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KallistoDreamProject  作者: LOV
その3:共鳴しない娘、やがてすべてが一点に
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第25話

 イオとガニメデ、ふたりを乗せた救急車は地上へと至る最後の関門へと辿り着いたらしい。跳ね上げ式の大型シャッターの前には短機関銃を構え事務服を着た女性型アンドロイドが立ち、インカムで何か話しながら救急車の進行を制止する。事務服に短機関銃という組み合わせは実に奇妙であったが、アストラル技研らしいと言えばアストラル技研らしい。ガニメデが焦れったそうに運転席側の窓から顔を出すと、アンドロイドは何が言いたいのか理解しているような済まなさそうな顔で軽く会釈し、もう少し待つようにとゼスチュアで示した。

「何なのよ、もう! 工廠から上がってきた私らを信用してないワケっ!?」

 思わず苛立たしげな声を漏らすイオだったが、ガニメデは至って大人だ。

「さっきも言ったけど、地下へ直結で繋がっている唯一の出入り口だから警備が厳重なのは仕方ないよ。たぶん、外へ出られるタイミングを計っているんじゃないかな」

 ややしてアンドロイドは運転席側に回り、ガニメデに事情を説明する。

「お疲れさまです。いま周辺の保安を確認していますが、もうあと数十秒でシャッターを開けられると思います。出た先は我が社の支配下にある企業の地下駐車場ですが、ここから工廠へ降りられることは一般の社員も知らないことですので……」

「ああ、万事諒解してるよ」

「シャッターが開いたら、5秒以内に60km/hまで加速して駐車場内を直進、2ブロック先の信号まで減速せずに進行してください。近隣の信号機はこちらで制御してますので大丈夫です。それからサイレンを鳴らして目的地までどうぞ」

「諒解。お疲れさま」

 アンドロイドは引き続きインカムで会話しながら、いつでも発砲できる体勢でシャッターの前から脇に下がって立つ。よく見るとアンドロイドの腰の辺りにウエストポーチ状の何かが取り付けられており、イオは予備のマガジンにしては大きすぎると訝しがったが、どうやら自爆用の小型燃料気化爆弾の類であるらしかった。

「なにあれ……もし敵に突破されそうになったら自爆して自分もろとも敵を殲滅する……ってこと?」

「だろうね。途中にいた警備のアンドロイドたちも同じ装備をしてたよ」

「まったく……会社の考えることはイチイチ大袈裟よね……」

 ブツブツと文句を言いながらも、イオは待機時間を利用して助手席と運転席の間に設置されているカーナビを起動する。緊急車両なので道路混雑の心配は不要(ドイツ人は社会道徳と法規は徹底的に遵守するのだ)であるし、運転はガニメデに一任するとは言え、念のために衛星誘導で目的地までの最短ルートを割り出すツモリであった。

「……って、あんた! カリストはどこにいるのよっ!?」

「あ、そうか。こんなの使わなくても行けるけど……まあいいか。自分でセットするよ」

 瞬く間に不機嫌顔になるイオをそっちのけでガニメデはカーナビに手際よく座標を入力し、再びハンドルを握ってシャッターが開かれるのを待つ。イオがナビの画面をチラッと見ると、目的地はポツダム近郊の番外地、つまり何の使い途もない荒れ地の真ん中であった。例の如くイオは憤慨する。

「……あのバカ……またこんな人里離れた場所にひとりでっ!」

「そろそろシャッターが開くみたいだよ」

 ガニメデの声にイオが警備アンドロイドを見ると、こちらに向かって掌を突き出していた。何かと思えば指折りでカウントダウンしているのだ。4、3、2、1……。

「行くよ」

 ガニメデはアクセルを軽く煽りながらクラッチを繋ぐ。タイヤが一瞬だけ空転して甲高いスキール音を放ち、それと同時に爆発的なスピードでシャッターが開いた。



 カリストを地獄の釜の底から引き摺り出したエウロパであったが、カリストよりは遙かにマシとは言え相当に酷い熱に晒されながらの救出作業となったため、そろそろ本格的に各機関のクーリングに専念しなくてはならなくなっていた。助け出したカリスト共々クレーターの縁に倒れ込み、僅かな時間であったが身体を休める。それは本当に気休め程度のごく僅かな時間だ。

 エウロパは一呼吸入れて重い身体を起こす。少しでも外気に触れさせて冷却を図るべきだと考え、ぐったりとノビているカリストを俯せに寝かせてノースリーブのジャケットを脱がしかけたが、その懐から何かが転がり落ちたのに気がついた。何かと思って拾い上げて見れば、大切そうにグローブに包まれた金属のケースである。エウロパにはそれが何かは判らなかったが、耐熱素材で作られたグローブに護られた金属ケースは、激しい熱気にも耐えきって美しい銀色に光っている。たぶんカリストの大切な物なのだろうと思い、取り敢えずジャケットの内側にしまい込んでおくことにした。

 さらに上半身を完全に裸にしようと思いインナーウェアにも手をかけたが、そんなことを無断でやったらイオが怒るだろうと考え、あくまで背中側を捲り上げるだけにした。カリストの細い背中は有り余る熱気で空気を揺るがしていさえいる。肩胛骨辺りにある排気スリットからの排気は完全に停止しており、まったく排熱が行えていない深刻な状況だった。

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