表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/59

01 守ってあげたくなる女子ランキング一位 菓子谷胡桃1


 土曜日午後の図書室は我々図書委員の聖地サンクチュアリだ。


 俺はグラウンドから遠く聞こえてくる吹奏楽部の演奏をBGMに、貸出カウンターの裏で本のページをめくる。

 先輩に薦められるままに読み始めた三島由紀夫。この自分の性癖を隠さないスタイル、応援せざるを得ない。


 俺ももうちょい自分の性癖に正直に生きてみようか。まずは作りかけの町内触らせてくれる猫マップを完成させないとな……


 そんなことを思いながら本を閉じると、利用者のいない図書室をぼんやり眺める。


 ……相変わらず客が来ない。

 平日の放課後ですら少ない利用者だが、土曜の午後ともなると何故開室してるのか分からないレベルだ。


 大きく欠伸をした俺の隣に、ちっこい人影がトスンと腰掛ける。


「なんだ。お前まだ帰ってなかったのか」


 小さな人影は菓子谷胡桃かしたにくるみ

 同じ図書委員で、なにより家が近所の幼馴染だ。幼稚園から一緒で高校までも同じだというのだから、腐れ縁と言う他ない。


 胡桃はカウンターに短い両腕をにょーんと伸ばすと、呻くように言い捨てた。


「……告られた」

「自慢か」


 俺は軽く返すと次の本に手を伸ばす。十二国記の新刊、ようやく貸し出しの順番が回ってきたのだ。

 胡桃は不満げに口をとがらせ、俺を睨みつけてくる。


「そう思うか? 私のこの弱った姿を見て、守ってあげたくならないか?」

「ならん。浮いた話の無い俺にもうちょい気を使え」


 俺は本をカバンにしまうと溜息を一つ。


 菓子谷胡桃。幼馴染の贔屓目を差し引いても確かに顔は可愛い。学年でもトップクラスではないだろうか。


 人懐っこい無邪気な瞳に明るい性格。

 守ってあげたくなる女子ランキング一位。一部の男子生徒達から熱狂的な支持を受けている人気の美少女だ。


 ……これだけモテ要素が詰まっているというのに、なぜ支持を表明しているのが『一部の』男子生徒なのかというと――


 俺は胡桃に目をやり、妄想ユニークスキル『疑惑の保健医』を発動。


 年齢 15

 身長 132センチ

 体重 31キロ

 バスト AA


 ……胡桃のステータスはざっとこんなところか。


「なんだよー、ジロジロ見てー」


 胡桃は俺の視線を不審気に見返しつつ、カウンターに上体を投げ出し、椅子の上で床に届かない足をパタパタ。


 小学生並の体格に童顔の美少女顔。人懐っこく甘えたな性格。

 そう、彼女こそ我がタイラギ高校が誇るロリ美少女なのだ。


「……ねえ、やっぱ気になる?」

「気になるって?」

「だから告られたって言ってんじゃん」

「どうせ、いつもみたいに断ったんだろ。相手は誰だ?」


 胡桃は言いにくそうに口をモニョモニョさせてから、ポツリと呟く。


「……A組の小山田君」

「あいつ、俺らと同じ中学の時、野球部のエースじゃなかったか? 一年で早くもベンチ入りしたとか」

「だっけ。きょーみないなー」

「あいつ、滅茶苦茶モテるぞ。あの辺で妥協しとけよ」

「だって、小山田君――」


 ギリッ。胡桃の奥歯が音をたてる。


「私に告ってくるとかロリコンじゃん! ロリコンだけは勘弁なの!」


 野球部次期エース小山田君。フラれた上に、同級生に告っただけでロリコン呼ばわりとはあんまりだ。


 だがしかし。俺は胡桃を改めて眺める。

 背格好はどう見ても小学生だ。制服姿は完全にコスプレである。


 ……うん。小山田、ロリコンだな。


「諦めろ。お前がロリコンを好きになればいいだけだ」

「いやだっ! 達也は切羽詰まった感じのサラリーマンにプロポーズされたことある?! しかも電車の中で!」

「ないって。ロリコンが俺に告るとかカオス過ぎだろ」

「達也に私の気持ちなんて分かりっこないんだよ。どうせ私は合法ロリよ」


 合法ロリ、か。


 二次元界隈で生まれた言葉だ。児ポ法関連の規制を逃れるため、成人設定のキャラの見た目をロリロリにしてしまうというものだ。


 ……ん。いや、でも待って。


「お前さ。女子高生じゃん。しかも15才で結婚もできない」

「それが何だよー」

「普通に違法だぜ、違法」

「……え。じゃあ私、合法ロリじゃなくて――」

「違法ロリ、だな」

「っ!!」


 胡桃は頭を抱えて足をばたつかせる。


「うおお……私、違法ロリなのか……」

「仕方ないだろ。お前に告ってくる奴なんて全員ロリコンだぞ?」

「じゃあ、私はどうやって彼氏を作ればいいの」

「つまりお前は世界中のロリコンの中から、より良いロリコンを探して付き合うしかないわけだ」

「……なにその人生ヘルモード」


 しばらく落ち込んでいた胡桃は、むくりと起き上がると真面目な顔で俺を見る。


「ねえ……そういえば達也は私に告ったりしてこないよね?」

「……え? どういう意味だ?」


 何気に問い返すと、胡桃は顔を赤くして手をパタパタと振って見せる。


「え? いやいやいや! 私もモテの参考に、一般的男子の好みとか聞いておこうかなーって!」

「ふーん」


 ……なんで胡桃の奴、こんなにワタついてんだ。

 それはそうと俺の好み、か。


「俺はDNA狂ってんじゃないか、みたいな野放図に育った身体が好みだな」

「ははあ。あれか。犬ちゃんみたいな、わがままボディが好きなのか」


 気楽な口調とは裏腹に、ゴミでも見るような目の胡桃。なんだよ、聞かれたから答えただけなのに。


「あー、確かに犬吠埼みたいな身体が理想だな」

「達也、エロイなー。エロ大賢者だなー」


 エロ大賢者か。まあ、賢者になるのは事後だがな。


 胡桃の言う犬ちゃんこと犬吠埼景子とは、同じ一年の図書委員だ。

 金色に染めた長髪に長めのスカートがチャームポイント。控えめに言ってヤンキー女だが、身体の一部が控えめではない所が俺の好みだ。


 ドン、とカウンターを拳で叩く音がする。


「……お前ら。それ、本人の前でする話か?」


 頬をひくつかせながら、本人がゆっくりと本から顔を上げる――





読んで頂いてありがとうございます。

"★"マーク、感想、ブックマークでご支援頂ければ、震えるほど嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 想像以上に違法ロリ感が強いですね。ここまでだと子供のように振る舞っても誰も文句言いませんよね。 [一言] 最初の時点で、すでに引き取り手が主人公しかいないような気がします。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