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KallistoDreamProject  作者: LOV
その3:共鳴しない娘、やがてすべてが一点に
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第19話

「あと……もうひとつだけ教えてほしいことがあるんだけど……」

 いつの間にか無意識に懐中からタバコの箱を取り出していたヴァレンタインの手から、素早くそれを奪い取り自分の制服のポケットに突っ込んで、苦渋の表情を浮かべているヴァレンタインに構わずイオはハナシを続ける。

「この前の、あのコ……なんていったっけ? あ、そう、リリケラ? あのコって何なの? あんたの仲間? 敵ってワケじゃなさそうだったけど」

「ああー……まだ憶えてたんだ?」

 今までとは打って変わって、露骨に嫌そうな顔をするヴァレンタイン。詳細を語ることが面倒だとか秘密にしておきたいとかいうわけではなく、どうにもリリケラの話題に触れること自体が忌々しそうであった。とは言え、こうもハッキリとイオに訊ねられてしまっては、さすがに適当に受け流すこともできない。

「うーん……あのコは、何というか……うーん……」

 渋るヴァレンタインにイオは人差し指を立てる。

「じゃあ要点だけ訊くわ。要点1、あんたはリリケラに対して……そ、その……男性として潔白?」

 こんなことを訊いてどうするのだと、イオは愚かなことを気にしている自分に違和感を覚える。だが、変態だ変態だと嘲罵してはいたが、やはりヴァレンタインには「マトモな男」であってほしいのだ。

「そりゃもちろん。あのコは周りから構ってほしくて虚言する貴族令嬢みたいなもんだよ。だいたい中身は“あんなふう”だけど、見た目が幼すぎる。どう考えても倫理的に問題があるし、オレにだって選ぶ権利はあるし、君が思っているよりもオレはずっとマトモな男だからね」

「……ふうん……ずいぶんと立て板に水な回答ね。とりあえず信じるわ」

 空々しい口調と視線でヴァレンタインの答えに応じるイオであったが、内心ではホッとする。あの一件以来、当然リリケラの素性は気にはなっていたが、これが一番の心配事だったのだ。

「じゃ次ね。要点2、あのコはバイオロイド? アストラル技研製の?」

「ああ。そういうことになるね。君たちとは少し違った部分も多いけど、分類上はバイオロイドだ」

 これは言われるまでもなく真実だろう。リリケラが凄まじい身体能力というか性能を発揮するのを、イオも眼前で確認しているし、何よりリリケラの得体の知れない「抑制」を身を以て受け、よりにもよって最愛の人の前で、恐ろしい痴態を晒されかけた……。

「あぎゃっ!?」

「あー、イヤな思い出がフラッシュバック……」

 手足を振り振り顔を真っ赤にして恥ずかしい記憶を振り払おうとするイオに、さもありなん、と、頷くヴァレンタイン。ひとしきりイオは身悶えしてから立ち直る。

「うう……よ、要点3、そ、それで、つまりはリリケラは敵じゃないって考えてもイイのよね?」

「うーん、ああ、まあ……味方ってワケでもないとは思うけど……君らに害を及ぼさないってワケでもなし……オレのクチからは何とも言いにくいな……」

 結局はヴァレンタインはすべてを話す気にはならないようだった。敵でもなければ味方でもない……確かに先の一件でのリリケラの態度、と言うか、カリストやイオに対する姿勢は、どう好意的に解釈しても決して愉快なものではなかった(実際のトコロは、すべてが完璧に不愉快だったワケでもないのだが、それをイオは認めるわけにはいかないのだ)。ただハッキリしているのはリリケラは一撃でイオやカリストの「魂」に触れ、融かし、浸蝕してきたのだ。ほんの一瞬だったとは言え、イオはカラダもココロも完全にリリケラに支配さたのである。果たして、そんな芸当が並のバイオロイドに可能なのだろうか……。

