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KallistoDreamProject  作者: LOV
その3:共鳴しない娘、やがてすべてが一点に
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第12話

 自分の身長よりも高い草木をかき分けながら、カリストは藪の中を注意深く探索し始める。

「……すっごく昔に戦争やホロコーストがあったのは残念だけど、戦車や戦闘機は、なあんにも悪くないもんねぇ……」

 道義心の高いカリストではあったが、そんなカリストをしても過去の悲惨な戦争は「遠い歴史の一部」でしかない。と言うか、戦争や歴史への無関心というよりも、カリストの場合は兵器に対する偏愛心が強いだけなのだ。その出自が出自なので緩く右傾化した(というか親ナチス的思想の)愛国者ではあるが、その根幹にあるのもナチス及びドイツ連邦が生み出した様々な兵器が好きだということに由来する部分が大きい。今でもカリストの中では史上最強の戦車はケーニヒスティーガー(ティーガーII)であり、レオパルトIIである。

「戦争資料館で調べたけど、ココってば、III号突撃砲B型の主砲(えと、つまり24口径7.5cmStuK37かなっ?)の試射をしてた場所だったみたいなんだよね~♪」

 足下に何か円筒状の金物が落ちていることに気付き、よもや砲弾の薬莢かと喜んだりもしたが、案の定というか錆びたニシンの缶詰の空き缶だったりする。しかし、諸事に飽きっぽくても自分の趣味には異様なまでの忍耐強さを発揮するカリスト、この程度ではへこたれない。

「なんかありそうなんだけどなぁ……」

 拾った棒きれで地面を突きながら(こんなことをして何が判るというのだろうか?)藪の中を右往左往するカリスト。一見すると無為に思える行動であるが、やはり無為としか思えない。しかし、ややしてカリストは棒きれの先に何かを感じ取った。

「んう……?」

 不審に思って地面を何度か強く突いてみると、ゴーンゴーンと、こもったような低い金属音がする。

「なんだろ~?」

 棒きれで小突くのをやめ、今度は自分の足で何度か地面を踏みつけてみたが、やはり足下に金属の板と空気の振動を感じた。どうやら地中に何らかの空間があるようだ。

「これってば……!?」

 カリストが想像するに、それは地下壕へ降りる出入り口を覆う鉄蓋ということになった。カリストはパッと顔を輝かせて、ウサギのように地面を掻き始める。

「もしかしてヒミツの入り口とかかなっ!?」

 確かに、第二次世界大戦から200年余ばかり経過した現在もなお、時々であるが、ナチスや国防軍、あるいは赤軍やチェコ軍の施設や装備がドイツ国内外で発見されることがあった。先だっては北海の海底からUボートがサルベージされたほどだ(カリストは引き揚げられたUボートを曳航先のノルデンまでバイクに乗って見に行こうとしたが、途中でバイクの調子が悪くなったため泣く泣く帰ってきた)。

 なのでカリストが期待するのもムリはない。果たせるかな、カリストが地面を掻いていると錆びて朽ちかかった、しかしそれでもなお頑強そうな鉄蓋に掘り当たった。恐らく約200年前に閉ざされて以来、一度たりとも開かれていない「歴史の扉」だ。

「すっご~い♪ ジークハイル♪ ジークハイル♪」

 カリストは歓喜して鉄蓋の上でボンボンと景気よく飛び跳ねる。

「ジークハイル~♪」

 そして、そのままカリストは錆びて脆くなっていた鉄蓋を突き抜けて階下に落下したのだった。


「ふわあ!?」

 地下に落ちたカリストは思いっきり尻モチを着いた。それほど深い地下壕ではなく、カリストの身長をもってしても這い上がれるほどで、立ち上がると天井にアタマが付くだろう。内壁はコンクリートで塗り固められていたが、今やヒビ割れや漏水による風化が進み、草木の根がブラブラと垂れ下がっている有様だ。

「んう~?」

 おシリをさすりながら中腰で立ち周囲を見てみると、自分が落ちてきた穴とは反対側の方に大きな開口部があって、そこから太陽の光が燦々と差し込んでいるのだった。どうやら地下壕ではなく、単なるトーチカの類だったらしい。

 何よりカリストをガッカリさせたのは、トーチカ内に空き缶や空き瓶、Mのマークで有名なファストフードのラッピング、お菓子の紙袋、ポルノ雑誌、競馬新聞、焚き火の跡、その他諸々のゴミが散乱していたこと、そして、それらが古いモノではないということだった。

 コンクリートの壁面にもスプレーか何かで下手くそな鈎十字ハーケンクロイツ黒十字シュヴァルツェスクロイツが落書きされている。どうやらすでに近隣の若者や浮浪者がカリストに先んじて発見し利用していたのだろう。

「なあんだ~。ちょと残念~」

 落ちていたポルノ雑誌を手に取って見れば、発行年月は僅か数ヶ月前であった。カリストが期待したような「ヒミツの地下壕」などではなかったのだ。

「……おムネおっきいねえ……えへへ~♪」

 両手で顔を覆ってテレテレしながらも指の隙間からポルノ雑誌(と言ってもヌードグラビア主体のソフトな内容である)を鑑賞していたカリストであったが、ふと我に返って雑誌を手放し、室内をもう一度見回してみる。すでに人の手が入っているとはいえ、戦争の名残を遺す歴史的施設であることに変わりはない。まだ誰も見つけていない珍品が埋もれているかもしれないのだ。

『あ、あんたさ、成人向け雑誌なんか見ちゃって、な、なに考えてるのよっ!?』

「おムネのおっきなモデルさんが、いっぱいいっぱい載ってたよっ♪」

『……それだけ?』

「うん♪ カワイイ下着とか水着とか着てたねえ♪」

『あ、そう、ならイイんだけど(良かった、ソフトポルノね……)』

「でもねぇ、わたしと違って、おマタのとこが、こんなふうに……」

『ああ~!! イイのっ! もうイイんだってば! ヤメヤメ!!』

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