設定など(カリストについて) ※ややネタバレ含む注意
本篇中で詳細に説明できていない設定などを載せています。
随時、項目など加筆していく予定です。
基本的には、ある程度読み進めて頂いたことを前提に書いています。
過度のネタバラしはありませんが、本篇中では伏せられている事柄や裏設定なども含まれるかと思いますので、興が削がれるという方は見ないのが良いかと思われます。
・カリスト
アストラル技研で創られたバイオロイド。型式は「XX47cz-EgII-S」。正式な呼称は「カリスト・イョフィエル・ウルサマヨル・フォン・アストラル」。「カリスト」は木星の衛星、「イョフィエル」はエデンの園の東に立ち警備をしているとされる智天使、「ウルサマヨル」はラテン語での大熊座に、それぞれ由来している。
公式には実用バイオロイドの第一号機ということになっているが、実際には「最初に設計された」という程度に過ぎず、イオやエウロパらの方が僅かに先行して完成している。また、社外で暮らしているカリストは各機関の更新が滞っているため、戦闘用バイオロイドとしての性能の陳腐化が進んでおり、身体能力に限っては一部の後発のアンドロイドにも劣る部分がある。
身長136cm、体重34kg。設定されている年齢は16歳だが、その幼い言動とも相まって外見上は12歳前後に見られがちである。背が低いことや子供扱いされることに関して、カリスト自身は「みんなに優しくしてもらえるから」という理由で特に気にしてはいない。ただし、ムネが平板なままで大きくなる見込みがないということに関してのみ、多少は残念に思っている。幼児体型気味なのでズンドウではあるが、意外と立派な骨盤の持ち主であるため、華奢な体格の割にお尻が大きい。股下も長いため、スタイル自体は(子供の割には)非常に良い。また、カリストは自分が幼稚な外見と性格だということを理解した上で、それでもやはり自身を16歳だと考えている。
設定上は左利きで、日常生活では「字を書く」「投げる」「打つ」「構える」などが左利きとなるが、「ナイフとフォーク(一応ハシも)」「ギターを弾く」は右利きである(カリストはギターを弾くことはできないが、イオに初めてギターを持たされた際に右構えだったため)。リミッタが外れた際には両手とも等しく使うことができるが、やはり左利きが基本となっている。
髪色は明るいプラチナブロンド(トウヘッド)で一般的な金髪よりも銀髪に近い。カリストの頭髪は背中までの長さであるが、毛先がすべて外側に跳ね上がっているため普段は短く見える。寝るとき以外は常に黒いヘアバンドを付けているが、これは手作りでいつどこで手に入れたのかすら判らないヘアバンドであるにも関わらず、カリストは相当に愛着を持って大切に使っている。瞳はコバルトブルーで深く明るい印象的な色合いである。顔立ちのモデリングと設定上の血統として、スラヴ系ゲルマン人と1/32がラテン系の血統ということになっている。なお、ほとんど意味はないが、国民IDの表記では血液型はO型で登録されている。
普段はオフブラックのノースリーブのウェアとスパッツを身に付け、その上にノースリーブの戦闘用ジャケットを着ている。いずれも強靱な特殊素材で作られたもので、防刃防弾性能に優れ、熱や薬品にも強い。本篇中でも本人が言及しているように、カリストは下着を着けるという習慣(常識)がないため、これらを素肌の上に直接に着ている。ほか、やはり特殊素材で作られた合皮のグローブと編み上げブーツを身に付ける。ソックスだけは市販品の黒いソックスを履いている。これ以外に私服と呼べるような服は持っておらず、せいぜい替えのウェアとスパッツ、ソックスが何組かあるくらいである。
イオから貰ったアストラル技研の内勤制服はイオに会うときに着ることが多い(本来、社外にいるカリストが身に付けること自体、推奨されることではない)。スカートを極端に短く詰めてしまったため、容易に下着が見えることを危惧したイオの勧めにより、スカートの下にはスパッツを穿くようにしている。
一応は戦闘用バイオロイドとして創られているが、攻撃意識や戦闘意欲が極端に低いため、戦闘行為にはまったく期待できない。戦闘用バイオロイドなので左腕には近接戦闘用のブレードが仕込まれており、自分の意志で展開させることができる(カリストは内なる欲求に抗えず一度だけブレードをイモの皮むきに使ったことがある)。
戦闘意欲こそ低いものの、各種の兵器や兵装に関する知識(その多くは趣味の領域である)は豊富で、大抵の銃器や火器の扱いに長けている。戦闘心理学や戦略・戦術的な方面にも詳しく、参謀や指揮官的なポジションならば務まるかもしれない(そのような局面が訪れることは皆無であろうが)。