「まさか、また襲いに来るなんてことないわよね?」

「さあ……あのコはああ見えて意外と深謀遠慮なトコロがあるから、何を考えてるかよく判らない……一応は釘は刺しておいたけど、どうだか」

 ヴァレンタインの口ぶりからすれば、明らかに手に余しているという風であった。

「最後ね。要点4、あのコは何を企んでるの? 何か目的があって姿を現したんでしょ?」

「それは……なんだ……なんと言えばいいのか……」

 と、ヴァレンタインはそこまで話して急にギョッとしたような顔をして絶句してしまった。その視線はイオの肩越しの向こう側に向けられている。

「え? なに?」

 思わず振り向こうとしたイオであったが、誰かが自分の背後に立って肩に手を載せるのを感じた。

「振り向く必要はないわ……ごきげんよう、私の可愛いイオ」

 聞き覚えのある鈴のように玲瓏な、氷の剣のように冷たい声。それはリリケラの声だ。

「でも、お茶請け代わりに他人様のウワサ話をするのは感心できないわ……ほら、ウワサをすれば何とやら……と言うでしょう? うふふ」

 イオは恐ろしくて振り向く気にはならなかった。こんな人通りの多いところで何かされるとは思わなかったが、もう本能的にリリケラに懼れを感じるようになってしまっているのだ。それを感じ取ったのかリリケラはころころとわらっている。

「あら? 華奢な肩が強張っているわ……肩こりかしら? ムネは小さいのに?」

「あ、あんただって……」

 ボソボソとした口調で強がってはみたが、ヒザが震える。見かねたヴァレンタインが思わず制した。

「……やめるんだリリケラ」

「うふふ……私が私の人形オモチャで遊ぶのが、そんなにいけないことかしら?」

 リリケラは面白そうに笑い声を漏らすと、ようやくイオの肩から手を退けた。

「だいたい、こんな人前に何をしに来たんだ? また嫌がらせかい?」

「さあ、どうかしら? 私は今日はイオに大事なオハナシを持ってきてあげたのだけれど?」

 それから唐突にリリケラはイオを後ろから抱くように手を回し、その耳元に顔を近付ける。

「ちょ……何を……!?」

 吐息のくすぐったさと嫌悪している相手に抱かれたという事実に二重の意味で寒気を覚えるイオであったが、ただ、なぜか不覚にも少しだけ安心感を覚えてしまった。それを知ってか知らずか、リリケラは悪戯っぽく含み笑いする。

「うふふ……ねえ、イオ。あなたの懸想の人が窮地に立たされているみたい……こんな場所で愚かしいウワサ話に興じている時間があるなら、早く助けに行ってあげてはどうかしら?」

「ええっ!? まさかカリストがっ!?」

 自分に回されていたリリケラの細い腕を振り払い、振り返って睨み付けるイオ。リリケラは相変わらずメイド服など着ていて、こんな街の中では浮いた存在に思えたが、よくよく考えたらベルリンには奇矯奇抜なファッションセンスの持ち主が多いため、そこまで違和感は感じられないのだ(今もなおドイツはゴシックファッションやゴスロリの中心地である)。リリケラは例によって例の如く、気品ある幼い顔立ちに傲岸かつ加虐的な微笑みを浮かべて真っ向からイオの瞳の中を覗き込んでいる。

「そう。事情は……今さっきヴァレンタインが伝えた通り。私の可愛いイオ、逡巡している時間はないわ……早く向かった方が良いのではないかしら?」

「……お、お礼なんか言わないわ」

 言われるまでもない。イオはヴァレンタインに軽く頷いて見せてから急いで立ち上がった。



「すっごく久しぶりにリリケラちゃんが出てきたねえ♪」

『ホントに久しぶりよね……物語の中ではたいして時間は経ってないけど、アホ作者の時間だと1年以上ぶり……』

「わたしも何ヶ月かくらい出てないねえ♪」

『……ホント、あんたは気楽よねえ……』

「えへへ~♪ だってこのオハナシのヒロインだも~♪」

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