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KallistoDreamProject  作者: LOV
その3:共鳴しない娘、やがてすべてが一点に
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第38話

 ひとしきり強い口調で詰ってから、テティスは足元に転がっていたコンクリート塊に腰をおろし、カリストを喚び戻そうと頑張っている3人を見据えながら待機する。これがテティスなりの「充分すぎるほどの温情」とやららしい。

「もう時間がないわ。エウロパ、私は何をすればいい?」

 テティスに一喝されて我に返ったのか、平静さを取り戻したイオが先ほどのハナシの結論を促す。もう四の五の言っている余裕はない。たかだか1分で何ができるのか判らないが、カリストを救うための最後の1分間になる。だが、エウロパは思いのほか緊迫しているようには見えない。

「あなたに頼みたい作業は、実時間にすれば1秒もかからない。すぐに結果が出るわ」

「と言うことは、やっぱり同期直結するんだね」

 物分かりの良いガニメデは即座に理解する。イオは何となく判ったような判らないような表情だ。

「同期直結するのは判ったけど……具体的に何をすればカリストを救えるワケ?」

「理由は判らないけれど、さっきテティスが言ったようにカリストはハイドポートからの電源や冷媒の供給を自分で遮断しているのだと思う」

「つまり、それを“カリストの内側”から是正して、正常な状態に戻して外部電源を受け入れさせる……と。確かに1秒もかからないね」

 エウロパとガニメデの説明を受け、思いのほか簡単そうな作業内容に安心するイオ。どうしてその作業が自分にしかできないのか、また、「カリストの内側」で具体的にどのようにすれば良いのか、いくつかの疑問もあるにはあったが、もう時間もないため深い追求は避けた。

「判ったわ。やってみる」

 ひとつ大きく頷き、イオは自分のピアスコネクタを引き出した。寝ぼすけのカリストを叩き起こすのには馴れている。確かに、そういう事情なら適任は私しかいない。

 そんなイオの想いを理解しているつもりのエウロパは、勇気付けるように優しい口調で告げる。

「なんと言えばいいのか適切な表現方法がないのだけれども、“向こう”では少しは奇妙な体験をすることになるかもしれない。でも、あなたにならできる。あなたならカリストを連れて還ることができる」

「うん、僕もそう思う。ほんのちょっとの時間だろうけど、良い結果を信じて待ってるよ」

 ガニメデも精一杯にイオを激励した。エウロパにも増して妙に優しいガニメデの思わぬ言葉にイオは居心地が悪そうに笑うしかなかったが、言葉が余りにも青臭い上に、いかにも取って付けたような感があったため、ガニメデ自身も苦笑いしている。

「いや、いちばん盛り上がるシーンだろうからさ」

「……ふたりとも、とりあえず、ここまでありがとう。じゃあ行ってくるわね」

 ふたりに対して素直に会釈すると、自分のピアスコネクタをカリストのそれに接続し、イオは「カリストの内側」へ向けて、迷うことなく飛び降りた。



 僅かな感覚の途絶の後に、イオは自分が得体の知れない草原に立っていることに気が付く。星の見えない薄明るい夜空には大きな満月が昇っている。心地よい微風と草の香り。そこは先ほどエウロパが足を踏み入れた仮想空間であったが、もちろんイオは初めて訪れる場所である。だが、エウロパもそうであったように、イオもまた懐かしく居心地の良い不思議な気分を感じていた。見渡す限り薄暮の草原にただ独りでいるのにも関わらず、寂しいとか恐ろしいとか、まったくそういう気持ちにはならない。

「さっきエウロパが“奇妙な体験をするかも”って言ってたけど、こういうこと……?」

 周りを見渡してみても、ただ穏やかな風がソヨソヨと草原を撫でていくのが見えるばかりで、カリストの気配も、カリストをどうのこうのできそうな手掛かりもない。そもそも、ここが「カリストの内側」であるのかどうかさえイオには判らなかった。

「……だ、大丈夫。限界までスレッディングしてるから、たとえ何時間かかっても実時間では1秒にも満たない。ゆっくり確実にカリストの目を覚まさせる方法を探せるわっ……たぶんっ……!」

 とにかくイオは自分を奮い立たせて歩き始めた。目標物も何も無いが、とにかく前へ向かって足を踏み出す。

『……まったく何を考えているのか……イオ、あなたは本当に相当に愚かしいわ』

「ぎゃっ!?」

 突然に耳元に囁きかけてきた幼女の声にイオは思わず悲鳴を上げる。その高貴ながらも不遜な声は明らかに聞き覚えのあるもので、それがリリケラの声であることを思い出すのに時間はかからなかった。

「なっ!? あ、あんたがっ!? どうしてっ!? ここにっ!?」

 ひどく取り乱しながらイオは周囲を見回す……が、やはりエウロパがそうであったように、声の主リリケラの姿を見つけることはできない。ただ、気配というか、その存在だけは確かに感じる。

『ごきげんよう、可愛い私のイオ。こうして逢うのは久しぶりかしら?』

「ほ、ほんの小一時間前に逢ったばかりじゃないっ!? だいたい、あんたがカリストを助けに行けって……」

『あら、そうだったかしら……ここにいると、さすがの私でも時間の流れが意識から逸れてしまうようね……うふふ』

 リリケラは例の如くころころと面白そうに嗤い声を漏らした。

『そういえば、ここには以前にもエウロパが来訪してきたような気がするけど、いつのことだったかしら……?』

 リリケラは少しばかり混乱したような物言いをするが、からかわれてると感じたイオは、虚空に向かって怒りの声を上げた。

「ち、ちょっと!? あんたの悪趣味な謎掛けに付き合ってるようなヒマはないのよっ!」

 イオの反応に対してリリケラは僅かに嘆息する。

『相変わらず可愛らしくも愚かしいイオ。嘆かわしいほどに愚かしい。短慮はあなたの身を滅ぼしはしても助けることはないというのに……』

「う……」

 よくよく考えたら、リリケラは安易に侮ったり軽んじてはならない危険な存在であることを思い出し、たちどころに後悔するイオ。しかし意外にもリリケラの声は穏やかに意味深に囁く。

『とは言っても、あなたの場合は、そうとも限らないのだけれども』

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