Happy Twosome Xmas Edition "Mondschein"
クリスマス用の特別篇です。
現在進行している本篇とは直接の関わりはありません。
クリスマスとは楽しいものである。細かな点で問題があったとしても、原則的には楽しくなくてはならない。楽しくないクリスマスは、それはもうクリスマスではないし、クリスマスを挙行しているという自覚があるのであれば、多少の不具合があろうが否が応でも楽しいと言わなければならぬ。
これは一種の子供じみた心意気だ。クリスマスを過ごす子供のマナーである。電飾で彩られた大なり小なりのツリーが飾られ、それなりのゴチソウが並べられ、プレゼントを貰える。これらはクリスマスに限って、ほぼ無償で子供に供されるものである。子供にだけ与えられたクリスマスの特権なのだ。その僅かな対価として子供はクリスマスを楽しまねばならぬ。
なので、イオは楽しいのだ。イオはカリストとふたりきりでクリスマスを過ごしている。キャンドルの向こう側でカリストは顔をテラテラさせて微笑んでいた。
カリストが丹精込めて作ったという数々の料理も、それは見た目にも豪勢で手間が掛かっていそうで、どこぞのレストランのシェフに頼んで代わりに作って貰ったのではないかと疑いたくなるような本格的なモノである。料理を苦手にしているイオにしてみれば、引け目にもなりかねないカリストの特殊技能ではあるが、その一方で、例えば骨なしのタンドリーチキン(カリストが言うには、正式には「チキンティッカ」と呼ぶらしい)などは、皿がパーティー用の紙トレーだったりするあたり、やはりカリストの仕事であると言わざるを得ない。そういう「カリストらしい落ち度」がイオを程良く和ませてくれるのだ。
「作ってから気がついたんだけど、おっきなお皿、なかったんだよねぇ」
「でも、これ、けっこう美味しいわ……初見じゃ真っ赤なチキンなんて食べる気がしなかったけど」
「えへへ~♪ まだい~っぱいあるから、好きなだけ食べるとイイよ~♪」
カリストはイオに手料理を褒められて素直に喜んだ。ボウルから蒸かしたイモを取り分けながらテレテレと笑い、モリモリ食べる。料理上手なカリストではあるが、やはり作るよりも食べる方が遙かに好きなのだ。
「イオが遊びに来てくれでもしないと、あんまし自分でゴハン作ることないからねぇ」
「あんたはゴハンよりもお菓子の方が主食だからね……」
イオが足下のゴミ箱を見れば、そこにはお菓子の空き袋や包装紙がギッシリだ。カリストはバツが悪そうに笑って、ゴミ箱から溢れそうになっているお菓子の包装紙をギウギウと押し込んだ。
「あはは~♪」
「あんたねえ……まったく……あはは」
いつも通り幼気なカリストに思わずつられて笑い声を漏らしてしまうイオだったが、ふと我に返る。
「あ! そうそう! そんなあんたにプレゼント!」
イオは数日前からに用意していた、可愛らしくラッピングされた包みを取り出し、少し無愛想な態度でカリストに差し出す。
「こっこれっ! 普通に売ってる普通のお菓子だけど……あんたって趣味が奇抜だからヘタなプレゼント用意しても不発に終わるかもしれないから、こういう実用的なモノの方がイイかなって思って」
「ウレシイ~♪ どもアリガト~♪」
カリストは目を潤ませてイオから包みを受け取り、さっそく開けてみる。中には高級チョコレートや有名店の焼き菓子などが詰め込まれていた。
「ふわあ~♪ コレってばベルリンですっごく有名なお店のマドレーヌだよねぇ♪ おいしそだねぇ♪」
「あと、会社が発給してる商品券みたいなのも入れておいたから、好きに使ってね」
食事を終えたふたりはベッドの上に並んで座って、小雪のちらつく窓の外を眺めていた。うっすらと雲に覆われた夜空は、ぼんやりと明るい。地面には少しだけ雪が積もっているが、大雪にはならなさそうだった。
「ねぇねぇ♪ イ~オ♪ わたしからもプレゼントあるんだよねぇ♪」
カリストは嬉しそうに、少しだけ真面目な顔をしながらイオを顧みる。
「なあに?」
おカネのないカリストからプレゼントを貰えるとは夢にも思っていなかった(期待していなかった)イオは率直に驚いたが、平静を装って素っ気なく応えた。カリストはテレテレと笑いながらイオの手を握り、くちびるを突き出した。
「チュウ~♪ チュッチュってしてあげる~♪」
「なっ!? バ、バカっ! ちょ、ちょっとっ!?」
いきなり抱きすがってきて、腰にしがみつくカリストを引きはがしにかかるイオ。カリストはフワフワとイイ匂いがする。
「わたしをイオにあげる~♪」
「いっ、要らないわよっ!? バカなこと言ってないで離れなさいよっ!?」
イオが藻掻いていると、唐突にカリストはしがみつくウデのチカラを弱めて、窓の外を見上げる。
「ふわあ♪ 雲が切れてお月さまが出てきたよっ♪」
イオがカリストの視線の先を辿ると、薄雲の切れ目から真っ白な三日月が顔を覗かせていた。
柔らかな12月の月の灯りが、ベッドの上のふたりを照らし続ける。