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KallistoDreamProject  作者: LOV
その3:共鳴しない娘、やがてすべてが一点に
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第9話

 あくる日、さっそくイオはガニメデとエウロパに関する調査を開始した。身内であるふたりの近辺調査をしたことをカリストが知ったら悲しむだろうし、イオ自身も気分の良いことではなかったが、会社が何を考えているのか判らない以上、可能な限り素性を知っておきたかったのだ。

 だが「素性」などと改めて言うと、まったく奇妙なハナシではある。カリストに言われるまでもなく、ガニメデもエウロパも、カリストやイオと同様にアストラル技研で創られた血を分けた同胞バイオロイドなのだ。その一事でもって素性など調べるまでもないはずなのだが、表面を通り一辺倒に調査した程度では何ひとつ判り得ない。それがアストラル技研という会社なのである。

 会社の公開データベースを「合法的な手段」で洗い出してみたが、イオが知り得たのは「ガニメデやエウロパというバイオロイドが存在している」程度の、どうしようもない事実だけであった。

「……どこに所属しているのか、それすら判らない! むこうは私やカリストのことをそれなりに把握しているってのに、なんかフェアじゃないわよっ!」

 ボヤきながら端末を操作するイオであったが、「合法的な手段」で調べることができないなら「非合法的な手段」に訴えるしかない。清廉な性質のイオは裏道を行くような手口は好きではないのだが、早々と手詰まりしてしまったため、致し方のないことだった。


 とは言え、社内にあって特に強い権限や特権を持たされているわけではないイオには、これといったコネや情報ルートがあるわけでもなく、かと言って会社の秘匿された情報やデータベースを独力で探るような馬力までは持っていない。

「……うーん……何をどうやって調べればイイんだろう……」

 ひとしきり悩みあぐねた結果、そういう事情に詳しそうで、かつ、イオに協力してくれそうな人物がひとりだけいることを思い出した。

「そうだ……あの変態さんヴァレンタインなら……」

 ここ最近は姿を見ないし、居場所はもちろん連絡をとる手段さえも判らないのだが、ヴァレンタインなら何か知っている、あるいは探り出す手段を持っていそうな気がする。それに今までがそうだったように、何よりカリストを護るためなら無条件で手を差し伸べてくれるという確信めいた予感がある。

 そうと決まったら、さっそくイオは例によってブランデンブルク門のあるパリ広場へ向かったのだった。



 平日の正午過ぎのパリ広場は、いつもと同様に各国から訪れた多くの観光客で占められている。行き交う人々を横目に見ながら、例によって広場の一角にあるオープンカフェでイオはヴァレンタインの到来を待つことにした。選択肢は無い、ただヴァレンタインを信じて待つしかない。

「はあ!? なんで私があの変態を信じなきゃならないワケっ!?」

 そんな「ひとりツッコミ」を呟いてみたが、ヴァレンタインが現れてくれなければ、そして何か有益な働きかけをしてくれなければ、エウロパやガニメデに関する調査は打ち切りになってしまう。

 いや、何もエウロパやガニメデそのものを調査したいわけではない。イオだって会社のバイオロイドなのだ……同胞に対する想いはカリストと同じだ。できることなら怪しみたくないし、「シロ」であってほしい。何よりカリストを悲しませたくない。エウロパやガニメデが潔白であり、愛すべき同胞であることを証明するために調査するのだ……と、自分を納得させるより他ないのだった。


 カフェで紅茶を啜りながらヤキモキした気分でヴァレンタインの到来を待ち続けたイオであったが、その慎ましやかな願いが届いたのか、小一時間ばかりした頃、いつものように唐突にヴァレンタインが現れた。

「やあ、待った?」

「……待ったわよっ! どうせ来るならさっさと来なさいよっ!?」

 気兼ねするでもなく妙に朗々とした様子で笑っているヴァレンタインに憎まれ口を叩くイオ。ヴァレンタインは勧められるまでもなくイオの対面に座り、近くを通りかかったウエイターにコーヒーを注文する。

「ゴメンゴメン、できるだけ急いで来たんだけどさ……ちょっと久しぶりだね、寂しかった?」

「あんたねえ……前から思ってたんだけど、なんでそんなに馴れ馴れしいのよっ!?」

 つれない素振りで捲くし立てるイオではあったが、内心では願ったとおりに姿を見せてくれたヴァレンタインの存在が何より頼もしく、ちょっとだけ泣きそうになった。そんなイオの心中を知ってか知らずか、ヴァレンタインは少しだけ照れたように笑顔で肩を竦めて見せる。

「まあ、それはさておき……何か困りごとでも?」

「ん、あ……ええ……それは……」

 よくよく考えたらヴァレンタインが「何に属する人間」なのかイオは知らなかった。原則的に存在が秘匿されているガニメデやエウロパのことを、易々と語って良いものか今さらながら逡巡する。

 しかし、すでにヴァレンタインは織り込み済みのようであった。

「……アレかい? ガニメデとエウロパのことかい?」

「! ……え、ええ」

 もはや隠し立てできるようなことはない。どういう仕組になっているのかイオには及びも付かないことではあったが、やはりヴァレンタインに頼るほかないのだった。

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