第1話 Hello & Goodbye、元の世界
処女作となっております。
誤字脱字、伝わりにくい表現等が見受けられることもあると思いますので、その際は優しく諭していただけると幸いです。
結論から言おう、俺は第二の生を送れるらしい。
目の前女性曰く、そういうことらしい。
ただ今までとは違う世界で生き返ることになるらしい。
"らしい"と連呼しているが、実際問題まだ何も実感が湧いていないのだ。
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比較的、というか結構自然豊かな地方の農業を営んでいる一家の長男として生を受けた。
自分が生まれてから3年後に妹の千景が生まれ、物静かで優しい両親と暮らしていた。
小さい頃から色んな物事に興味を示していたが、一部を除きある程度まで学ぶと満足してしまって長続きしなかった。
ただ、好きなことはいくつかあった。
読書は特に好んでいたと言える。
読むものは、特に選り好みすることはなく、漫画や小説といった大衆向けのものから、小難しい哲学の専門書まで読んだ。
目についたものから片っ端から読んでいたので、知識も所々穴抜けで内容を完璧に覚えているわけではない。
もちろん下世話な本もよく嗜んでいた。健全に成長した男児の紳士的な嗜みである。
しかし時々妹に見つかり、『ナニコレ?』と濃淡のない黒一色なった瞳で問い詰められ、捨てられたり燃やされたりしていた。解せぬ。
知識は得るだけでなく、しばしば確かめることもしていた。その中で一番行なっていたことが、一度分解してみるということである。
幸いにも、家には分解するための工具も、その対象になる機械も十分にあった。
最初は組み立て直した後に見知らぬネジが2、3本残っていることも少なくなかったがある程度すると元通りに組み立て直せるようになっていた。そのうち、故障しても自力で治せるようになり、よく家や学校などでも壊れたものも修理することも増えていた。
ただそんな平和な日常も呆気なく終わりを迎えた。
高校1年のある日、いつも通り下校して家に帰ると、明かりがついていないことに気づいた。
農家であるため、共働きではあるが基本自分が学校から帰ると誰かいるのが当たり前であった。
何かおかしい…
俺は急いで家の中に駆け込んだ。
一瞬茫然としてしまった。
そして辺りを見回して、吐き気を堪えられなくなった。
すぐに気を失わなかったのは日頃から得ていた知識のおかげもあるのだろう。
無惨に食い散らかされた肉片と骨。
壁には必死に抵抗か逃走を試みたのか血の手形。
犬や猫などと比べられようのない大きさの足跡。
そして、両親が肌身離さずつけていたネックレスが一つ。
確認して、そして認識してしまった。
疑いようのない現実にその場で意識を手放してしまった。
その翌日、地元の猟友会がその犯人を無事仕留めたとの連絡が入った。
ネックレスの片割れが解体したその体内から発見されたのが証拠となった。
幸いにも、妹は部活の長期遠征ということで難を逃れていた。
しかし、帰宅後俺と同じ、いやそれ以上のショックを受けてしまった。
無理もないことであったが、その妹を見ていると、心の奥深くまで形容しがたい鈍痛が走った。
両親の死後、これまであまり接触がなかった叔父が一応後見人となってくれたが、基本は妹と2人で暮らしていくこととなった。
残された貯金でひとまず妹が社会に出るまでは生活できそうであった。
兄である俺は甲斐甲斐しく妹の面倒を見た。
唯一になった身内に対して、以前以上の愛情を与えることは必然であり、それが妹のためになるならばと自然と頑張ることができた。
その結果、悲しみは時間と共に徐々にだが、本当に徐々にだが薄れていった。
事件当初は感情の失った人形のようであった妹であったが、1年も経つと前までとはいえないものの周りに対して明るく振る舞うことも増えた。
ただ、あの事件は妹にとっては衝撃であり、完全に元に戻れることはない歪みを与えてしまった。
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それから時は流れ、俺は高校3年生となった。
来年以降は職に就き、社会人となる。
いわば最後の人生の夏休みである。
「丈、おはよう。」
家の近くのバス停で学校へ行くバスを向かっていたら、澄んだ声を掛けられた。
これはなにも特別なことはなく、いわば日常のひとコマであった。
「ああ、めぐりか。おはよう。」
朝の挨拶をしてきたのは、幼馴染みである清水めぐりである。
付き合いはとても長く、保育園の頃から同じ所へ通っている。
小学校低学年くらいまでは、2人で野山を駆け回ったりしていた、鼻垂れ小僧という名称がお似合いの見た目であった。
それが成長した今では、肩のあたりで揃えた前髪パッツンの黒髪美少女である。
いつぞや俺が『やっぱり女の子はタイツだよな』と友人と話していたのを聞いたらしく、夏以外はタイツを履いている。
ふむ、今日も素敵な御御足ですね。
テンプレ的な美少女であるため、必然的に告白してくる男性が多いらしい。
学校内の男子生徒は勿論、学外の生徒やそれらの兄弟、さらには男性教諭にまでその魅力の虜になるものは後を経たない。
俺も度々相談されたり愚痴を聞かされたりする。
いい加減、諦めてくれよ。
「――ねえ、聞いてるの?」
「ああ、悪い。若干寝不足でな、ぼーっとしてしまった。」
どうやら、頭があまり働いていないらしい。
そして、バス停に到着していたようだ。
「まあ、丈は千景ちゃんのために頑張ってるもんね。偉い偉い。けど、無理はしないでね。」
くっ、なんて笑顔だ。
自身の中にある邪念が薄れていく。
おい、周りの奴らは見るんじゃない。
あれは俺に向けた笑顔だぞ!
「別に無理はしてねえよ。ただ毎朝千景のために作る弁当のレパートリーを考えるのが大変なだけだ。」
「ほんと、よくやるよね。男子で弁当作ってるのなんて丈だけじゃない?」
「いいんだ、千景には俺しかいない。そのためなら、俺の身なんていいんだよ。それにめぐりが週1でも俺らの弁当作ってくれてるから、そこまで負担ではない。」
そう、俺は全男子垂涎もののめぐりの手作り弁当を週1で食べることができる。
めぐりの趣味は、料理である。
弁当以外にも夕飯とかをご馳走してもらうことも珍しくない。
おいそこのメガネ、羨ましそうな目をするんじゃない。
「もう、そんなこと言って体調崩したら元も子もないんだよ。何度も言ってるけど、わかってる?」
「へいへい。」
そう言いながら、バスに乗り込んでいく。
眠気もあるので、少し寝るために後方の席まで歩き座る。
そして、なんの躊躇いもなく、めぐりはいつもののように隣に座る。
「学校着いたら起こしてくれ…」
「はいはい、いつも通り起こしますよ。」
そう言ってくれたのを確認して眠りにつく。
なんだか今日はポカポカ暖かいな。
…………
ん、気のせいかな。
どんどん暑くなってる気がする。
…………………
いや、そんなもんじゃない。
暑くてたまらない、てか熱い。
「あっ、隕石が…」
これが俺、黄道丈の最期に聞こえた誰かの言葉であった。