戦闘用バイオロイドとしては失格同然であるが、感受性が豊かで親和力に富む、順応力が高く機転が利く、思いやりが深く素直で朗らか、のんきで前向き、精神的に打たれ強くストレスに極めて強いなど、人間性という点ではバイオロイドの中でも群を抜いており、ある種のカリスマ性を持つ。その反面、猜疑心や警戒心が希薄な上に極度のお人好しということもあって、損得勘定やリスクを回避する意識が致命的なまでに低い。また、他者に対するのと同じくらい自分にも優しく、自堕落で快楽の誘惑に惰弱な部分もある。親和力や道徳心が高いため目立った欠点とはなっていないが、やや自意識が強い面もあり、こと自分の容姿に関しては根拠不明な自信を持っている一方で、自分のことをとてもアタマが悪いとも思っている。
好奇心が強く、興味を惹かれる物事に関しては非常に積極的に取り組むが、そうでない物事に関しては実に無頓着。自堕落ではあるが自分で決めたことに対してはムリのない範囲で貫徹しようとする傾向が強い。気の進まない物事に関して頭ごなしに強要や強制されることを嫌っており、消極的ながら遠回しにでも拒絶し、従おうとはしない。ただしイオなど信頼できる人物からの提言や提案に対しては何でも鵜呑みにすることが多い。
周りからの評価や外聞を気にすることは少なく、他者に迷惑を及ぼさない範囲内で自分の思うように生きたいと願っている。また前述のように好奇心が強いということもあり、他人からすればどうでもいいようなことに興味を持ったり没頭しがちであり(ツチノコ探しやカエルの観察など)、それに対して侮蔑や偏見の目で見られてもまったく気にしない。反面、妙なことに恥じらいを感じることも多い。
明らかに同性愛志向が強く、男性に対しては敬愛や憧憬の情は抱いても恋愛感情を持つことはない。同世代の可愛らしい少女に惹かれやすいが、目下のところ強く愛情を向けるのはイオだけであり、決して気が多いというわけではない。また、カリストの場合、恋愛感情と言うよりも極度に強い愛着心であり、それが果たして恋愛感情と呼べるのかどうかすら怪しいものである。ただし、恋愛対象(この場合イオ)に対しては再三にわたってキスやハグを提言するなど、過度にスキンシップを求めたがる傾向にある。
カリストはリミッタの有無に関わらず幾つかの特異な才能を持つ。その大半は決して有意とは言えないようなものばかりであるが、先の緊急救命などが最たるものであろう。
医療全般に通じているわけではないが、カリストは緊急医療に詳しく、緊急時には適切な医療活動を行うことができる。また、緊急医療に限らず、野外活動全般の知識と実践力に長けている。リミッタがかかっている状態でも高標高登山や極地活動に極めて高い適正があり、天候や野草や野生生物の知識もある。つまり非常に高いサバイバル能力を持っている。バイオロイドなのでサバイバル知識など無くても野垂れ死になどするわけがないのだが、災害や戦争などの非常時には適切に人間を指導し、引率することが可能というわけであるし、一応はカリストにもその気概はある。カリストが緊急医療キットやアーミーナイフを常時携帯しているのは、こういう事情による。
自堕落ではあるが決してだらしがないというわけではなく、家事全般を得意にしている。掃除や炊事などは実に手際よく行えるし、その方法も効率的で適切である。自炊することは多くはない(カリストの主食はもっぱらお菓子である)が、自室の整頓や掃除は日々欠かすことはなく、部屋は常に良く片付いている。手先も器用で、機械をいじったり模型を作るのが巧く、愛車の原付バイクもほとんど自作同然である。ただし、なぜかMTなどの情報端末の操作は苦手としている。
総じて知識量は豊かで、広範囲に及んでいる。主言語のドイツ語は当然だが、リミッタがかかっている状態でも英語・イタリア語・オランダ語・スペイン語・フランス語・ロシア語・ラテン語・日本語を、かなり拙いものではあるが初等教育程度になら読み書き会話することが可能である(日本語は平仮名や片仮名が理解できる程度)。意外と知識欲が強いため、気になったことや興味を感じたことは納得がいくまで調べたり実験したりする。本で得た知識だけで小型のロケットモーターを作り手製ロケットを翔ばしたり(リフトオフの直後に爆散したが)、ジュースから密造酒を造ったりと、思いついたら行動する実践力を発揮することもある。
多岐にわたる限定的な趣味を数多く持っているが、その最たるものは「ツチノコ探し」であろうか。ツチノコに限らず多くの爬虫類や両生類、虫や珍しい草花などを好んで探しては観察している。実在の疑わしいツチノコは別にして、小鳥、カエル、毛虫、マリモ、ドングリなどを特に愛している。ほか、読書や映画鑑賞、模型造り、昼寝、イオとのお喋りなどを趣味にしている。
最も不得手としていることはスポーツ全般で、いわゆる「運動音痴」である。リミッタが掛かっている状態だと身体能力も極めて貧弱で、同世代の人間の少女と比較しても群を抜いて劣っている。特に水泳はまったくダメで、浅瀬でも容易に溺れてしまう(水が怖いというわけではない)。ただし、伸びやかな四肢や立ち振る舞いは至って健康的であり、子供らしい溌剌とした元気に満ちている。
