第98話 砂糖の問題
今回少し短めです。
こちらは本日2話目です。
前話は12時の更新となります。
未読の方は是非ご覧になってください。
「ついに砂糖が手に入った。」
俺は皆の前で開口一番そう告げた。
一瞬皆ポカンとした様子であったが、俺の言ったことを理解したのか徐々に歓喜した様子へと変わっていった。
特に凄かったのは女性陣だ。
「ほんとなのですか!ジョーお兄様!」
「やったね、ウェス!」
「うん、イース。これで甘いものが食べれるね。」
「良かったわ〜。果実の甘さだと、物足りてなかったのよね〜。」
レインも口にこそ出していないが、頬が緩んでいる。
やはりどの世界でも甘い物好きには変わりないようだ。
そして、俺は昨日の経緯を説明していく。
勿論だが、アイネの存在は隠す。
栽培可能な作物から砂糖が手に入ると告げた時には、一際大きな歓声が上がった。
「継続的な入手のため、原料の栽培も行なっていくから。同時に魔法をほとんど使わない製糖方法も伝えるから、皆覚えてくれ。」
まずは、栽培から始めるとするか。
と言っても準備だけだが。
当初の予定ではこれまでのフバツソラヌン畑に作ろうと考えていた。
しかし、残念なことにあと1、2週間先の収穫を終えるまで使うことはできない。
だからと言って他のスペースを利用することは憚られた。
なので今回は説明に留めておく。
サトウキビ、もといマトウキビをその茎を2節ほどつけた状態にカットしていく。
サトウキビと同じ性質なら、このカットした状態のものを植え付けると、そこから新たなマトウキビが生えてくるのだ。
それらを寝かせるように地中15cmほどの深さに埋め、軽く覆土すると植え付け完了だ。
そして、作物の性質上なるべく乾燥気味を保ちつつ栽培していく。
水のやり過ぎは御法度だ。
また栽培していく上で、従来のサトウキビだと、葉が枯れ、それを茎についたままにしておくと、害虫病の原因になったりするらしく、注意が必要らしい。
この性質も否定はできないので、同様の対象を心掛けよう。
サトウキビだと、挿し木という方法を使い、その数をどんどん増やすことができるらしい。
だが、マトウキビの生育スピードを考えると、この技術は仕えなさそうだ。
魔石を使って、しっかりと魔素を供給し続けて、最短収穫を目指すからだ。
収穫は俺がやったように切り倒して行う。
地球だったら、収穫機なるものがあるらしいが、勿論この世界にないから手動だ。
これを最短栽培期間の1ヶ月のローテーションで行う。
なんせここは温帯だ。
気温の関係で晩春から早秋の間にかけてしか、栽培できないだろう。
今からだと、来月のフバツソラヌンの収穫後に植えたとしても、2回しかない。
だから無駄な時間は費やせないのだ。
特に難しいところもなかったので、皆1回の説明で理解できたようだ。
まあ初回の栽培は俺も積極的に参加するつもりだから大丈夫だろう。
栽培の話が終われば、次は製糖だ。
これは俺が収穫してきた一部を使い、実際に行う。
サトウキビをそのまま噛んでオヤツにするなんて話を聞いたことがあるが、やはりきちんと砂糖にしないとな。
ひとまず完成系の砂糖を《素材分解》を使って、作成する。
正直言って、この方法が一番上質なものを最短で製糖できる。
結果として、上白糖が作れた。
だが、やはり従来の製糖方法も知っておかなければならない。
この先何が起こるのか分からないのだからな。
手順は製塩よりも多くなる。
最初にマトウキビを絞って、砂糖の素となる汁を出す。
人力の道具はまだ用意できなかったので、ここは魔法を使う。
バンダーに後ほど作ってもらわないとな。
その搾った汁は塩の際と同様に濾過して目に見える不純物を取り除く。
さらにそこへ石灰を加えて加熱しながら、タンパク質などの不純物を沈殿させ、分離させる。
そして、その汁の上澄みを煮詰めていく。
これがまた根気のいる作業だ。
水分を飛ばして濃縮させていき、シラップと呼ばれる状態にする。
さらにそのシラップを真空状態にした缶の中へ入れ、低温で加熱して結晶化させる。
低温で加熱しないと、結晶がカラメルのような色になってしまうからだ。
真空状態にすることは人力では厳しかったため、このでは俺の《素材分解》で空気を分解して代用した。
この真空結晶缶はバンダーとしっかりと相談した上で作らないとな。
それか風魔法あたりで代用できないか検討しよう。
その後、また別の缶に入れて、結晶と蜜を遠心分離させる。
遠心分離も人力だけでは難しいため、風魔法を使って代用する。
遠心分離機となると、魔道具で作る必要がありそうだな。
バンダーやファナと相談しなければ。
これでいわゆる原料糖の完成だ。
見た目は所謂三温糖に近い茶色っぽい感じだ。
これで完成ということにしとく。
「なあ、ジョーの能力で作った奴と見た目違うんだがこれでいいのか?」
作り終わった原料糖と《素材分解》でできた上白糖を見比べて、疑問を呈してきたリーク。
皆も同じ疑問を抱いたのだろう。
こちらに視線を向けてくる。
だが、当然想定済みの質問だ。
「ああ、とりあえずこれで完成だ。」
「?いいのか?」
「これ以上は今ある技術力じゃあ無理だろう。」
俺がそう言うと皆一層分からない表情に陥った。
けどこればかりはどうしようもないのだ。
だって俺も詳しく知らないなだから。
原料糖を更に精製すると精製糖になることは知っている。
だが、その際に行われる不純物の沈殿に使われる材料の心当たりがない。
場合によってはこの世界にはないなんて可能性すらある。
「うーむ、まあお前がそう言うならそうなんだろうな。」
個人的にも綺麗な上白糖を自力で作れるようになりたいから、頑張りたいところだ。
だが、砂糖が手に入るとどうして欲しくなるものが出てくる。
俺の好物を作るためには、あの存在が不可欠だ。
……一回だけ街にでも出てみようかな。
次回更新日は明日です。お見逃しなく…
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