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KallistoDreamProject  作者: LOV
その3:共鳴しない娘、やがてすべてが一点に
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第11話

 ノラリクラリした遠回しなヴァレンタインの口ぶりに、イオは少しだけ苛立ちを覚えてくる。もっと突っ込んだ具体的な話を聞きたい、しかし、その一方で知るべきではない、聞くべきではないとも直感している。だが、それでもカリストを護るために問い詰めずにはいられなかった。

「それってどういうこと? カリストが外に出されたのは、会社にいても役に立たないから事実上の放逐じゃないか……って話を聞いたことがあるわ。使い途がないから、適当なデータ取りのために運用しているって。誰でも納得がいく理由よね。でも真実は違うってこと?」

「確かにカリストは性格的な理由から、組織の中で作業や任務を忠実に遂行する資質に欠けているけど、腐ってもバイオロイドなんだ、役に立たないからって野に放ってイイなんて安易な存在じゃないよ」

「そんなの当たり前よっ! あのコは役立たずでアタマの中は水浸しかもしれないけど、腐ってなんかいないわ……それに少しは誰かの役に立ってるかもしれないし、そ、その、いなくなっちゃったりしたら、わわわ私が、こここ困るっ……!?」

 どうにもイオはカリストへの好意を覆い隠し通すことができないものらしい。ヴァレンタインは照れくさそうに苦笑いする。

「だろうね」

「……何にしてもカリストが社外で独りで暮らしているのには正当な理由があるわけ?」

「君も判っているとは思うけど、バイオロイドは人間じゃない。人間のように“なんとなくそんな性格に育った”なんてことはない。多少の“揺らぎ”はあるにしても、バイオロイドはそうあるべくして“そんな性格”になるように設定されている。君がツンツンしてると見せかけてデレデレなのも、カリストがのんき者でホニャホニャしているのも、会社が設計した正式な仕様に基づいた、予定通りの性格付けなんだ」

 ヴァレンタインの言い草に思わず顔を赤くするイオ。照れ隠しに何か文句のひとつでも言いたかったが、ヴァレンタインの言っていることは一応は納得できるものであった。イオがツンツンしていると見せかけてデレデレなのかどうかは別にして、だが。

「何より、人間と明らかに異なるのはバイオロイドは明確な目的の下に製造されているってことだ。どこからともなく湧き出てきて漫然と生きて何も遺さずに死んでいく人間なんかとは違う。バイオロイドの存在にはハッキリした理由がある」

「私たちに肩入れしてくれるのは嬉しいけど……人間だって、誰でも何かしら存在する意義や理由があって生まれていると思うんだけど?」

「ん……君は本当に優しいね」

 イオの思わぬ反駁に、ヴァレンタインは自嘲的な笑顔で応えた。

「ガニメデもエウロパも君と変わらないと思うよ。会社の指示で動いているだけだし、別に悪いことをしようとしているワケじゃない。君と同じようにカリストのことが心配なんだと思う」

「そ、そりゃ、そうかもしれないけど……」

 カリストに対して「怪しめ」「信用するな」と警句を発しておきながら、結局はカリストと同様に同胞を心底から疑うことのできない自分自身に対して、イオは焦れた気持ちになる。偏愛的とさえ言えるほどに堅固な同胞愛という「プログラム」に支配されている限り、バイオロイドとはこういうものなのだろうか。

「君がカリストと共に生きることを半ば義務付けられているのと同じように、ガニメデやエウロパも自分らに課せられた義務を全うしようとしてるだけなんだよ、きっと」



 その頃、当のカリストはポツダム郊外の採石場跡のような荒れ地にいた。切り開かれた山野は、かつては赤土や岩肌が露出していたのだろうが、今は灌木が疎らに茂り、ヒョロヒョロした草がす棄てられた空き地のようになっている。

 なぜこんな場所を訪れたのかというと、聞いたハナシによると当地はかつてナチスドイツの兵器研究施設があり、野砲や対戦車砲の試射を行っていたということであった。よく観察すれば、確かにそれと覚しき朽ちたコンクリートの基礎跡や、戦車や装甲車両が通ったのではないかと思える幅の広いわだちの跡が見て取れた。

「ふぇ~……」

 それらを前にカリストは思わず感慨深い溜め息を吐く。

 戦後から今に至るまで長らく放置されていたというハナシだったので、何か面白いモノが見つかるかもしれないという軽い気持ちで来てはみたが、穢らわしくも栄光に満ちた(知っての通りカリストはナチスの末裔である)ドイツの歴史を完膚無きまでに風化させた時間の流れの無情さに、カリストにしては珍しく少しばかりメランコリックな気分になってしまったのだ。

「……なんか面白いのあるかなぁ……?」

 もちろん兵器や弾薬(不発弾や埋設地雷も含む)の類は、とうの昔に撤去されてしまっているはずである。ポツダムから徒歩で来ることも可能な場所なので、その辺は神経質なまでに徹底されていた。しかし、宝探しというわけではないが、何かカリストのココロを躍らせるような「珍品」が眠っていそうな気配はあった。

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