衣服類の他に常に携帯している物品として、「ドイツ連邦国民IDカード」「ビクトリノックスのアーミーナイフ」「簡易医療キット」「赤十字社の旗と腕章」「アストラル技研の従事者証」などがある。
「ドイツ連邦国民IDカード」は、この時代のドイツ人ならば誰でも携帯する身分証であり、各種の免許やパスポートとしての機能も内包している。カリストはバイオロイドであるため、「世を忍ぶ仮の姿」としてアストラル技研によって「カリスト・グロスベイア」という偽名で登録されている。年齢などに関しては年を越す度に偽装し続けることになるが、これに関しては会社が政府の管理ホストコンピュータに侵入して年次ごとに改竄することになっている。カリストは自動車、二輪車、大型特殊、なぜか牽引とクレーンの免許を持っている。実際に問題なく操縦を行うこともできる。
「ビクトリノックスのアーミーナイフ」であるが、いわゆる「十徳ナイフ」のことである。ビクトリノックス社製の91mmトラベラーライトモデルを、ジャケットのベルトループに付いているポーチに入れて常に携帯している。通常の各種ツールの他にLEDライトや時計、気圧計、温度計などを内蔵しており非常に便利なナイフであるが、自室に帰れば立派な工具セットがあるため、実際のトコロはあまり使い途はない。また、リミッタが外れれば暗視したり周囲の環境を計測することも可能なので、ますます使い途は限られる。イオからのプレゼントで、一種の「お守り」である。
「簡易医療キット」は、軍隊などで兵士が携帯している類のサバイバルキットである。ガーゼや包帯、多少の医薬品、メスキット、鉗子、縫合キット、注射器、消毒薬と麻酔などが、アルミケースに入れられている。実際にカリストはこれを用いて人命救助に成功しているが、イオも言うように本来ならば推奨されるようなことではない。ただし、簡易医療キットをカリストに携帯させているのは会社の意向である。また、カリストは緊急救命活動に関して相応の知識を持ち合わせているのも事実である。このキットもベルトのポーチに入れている。
「赤十字社の旗と腕章」であるが、なぜかカリストはこれらを携帯している。カリストは正式に赤十字社員として登録されている(「カリスト・グロスベイア」としてではなく、「バイオロイドのカリスト」としてである)のだが、それがイコール医療従事者だということにはならない。また、みだりに赤十字章を使用することも国際法で禁じられている。ただし、戦時下などの緊急時に怪我人の避難場所を示したり非戦闘員であることのアピールには使用できるであろう。
「アストラル技研の従事者証」は、「バイオロイドとしてのカリスト」の身分証であり、これを示せばベルリンのアストラル技研本社はもちろん、各国・各都市の支店で無償でサポートを受けることが可能になっている。会社でのバイオロイドの身分は非常に高く、人間の役員並みの待遇であるが、就いている職務を超える権限は持たされてはいない。当然のことであるが社外にいるカリストは「お客様」同然であり、アストラル技研本社に赴いた場合は下にも置かない接待を受けることはできるが、社内を我が物顔で闊歩できるというわけではない。バイオロイドであることは原則的に秘匿されているため、カリストの持つ会社の従事者証はスーパーマーケットの会員証のように擬装されている。また、バイオロイドやアンドロイドは瞳の奥のセンサ配列のパターン識別で最終的に個体を特定するため、従事者証を紛失などしても特に緊急の問題にはならない。
バイオロイドは基本的に信仰を持っておらず、特定の宗教を信仰するようには創られてはいない。ただし、ドイツはキリスト教圏(主にプロテスタント)だということもあり、強いて言うならばキリスト教の影響を最も強く受けており、バイオロイドの中には実際にプロテスタントの者もいる。カリストは何も信仰してはいないが、それなりの宗教的な知識と独自に構築した宗教観は持っており、いわゆるみんなが「神」と呼ぶ思念体なり意識体は存在していないものの、何か世界を緩やかに制御している不思議な「摂理」のようなものはあると考えているようで、どちらかというと道教や神道的な宗教観を持つ汎神論者である。また、バイオロイドは総じて自分には「タマシイのようなもの」があると感じており、そのためかカリストもオカルトや霊的な存在は信じる傾向にある。
政治思想的には本篇中にもあるように、やや右傾化した愛国者である。とは言っても、ゲルマン民族とドイツ連邦に愛着と敬意を持っているだけで、他国よりも優れているとか他民族を排斥するべきだなどという思想は微塵も持ってはいない。むしろ、互いが互いを助け合い、誰もが等しく幸福な生活ができる世の中になることを願っているなど、空想的社会主義のような考えを持っているとも言える。ただし、その実現が非常に困難であることも理解はしているようだ。