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KallistoDreamProject  作者: LOV
その3:共鳴しない娘、やがてすべてが一点に
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第10話

 ヴァレンタインは運ばれてきたコーヒーには見向きもせずにタバコを取り出しクチにくわえると、イオを一瞥して喫煙の許可を求める。イオはテーブルの上に置かれた「全席禁煙」のプレートを指先で小突いて微笑を返した。22世紀のこんにち、洋の東西を問わずタバコを公共の場で吸うことは、それこそ全裸で人前を歩き回るくらい破廉恥な行為と見なされている。

 ヴァレンタインは苦笑いしてタバコを箱に戻し、それからようやくクチを開いた。

「……ガニメデもエウロパも会社に所属するバイオロイドだ」

「そんなことぐらい誰でも知ってるわよっ!」

 というか、現実的には「それしか知らない」のだが。

「もっと具体的な素性を知りたいのっ! どこに所属していて何をしているのか、どうして急にカリストに接触してきたのか、私たちと何か深い関係があるのか……そういうコトっ!」

「うーん」

 ヴァレンタインは困ったような浮かない顔だ。

「正直なところ、あんまり話したくないなあ」

「できることなら私だってあんたなんかに頼らずに自力で調べたかったわよっ!」

 強い語気でヴァレンタインから話を引き出そうとするイオではあったが、内心ではヴァレンタインに何らかの迷惑をかけてしまいそうで躊躇いを感じていた。自分の目的のために他者に迷惑をかけるのはイオの望むところではないし、これはイオの性格からして決してクチに出すことはないだろうが、ある程度までなら自身を顧みることなくカリストのためにイロイロと便宜を図ってくれるヴァレンタインの立場や身辺を案じてもいた。

「……でも、その口ぶりからすると何か知ってるのね?」

「うん、まあ……多少は」

 イオの強気なようでいて遠慮がちな投げかけもあってか、依然としてヴァレンタインの口調は重い。

「……私やカリストのために、あえて訊かない方がイイような内容……とか?」

「ん……それも多少はあるかもしれないけどね」

 そしてヴァレンタインは声を潜めて独り言のように呟く。

「……どうしてカリストだけが会社から離れて独り暮らしさせられている・・・・・・・のか……その辺の事情を考えてみたこと、ある?」

「え? そんなの……」

 カリストが気ままに独り暮らししているということはイオにとって当たり前すぎて、そんなことを考えたことなどなかった。カリストは自分とは違って、世の中に出て、いろんな物事を身近に感じながら、好き勝手に思うままに生きていくのが「仕事」なのだと、それが当たり前のことと感じていた。

 しかし、ヴァレンタインに改めて言われてみれば、少し奇妙というか、不合理な点もあるにはあった。

 この数ヶ月間、カリストは何度か危ない目に遭っているのに、会社は何も対策を図ろうともせずにいる。一時的にでも会社で匿うという姑息的手段すら講じず、カリストと一緒に生活するという最も確実そうなイオの提案も(余計なことは考えるなと言わんばかりに)反射的に却下したくらいなのだ。

 また、人間社会に適応して生きていくという大層な「お題目」は掲げられていたが、それに対する具体的なデータ収集やフィードバックが行われている形跡が感じられない。イオは毎日のようにカリストと定時連絡を取り合ってはいたが、それは単なる雑談や少々恥ずかしい会話に終始すること例によって例のごとくである。

「君も感じているとは思うけど、あのコは自由闊達で、そういうのが性に合ってるのは間違いないとは思う。コミュニーケーション能力があって、人間社会で平和的に生活するための資質に富んでるし、それこそ、ヘタな人間なんかよりもよっぽど環境に順応している……ちょっとオヒトヨシ過ぎるところはあるけどね」

「え、ええ、まぁ……何というか……私もそう思う……」

 余りにも益体のなさ過ぎるカリストの暮らしぶりを思い出し、イオは何だかヴァレンタインにすら申し訳なく思えてくる。そんなイオの心中を察してか、ヴァレンタインは「まぁまぁ」といった感じで手をヒラヒラさせて話を続けた。

「君とカリストは、ほとんど同時期に創られた姉妹機だよね。性格は全然違うけど、性能もほぼ同じだ」

「まあ、そういうことになってるわ……どう考えても私の方が優れているけどねっ!? ……見た目以外は」

「じゃあ、どうしてカリストが外に出て、君が会社に残ったんだと思う? バイオロイドとはいえ、ひとりで生きていくには社外は何かと危険も多い。なのに、意志が強くて根性のある君じゃなく、よりにもよってオヒトヨシでフワフワしているカリストがひとりで暮らすことになったんだろう? 何がふたりの進路の違いを決定付けたんだろう?」

 ヴァレンタインは明らかに真実を知っている……あるいは、それに近い場所にいる。相変わらずヴァレンタインの口調も態度も穏やかなものであったが、その裏にはイオが計り知ることのできない「何か」が見え隠れしているのだ。

 ヴァレンタインに悪意がないのは判ってはいたが、まるで圧迫面接でも受けているかのようだった。イオは忙しなく視線を泳がせながら、しどろもどろに応じるので精一杯だった。

「そ、それは……カリストの方が人間社会に溶け込みやすいっていうか、人畜無害っていうか……」

「君だって充分に社会に適応できるよ。元々、そういう風に創られているんだからね」


「……わたしの出番が少なくなってきてるねぇ♪」

『会話パートだも、仕方ないでしょっ!? 私だって変態に逆尋問みたいのされるのは気分が良くないわよっ!』

「そっかなぁ♪ ヴァレンタインとオハナシできて羨ましいけどなぁ♪」

『だいたい、あんたさ、なんで出番がないのに嬉しそうなのよっ!?』

「んう? えへへ~♪ わたしがいないトコロだと、イオってば、わたしのことイロイロ褒めてくれるんだも~♪」

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