


王国の情報を伝えてくれた部下が未だに報告があるという。

報告は最後まで聞かんとな。


「フィアナ姫の現在の生活拠点のある地域が判明したとのこと。その場所、なんと魔境たる〈不抜の樹海〉。」


「なんじゃと!それは真か?」


「は、はい!転移前の座標が分からないことから、その可能性が大であると判断されたようです。」


あまりにも想定外のことが伝えられてしまったので、つい動転して声を荒げてしまった。


ワシは我ながら生意気だった若い頃に一度だけ樹海へトライしてみたことがある。

所詮名ばかりの魔境と考えてな。

結果は言うまでもなく、惨敗。

命からがら戻ってきた。

そして魔境〈不抜の樹海〉たる所以を知った。


そこに我が孫娘であるフィアナがのう…

近くにオーボエナッシ家の"人間弾丸無双"、その妻である"双翼の刃"がおるじゃろうが、その程度で生きていけるとは思えん。

お抱えの騎士達が周りを守っておるとしてもだ。


ということは…


「……元々樹海に住んでいた者がいた可能性があるのか…それも飛び切りの化け物レベルの…」


ワシの推論に部屋の中の空気が冷えていくのを感じた。


樹海に入るだけでも冒険者でBランクが求められるのだ、ワシは当時きちんと実力でAランクであった。

それなのにわずか1日と持たず、敗走する形になった。

そこで普通に生活するとなると、Sランクですら生温い可能性もある。


その者との敵対は考えん方が良いじゃろうな。

おそらく先の転移でこの国に入った可能性が高い。

正直どのような者か分からんが、不用意な刺激を与えるのは愚策じゃな。


「至急騎士団の者は伝えよ。フィアナ姫の身辺の者に手を出すことを禁ず。ドラゴンの尾を踏みたくなくば、友好的に接せよ。」


「!かしこまりました、一言一句間違えず伝えて参ります。」


おそらく王国の手の者との衝突は必至。

しかも、"赤雷"とのだ。

〈ウラフヴォスト〉の街が荒れなければ良いんだがのう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


◇幼馴染み・めぐりの様子



「むっ!この気配…」


「どうした、めぐり?」


〈クロージャーゼン山脈〉麓にある〈ウラフヴォスト〉に着いたのはつい先日。

今は街中でアマザナと買い出しをしていた最中のことだ。


今、微かにだが丈の気配を感じた。


「いや、あの、その、今丈の気配を感じて…」


「はぁー。めぐり、そのジョーとやらは〈不抜の樹海〉にいるんだろ?ここにいるはずないじゃないか?」


呆れたように私を諭すアマザナ。


うーん、気のせいだったのかな?

言われてみれば、今はもう感じないし…

だけど、何か引っかかるような…


「ほら、好きなだけジョーの話を聞いてやるから、早く帰るよ。」


「うーん…」



皆で借りている一軒家に戻ってきたところ、シェーナしかいなかった。


「ん?クラリーはどこ行った?」


「んーなんか姫様の気配がする、とか言って慌てて外に飛び出して行ったよ。」


「なんだめぐりみたいなこと言って、こいつも愛しの王子様の気配がするとか言い始めたんだよ。」


「べ、別に愛しの王子様とかじゃないもん。ただの幼馴染みだもん。」


「はいはい、そうだったね。」


「ここも〈スウィーセファンド〉と並ぶくらい大きい街だからね、似たような人でもいたんじゃない?」


もう今は感じていないような気がするから、やっぱり気のせいだったみたい。

似た気配ってことで誰か他の転移者でもいるのかしら?


「……姫様いなかった…」


テンションだだ下がりのクラリーが戻ってきた。

トボトボという効果音がついてそう。


「ね?だから気のせいだって言ったでしょ?」


「……そうなのかな?」



〈クロージャーゼン山脈〉一帯に行われていた規制も段階的に解除され、今は麓での活動は可能になった。

あと1ヶ月もすれば、入山可能になるらしい。

けどその時期になれば、もう秋は近いから慎重に動かないとね。

けど最短距離で突っ切っていけば、間に合うかな?


あと少しで会えるから、待っててね。

次回更新日は12/5(土)です。


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別作品もどうぞよろしくお願いします!

勇者?聖者?いいえ、時代は『○者』です!
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