第94話 クーデターの問題③
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「見事なものだな…」
俺の率直な感想が口から溢れた。
俺は目的地である王城のある岩山に着いた。
いや、言い方に違和感があるか。
王城になっている岩山に着いた。
映像で見たことのあるエアーズロックのような一枚岩の中をアリの巣状に掘り進めてあり、しっかりとした居住空間が作られているようだ。
これは、地球にあったら世界遺産認定されるようなレベルだな。
正直言って、感動の一言に尽きる。
おそらく城の正門であろう、巨大な石造りの門の前に着いた。
脇には門番らしき大きな体躯のゴブリン種がいた。〈ゴブリニア〉に入る時に見た門番よりもさらに大きい。
……ゴブリンロードだな。
主という意味を持つロードが門番って何か変な感じがする。
1人考え事をしている間に、レーアとその門番の会話が始まっていた。
『ーートイウコトデ、コレガソノ捕虜ダ。王ノ御前ニテ取リ調ベヲ行オウト考エテイル。軍事機密モ含ムタメ、人数ハ最小限ノ3人トスル。』
『シカシ、姫ヨ。ソノ案ニハ賛同シカネマス。王ニ万ガ一ノコトガアリマシタラ…』
『ナンダ、自分トディオーンデハ足リヌトデモ?』
『イ、イエ、ソノヨウナコトハ…』
『ソレニ貴様ナゾニ決定権ナドナイ。疾ク王ニ奏上ノ意ヲオ伝エスルノダ。』
『ハ、ハッ!』
ゴリ押し感が半端ないな。
権力で部下の意見を握り潰したぞ。
身分制社会の闇を見た。
まあいちいち変な勘繰りを持たれて、チェック受けずに済んだと思えば良いか。
ゴゴゴゴゴッ。
腹の底から響くような重低音と共に扉が開いていく。
外から光が入ってこないのか、中は薄暗い様子だ。
ゴクッ。
思わず唾を飲み込む。
明確な敵と思える存在のいる場所へ踏み込むというのは初めての経験だ。
知らず知らずのうちに緊張感が高まってしまう。
ただここまで来た以上進まなくてはならない。
自分の能力を信じて俺は敵の居城へと踏み入れた。
カツーン、カツーン。
足音が岩でできた壁や床で反響する。
まるで気分は刑執行直前の死刑囚だ。
不安が募っていってしまう。
いや、ダメだ。
陰鬱な気分になっても何も状況など変わらないのだから。
しかし、それでも雰囲気というのか少し排他的な感じがする。
何度かハイゴブリンとそれ違うのだが、向けてくる視線が痛い。
しかも、その対象が俺だけでなく、レーアやディオーンにも注がれているのだ。
まるで疎ましい存在を見るかのように。
やはりレーアが語った状況というのは正しいように思える。
そして、一際大きくそして装飾の施された岩扉の前へと辿り着いた。
言われずとも分かる。
おそらくここが謁見する時に使う大広間だろう。
だが、今回はこの部屋に入ることはない。
『王ガ3人デ会ウコトヲ許容シナカッタ場合ハココノ部屋ガ使ワレルトコロデアッタ。勿論扉ニ見合ッタ部屋ノ大キサダ。モシコノデアッタノナラ、作戦ニ支障ヲキタシテイタナ。』
今、レーアが小声で伝えてくれた通りだ。
今回の作戦はなるべく小さめの部屋がいい。
大きめの部屋でもダメではないが、その場合作戦時間が変わってきてしまう。
まさにラッキーといったところだ。
それから少し先に進んだ所に目的の部屋がある。
先ほどの大広間の扉とは違い、小さめだが装飾は先ほどの比にならないほど豪華なものだった。
見るからに王の執務室というのが丸わかりである。
個人的には侵入者対策としては、ここにいますよ感満載で如何なものかと思うが、これが権勢を振るうというやつなのだろう。
ただ備えに関しては、きちんと考えているようだ。
扉の前に護衛として立っているゴブリン種が、ハイゴブリンなのだ。
漂うオーラからして、只者ではない。
可能なら、《情報分解》してしまいたい所だが、もう作戦の前段階に入ってるため、探られるような不用意な行動はできない。
今は俯いてやり過ごさなくては…
『先触レガ述ベタ通リダ。コレヨリ王ニヨル捕虜ノ取リ調ベヲ行ウ。』
『失礼、姫ヨ。小生モ同席シテヨロシイカ?何分護衛トイウ立場デアリマスノデ。』
『アーレス、ソノ必要ハナイ。捕虜ハ見タ通リ、魔力封ジノ手錠デ拘束済ミダ。ソレニ私トディオーンガイル。十分ニ制圧可能デアルタメ、万ガ一モ起コラン。』
レーアはそう言って、俺が身体の前で両手を拘束している拘束具を見せる。
この拘束具はディオーンが既に持っていた物を流用している。
いや、流用というより正しい使い方なのか?
