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KallistoDreamProject  作者: LOV
その3:共鳴しない娘、やがてすべてが一点に
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第24話

 まさか救急車に乗ることになるとは微塵も考えていなかったイオは不機嫌そうに腕を組んでムッスリと佇んでいたが、ガニメデは意にも介さず整備を担当していたアンドロイドと事務的な手続きを交わす。

「急がせて申し訳ないね」

「いいえ。特に問題ありません。そのための我々ですから」

 それっぽい事務服を身にまとった名も無き女性型のアンドロイドは、ロボットらしからぬ流暢な口調と態度で応じる。本社付きのアンドロイドは特に優れたモデルが多く、機動性能と動力以外はバイオロイドにも迫る性能を持っているのだ。

 アンドロイドはガニメデの提示した従事者証を手持ちの端末でスキャンしてから、幾つかの書面にサインをするように促してきた。ガニメデがサインしている間、アンドロイドは救急車のリアゲートを示しながら言う。

「申請通りバイオロイド用の外部充電器と急速冷却装置、それに付属する備品類を積み込みました。ただ……本来は大型の装置であるところを姑息的にダウンサイジングした物なので、正直なところ安定した稼働や出力には期待できません。過負荷にも惰弱です。戦闘用バイオロイドのバニシングモータが致命的損傷を被ることは想定外でしたから……あくまで時間稼ぎ用で“無いよりはマシ”程度に考えてください。マニュアルは助手席にあります」

「ありがとう。充分だよ」

「あと、これは念のための緊急通行証と偽造の身分証です」

 ガニメデとアンドロイドの会話を他人事のように聞きながら、一刻も早くカリストを救いに行きたいイオは、焦れったそうに咳払いをひとつして救急車の助手席側に回って勝手に乗り込んだ。実際の救急車の中身がどのようになっているのかは知らなかったが、パッと見た限りはホンモノの医療器具や装置が搭載されているように思える。車両の外装も完全にベルリン内務省純正規格に則ったデザインであり、このような車両まで用意できるとは、さすがアストラル技研だと思わずにはいられないが、同時にやはり底知れない抜け目のなさを感じずにはいられなかった。

「それじゃ行こう。これ持ってて」

 手続きが済み、運転席に座ったガニメデは通行証だのを助手席のイオに手渡し、救急車のリニアエンジンを始動させた。僅かな振動音と共に各計器に明かりが点る。それを合図に前方のシャッターが開き、ベルリンの市街へと続くのであろう緩いスロープが現れた。ガニメデは見送るアンドロイドに軽く挙手で礼を送ってから洗練された運転技術で救急車を発進させ、長く緩やかな地下通路へ進める。

「これってどこに出るの?」

「エルンスト・ロイター広場とビスマルク通りの辺りらしいよ。あそこにウチの会社の関連企業の資材庫があるから、たぶん、そこの地下駐車場にでも繋がってるんじゃないかな」

 やたらと明るい照明に照らされたコンクリート打ちっ放しの車路は延々と続く。当然のことながらまったく人間の気配はしないのだが、数10メートル毎に衛所があり(ご苦労なことだが)武装した警備のアンドロイドたちが詰めていた。通り過ぎるたびに手まで振ってくれる。

「ずいぶんと厳重警戒ね……どこのSFに出てくる施設なのよ……」

「僕もこの通路から外に出るのは初めてなんだけど……会社の正面からならともかく、地下の工廠に直結している裏口からの侵入を許したら何かと面倒だからじゃないかな? 君も知っての通り、会社に敵対する勢力は強大で手段を選ぶような連中じゃないからね」

「前から思ってたんだけど、もしかして会社って動物園ティーアガルテンの地下にあるんじゃない?」

「うん、たぶんそう思う。そういえば、バッハ通りにあるケーキ屋さん知ってる? シフォンケーキ屋さん」

「んん? 何だっけ……ブルーターメイヤー何とかっていうお菓子屋さん? 前にカリストと一緒に行ったところかも」

「そうそう! あそこのケーキ美味しいよね」

「うん、まあまあ美味しかった気がする」

 と、ここまでお喋りしてイオは少しムッとする。カリストが瀕死で助けを待っているはずなのに、なぜにガニメデと楽しくケーキ屋のハナシをしているのか、この状況と自分自身にハラが立ってきた。

 しかし、そんな都合はともかくとして今はガニメデと意思疎通を図っておくべきだとも感じていた。要は仲良くするということだ。ガニメデは決して親しい存在ではなかったが、少なくとも敵ではないはずなのだから、依然として気に食わないところがあるけれども、多少のことには目を瞑って信頼を深めておいた方が後々も何かと便利だろう。これまでのヴァレンタインとのやりとりが少なからずイオを成長させていたのだが、こういうとき、何の打算も駆け引きもなく、誰とでも容易に打ち解けることができるカリストの脳天気さがイオは羨ましい。

「……あんたはケーキとか好きなの?」

「まあね。……どうせ誘ったって一緒に行ってはくれないだろうけど」

「よく判ってるじゃない」

 さすがに突っぱねるイオに肩を竦めて苦笑いするガニメデ。ふたりを乗せた救急車は幾つかのシャッターゲートをくぐり、短いエレベータに乗り、表層に近付いていく。

「イオってば、救急車に乗ったり、ガニメデとお喋りとかして、羨ましいなぁ♪」

『だっ、誰が好きこのんで! だいたい、こうなったのも誰のせいだと思ってるのよっ!?』

「あはは~♪ でもこのあと、きっとわたしも救急車に乗れるんだよねぇ?」

『さあ? 死体袋に入れられて、かもしれないわね(そんなの私の命に代えても阻止するけどっ!)』

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