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KallistoDreamProject  作者: LOV
その3:共鳴しない娘、やがてすべてが一点に
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第22話

 イオが社内で配属されている部署は「技術統括部渉外対策室」と称呼されている。表だっては、企業や省庁などにリースしているアンドロイドの技術的なサポートや苦情要望処理を行う、いわゆるコールセンターということになっている。在籍しているからにはイオも顧客からの問い合わせに対応したり、事務作業をしたりすることもあるが、そういう仕事は他のアンドロイドたちがしており、実質的にイオはカリストのサポートのみを専属で行っていた。

 この「技術統括部渉外対策室」にはイオ以外に数名のバイオロイドが在籍しているらしいのだが、それぞれが勝手に接触しないようにセクション分けされて、社内の幾つかの場所に分散して配置されている。なぜ勝手に接触してはいけないのかは判らないのだが、結果的にイオはエウロパやガニメデに会ったことがないどころか、その存在すら関知できていなかったので、会社の思惑通りになっていると言えた。

 それはともかく、イオが会社で直接にまみえることのできるバイオロイドは、上司であり室長のディオネだけである。そのディオネにしても、特に要件がない限りは直接に会うこともない。


 リリケラにカリストの危機を知らされ、取り急ぎ会社に戻ったイオはダメ元でカリストのMT宛に通信してみたが、音信不通だ。元からカリストはMTを持って歩くことをしないということもあり、外出しているのは間違いないだろう。

 また、案の定というか何というか、セクションには何の報せも入っていない。カリストの事柄に関しては建前上はイオに一任されているので、同じセクションで働いている他のアンドロイドたちに訊いてはみたが本当に何も判らないようであった。

 しかし、悔しいことにイオはリリケラを疑う気にはならないのだ。その点ではイオはリリケラのことを信用している……自分たちを辱め、弄んだ、得体の知れない厭らしい存在ではあったが、嫌がらせや策謀でウソを言うようには思えなかったのである。

「時間がないわ……仕方ない」

 イオはセクションルームの奥、ディオネが陣取っている室長室に向かった。ディオネはイオらと違って、もう少し大人びた成人女性の態をしているのだが、イオはディオネを苦手にしていた。というのも、それは同胞愛が堅固なバイオロイドの特性に起因することなのだが……。


「ねえ、ディオネ、入るわよ?」

 イオが返事を待たずに室長室のドアを開けると、真ん中に置かれたデスクの向こう側でディオネが悠々とイスに座っていた。イオたちよりも半回りほど年上(ディオネは詳細を明言しない)で、プロポーションも非常にメリハリが付いているディオネは、少女じみた学生制服のような内勤服ではなくて、軍の女性士官服のような少しカッチリした制服を着ているのだが、スーツもブラウスも胸元を大きく開けて着崩しており、スカートも明らかに必要以上にタイトなものを着用していた。見れば見る度にイオはゲッソリした気分になるのだが、故意にサイズの小さいブラウスに押し込まれているディオネのムネは半分くらい露出しており、どこかちょっとおかしいのではないかとさえ思えてくる。要は、かなりアダルトな(そしてステレオタイプな)女性上司然とした風貌なのだ。

「あら? あんたの方から顔を出すなんて珍しいわね?」

 フンワリと巻いたロングヘアの毛先を退屈そうに弄っていたディオネだったが、そのハデな見た目に反してイオの到来に案外と朗らかな表情で応えた。イオは半ば呆れ気味に、半ば怪訝そうに言う。

「うん、相変わらずね……その恥ずかしいカッコやめたら?」

「あはは。服装くらい好きにさせてよ。あんた、よっぽど羨ましいみたいね」

 サバサバとした笑顔でディオネは過剰に巨大な自分のムネを誇らしげに突き出してみせる。わざわざ言われるまでもなくイオは羨ましい。いちおうは同じバイオロイドなのに、戦闘用と汎用の違いというだけで、こうもプロポーションに差が付けられるとはガッカリである。

「で、何か用があるんでしょう?」

「あっ! ねえ! カリストに関して何か上から報告は入ってないっ!?」

 たちどころに現実に引き戻されたイオは、デスク越しのディオネに食ってかかる。その剣幕に怯む様子もなく、ディオネは冷静に応じた。

「漠然としていて意味が判らないわ」

「ん……情報の出どころは言えないんだけど、今、カリストが何かトラブルに巻き込まれているらしいのよっ!」

「……心身に危険が迫るような?」

「たぶん」

「それは大変」

 ディオネは手元の端末を引き寄せてピアスコネクタを接続し、カリストに関する事象を調べ始める。それなりの権限を持たされているディオネは、イオらが知り得ない会社の情報にアクセスすることが許されているのだ。もっとも、それもかなり制限されたものなのだが……。

「ちょっと待ってね。バックドアをこじ開けてるから……あ~セキュリティキーが書き換えられてるわ……鬱陶しい! このっこのっ!」

 ディオネは楽しそうに端末を操作しているが、どうやら会社のホストをクラックしているらしい。

「ええっと……テトラナッチ数列の30番目を知ってる?」

「たぶん14564533」

「日本にいるというズンドウの幻の珍蛇の名前は?」

「ツチノコ!」

「今から私とエッチしない?」

「しっ、しないわよっ! じょ、冗談言ってる場合じゃないのよっ!?」

 だからイオはディオネに会いたくなかったのだ。

「まったく真面目なんだから……よし、っと」

 アダルトといえばアダルトだが、やはりディオネはハデな外見の割には少し子供じみたところがあるようで、顔を真っ赤にしているイオに満足そうな笑顔を浮かべてから、急に口調を改めて端末のモニタを見せた。

「これはバイオロイドのリアルタイムモニタリング。現状のカリストの置かれている状況は判らないけど、見ての通り、5分くらい前から出力が半分以下にまで落ちてるわね……」

「ど、どうしてっ!?」

 イオは目を剥いてモニタを見入る。そこにはカリストの現在の稼働状況が漠然と記されているのだが、それらの数値は明らかに通常では有り得ないものであった。

「この出力曲線を見る限り、4本あるシリンダのうち2本は止まっているか、ほとんど機能していないようね。あと、出力が急激に低下するのより一瞬だけ先に、体内に貯留してあったヘリウム・窒素・アルゴン・ネオン、すべてを放出しきっているわ」

「それって……」

 愕然としているイオにディオネの表情も渋い。

「カリストの冷却性能の低さは以前から懸案事項だったけど、ここまで出力が落ちてしまったら、組成抽出炉を稼働させて冷却触媒用元素を抽出・再充填するのは非現実的……ただ、ハッキリ言えることは、このままだとカリストはバニシングモータ全基が自壊するか、内熱で内側から燃え尽きるわ……」



「そゆえば、ディオネってば前に名前だけ出てたよねえ?」

『ずっと昔にね……いちおう私の上司ってことになるわね』

「ちょと珍しいオネーサンキャラなんだねぇ♪ おムネおっきいんだねぇ♪」

『見ての通り、頼りになると言えば頼りになるんだけどね……何というか……』

「イオってばモテモテなんだねぇ♪ わたしもイオとチュッチュってしたいなぁ♪」

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