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KallistoDreamProject  作者: LOV
その3:共鳴しない娘、やがてすべてが一点に
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第30話

――ようやく少しは自分と向き合う気になった? だけど、残念だけどもうあなたに残された時間は、そんなに多くないかもしれない。



 カリストは自分が跳躍爆雷の直撃を受けて死にかけになっていることを思い出した。だからこそ、こんな煉獄のような場所(?)で正体なく漂っているのだ。カリストを襲ったアセチレンガスの爆風は本来なら即死してもおかしくはないほどの高熱だったが、とっさに体内のヘリウムや希ガス類を爆発的に放出して多少なりともダメージを軽減することができた。つまり、室内だったということも幸いしたのだが、冷媒性能が高く熱に反応しにくい不燃性ガスで、アセチレンガスの炎を「押し返した」というワケである。のんきなようでいて機転の利くカリストらしい好判断だった。

 ただ、この判断自体は拙くはなかったのだが、運の悪いことにカリストは元から冷却性能が低く、体内の冷媒を使い切ってしまったために、結果的には死を少しだけ先延ばしにできた程度の成果しか上げられなかった。もちろん、そうしなければカリストは即座に焼け落ちてしまっていただろうから、何もしないでいるよりはマシだというのは事実だ。これに関してはカリストは自分の判断が最善のものだったと満足していた。



――それ……それが間違っているの。こんな事態になってしまったこと、それ自体が問題だとは思わない? あなたはまた後先を考えずに行動して、最悪の中で最良の選択をしたに過ぎない。自分で死地に飛び込んでおきながら、即死しなかったから良かった? そんな間の抜けた結果で満足? そんな自分に満足しているの?



 満足などできるわけがない。ならどうすれば良かったというのだろうかと、カリストは煩悶する。「声」……内なる自分が言うように、あんな投棄された掩蔽壕にノコノコ出向いたこと自体が間違いだったというのだろうか。街を歩いていて一方的にクルマに轢かれる人がいるが、それも街を歩いていたことが間違いであり、轢いた側は故意ででもない限り、まったく悪いことをしたわけではないということなのだろうか。



――あなたは本当に判っていない。そんなことが言いたいわけじゃない。あなたが自分のことを良くも知ろうとせずにいたことが間違いだったと言っているの。あなたが創られた理由、それを知っていれば……もしかしたら今のような状況を回避できたかもしれないの。



――起きてしまったことは悔いても仕方がないわ。いくらでも後悔すればいいし、後悔しなくてもいい。どちらにしても状況は何も変わらない。あなたがもっと早くに私の声に気付いてくれていれば良かったのだろうけど、それももう遅い。それを後悔しても状況は何も変わらない。結局、あなたはあなたを何ひとつ助けることができなかった。あなたの足を引っ張り、あなたの人生をメチャクチャにしたのはあなた自身……。



 「声」として聞こえる自分の内なる気持ちは衝撃的にカリストのココロを抉った。それは今まで感じたこともないほどの強い自責の念だ。あの天真爛漫で快活、およそ深刻になるということをしないカリストが自分を責め苛む。わたしはわたしを助けることができなかった。いつもわたしを助けてくれるのはイオ。わたしのために少しくらい苦労するのは何てことないと言ってくれた。何があってもわたしを裏切ったり見捨てたりしないと言ってくれた。わたしの大好きな、わたしを大好きでいてくれるイオ。でも、わたしはイオの期待に応えられないまま、このまま死んでしまうかもしれない……自分を護ることもできず大好きなヒトを裏切って死んでしまう……。

 カリストの中を悔恨の情が埋め尽くしていく。悲しみと不甲斐なさで、どうしようもない気分だった。仮に生還することができるにしても、また何度でも同じような過ちを繰り返しては、イオや、みんなに迷惑をかけてしまうだろう。いっそもうこのまま自分の意識が電子の海に融けて消えてしまわないだろうかと、カリストは少しだけ感じた。死んでしまいたいとまでは思わなかったが、自ら変わることが不可能なまま誰かに迷惑をかけながら生きていくしかなく、それをがえんじ得ないのなら、独りで山の奥深くで隠棲でもするしかないだろう。しかし、他者との繋がりを失い世界と隔別された人生に、カリストは何の意味も意義も見出すことができそうにはないのだ。



――あなたわたしは取り返しのつかない失敗をしてしまった。誰もあなたわたしを赦すことはできない。あなたわたしを赦すことができるのはわたしあなただけだけど、わたしあなたは、あなたわたしを絶対に赦さない……!!



 悲しいことに失策に気付いたときには、いつも手遅れだ。もう時間を巻き戻すことも、引き返すこともできない。自らを責め苛む「声」が、生まれて初めて感じた自己嫌悪と後悔の念だということに気付いたカリストは、なお一層、深々と自分の意識の中へ落ち込んでいく。



――わたし、このまま死んじゃうのかなっ? こんな気持ちのまま死んじゃうのかな……?



 カリストのココロは折れ、見る見るうちに冷たく凍て付いていく。もはや、いつものように根拠不明な無尽蔵に湧き出てくる健気さも前向きな気持ちも失われつつあった。

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