『……フム、ソノヨウデ…シカシ、コレバカリハ許容デキマセンナ。護衛タルモノ油断ハ御法度デアルタメ。』
『……仕方ガナイ。ダガ軍事機密デアルタメ、入室後口ヲ挟ムコトハ許サン。』
『エエ、カシコマリマシタ。』
ちっ、流石にそこまで上手く事は進まないか。
ただまだ作戦に大きな支障はない。
ここからが正念場だ、気張れよ俺!
『ふむ、そいつがその捕虜とやらか…』
入室すると同時に部屋の奥にいるハイゴブリンから声が発せられた。
その声はレーアとか他のハイゴブリンと違い、ヒトのそれと変わらない流暢さであった。
ただそこから発せられる威圧感はなかなかのものだ。
テンペストグリズリーと遜色ないレベルだな。
憎々しげな表情を浮かべながら、顔を上げる。
そこには筋骨隆々とした壮年のハイゴブリンがいた。
見た目的にはとても《不老》持ちには思えない。
それとも《不老》の能力によるものなのか?
「やい、俺をここに連れてきてどうするつもりだ!お前、何様だよ。」
『オイ、貴様。王ノ御前ダゾ、口ヲ慎メ!』
俺は反抗精神たっぷりにそのハイゴブリンを罵倒する。
そして、すぐさまディオーンが俺を押し倒し、地面に腹這いにさせられる。
鋭い殺気が俺の首筋に当てられている。
これはおそらく先ほどアーレスと呼ばれた護衛のものだろう。
だが、俺は意に介していないように振る舞い、キッと目の前のハイゴブリンの長を睨みつける。
名前:ゴ=ロクノス
種族:ハイゴブリンキング
立場:[敵(観察)]ゴブリニア王
能力:《ゴブリンを統べるモノ》
《鑑定》《上位隠蔽》《繁殖》
《不老》《王威》Lv7
《眷属召喚:ロード以外ゴブリン種》
《統率者:ロード以下ゴブリン種》
《剛体》Lv5《領域感知》Lv6
《身体操作》Lv7《火魔法》Lv7
《ゴブリンを統べるモノ》
固有スキル。
他ゴブリン種に対して絶対的優位に立つ。
また、他ゴブリン種の生み出した眷属を強制的
に自身の配下とすることも可能。
さらに、対ゴブリン戦闘時、身体能力が10倍ま
で増加する。
《不老》
寿命が消失し、身体の加齢が起こらなくなるス
キル。
身体は自身のベストと思われる年齢へと変化
し、その状態を維持し続ける。
ただし、自身の年齢より上の場合は、その年齢
になるまで通常通りの加齢をする。
ふむ、やはり厄介だな。
おそらくだが、《ゴブリンを統べるモノ》がある限り、レーア達自身による勝利は有り得ない。
ゴブリン種相手ならそれこそ無敗の王者だろう。
そして、問題の《不老》だが、ほとんどが想像通りだ。
つまり今の見た目がこのロクノスの最盛期という事だろう。
大抵青年期というかもっと若い姿格好してそうなんだがな。
「やい、黙ってないで何か言ったらどうなんだ?それともびびって何も言えねーのか?」
『貴様ッ!』
今度はレーアに足蹴にされる。
生憎だが、俺は女性に蹴られて喜ぶような高尚な趣味はしていない。
いいぞ、もっとしろ、してください。
『よい、ひとまず我はこやつと話をする。その際の言については不問とせよ。』
『シ、シカシ…』
『良いと言っておるのだ。同じことを言わせるな。』
『『ハッ!』』
よしよし、これでレーア達との共闘関係はバレないで済むな。
なるべく俺を手荒に扱って敵対関係にあることをロクノスに示すように指示をしていた。
どうせ俺の身体の表面は《分解結界》が覆っていて、外部からの接触は受け付けない。
ディオーンに押し倒されたように見えたのも、全て自分で動いてやっている。
今この瞬間も仕込みは行っている。
終わるまでにロクノスの真意を探ってみるとするか。
次回更新日は11/22(日)です。
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